天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第73話 違和感の原因。


ーーーーーー


ーー俺は、過去にこの山を越え、ある屈強な兵士に助けられた。


  その男は、この世界などまだ全く理解していなかった時、俺に多くの事を教えてくれた。

  その時の俺は少しでも転移の理由を知りたかった。

  何よりも、この世界を救いたくて、ある少女と共にこの国の中心を目指した。

  彼は、その為に必要な物を用意してくれた。

  旅に出る時には、ルビーのペンダントを貰った。

  それは、俺達にとっての心の拠り所となった。


ーー俺はいつか、彼にお礼をしたかった。


  そんな風に思っていた。


ーーだからこそ、今目の前にいる彼の姿を見ると、哀しい気持ちにさせられる。


  自分を忘れ、感情も失い、只の『兵器』として動いている彼に対して......。

  俺は、そんな彼の剣に込める力が強くなる度に現実を突きつけられる。


ーー彼は俺を殺そうとしていると言う現実を......。


ーーそれと比例する様にして、俺は涙を堪えるのであった......。


ーーーーーー

  グリンデルは俺と相変わらず剣を交えている。

  どれくらいの時間が経ったかはわからない。

  だが、その力は時間を追うごとに強くなっている気がする。

  その余りにも強大な腕力を前にして、俺は抑える事しか出来なくなっていた。


ーーそして俺が耐えきれなくなった時、彼は剣を思い切り振り下ろすのであった。


  それに対して俺は慌ててその場から離れた。

  同時に爆音が響き渡る。


ーーすると、先程まで俺がいた地面には見事なまでの風穴が空いていた。


  俺はそれを見た時、一瞬だけ戦慄を覚えた。

  だが、戦っている中で、一つ気になる事がある。


ーーこれだけの力を有しているのならば、何故あの時『スケアリー・ドラゴン』を倒す事が出来なかったのであろうか......。


  それに、派兵の件に関しても、先回りする様にして麓で待っていたのも甚だおかしな話だ......。

  俺はそんな疑問を抱きつつも、間髪を入れずに斬撃を放ってくる彼の攻撃を回避していた。

  俺はそれに負けぬ様、風の『異能』を放つ。


ーーだがグリンデルは、そんな俺の攻撃をまるで予測していたかの様に避けて行く。


俺はそんな彼に対して更なる疑問を抱いた。


ーー何故、ここまで俺の取る動きが分かるのだ......。


  そう考えているうちに、俺はある事に気がついてしまった。

「もしかして......。」


ーーそんな時、背後で部隊と戦っている敵軍から声が聞こえた。


「聖騎士が来る前に、早く倒してしまえ!! 」

  俺はその言葉を聞いた時、疑惑が確信に変わった......。

  グリンデルは俺と出会った時、もう既に『ヘリスタディ帝国』に操られていた事に......。


  俺と出会った時から、敵軍によって操られていたグリンデルに戦争のきっかけを作る為、あえて献身的な振る舞いをさせていたのであろう。


ーーその事実を気づかせぬ為に......。


  それを証拠づけるのは、何の疑いもなく受け取ったルビーのペンダント。

  よく考えると、幾ら恩人とはいえ、見ず知らずの旅人に軍の備品を渡すのは余りにも不自然だ。


ーーそれに、俺がグリンデルに報告を続ける度に、敵国は不穏な動きを繰り返していたと言う。


  それは奇しくも、大切にしていたマジックアイテムにより全て敵国に知れ渡る。

  だからこそ、俺達の行動は全て筒抜けになっていた。

  その中で俺の癖や、性格、戦い方などを分析していて、行動の予測が取りやすくなっているのだ。


ーーそうでなかったら、俺の『結界』も、風の『異能』だって、あそこまで簡単に回避のしようが無い......。


  そして多分、今もキュアリスが使っているペンダントから情報は流れ続けている。


  森山葉月が彼女の動きを知っていた辺り、連絡を取り続けている事は如実であったから......。

  だが、グリンデルとの連絡が途絶えた事を考えると、他にも差し金がいるのだろう......。


  俺はそれに対して危機感を感じた。


ーー早く、森山葉月に伝えねば......。


  俺はそう考えるとポケットからマジックアイテムを取り出そうとした。

  しかし、俺がその仕草を見せた途端、グリンデルは勢いを強めて俺に詰め寄って、再び剣を振り下ろした。

  まるで気づいてしまった俺を根絶やしにしようとしているかの様に......。


  俺はそれに回避を続けた。


ーー全てを信じられなくなりそうな気持ちの中で......。


  だが、彼のそんな仕草をひとつ見る度に、俺は物思いにふける。


ーーもし仮にグリンデルが正気を取り戻したとしても、俺の事など覚えていないのだから......。


  全てを信用して、恩だって感じる程に信頼していたグリンデルが虚像であった事への失望......。

  騙されてしまった自分の浅はかさ......。
  
  俺はそんな気持ちでグリンデルを見ていると、憎悪にも似た感情が湧き上がってきた。


ーーこの感情は、グリンデルに向けたものなのか、『ヘリスタディ帝国』に対するものなのか、自分への物なのか......。


  それは、分からなかった。


ーーだが、そんな気持ちに支配されれば支配される程に、俺の体は疼き始める。


  気がつくと、俺の体は自然に火のオーラで埋め尽くされて行った。

  そして俺は、風によって空へと舞い上がって行った。

  それを追撃する様にしてやって来るグリンデル......。

「こんな茶番劇もう終わらせてやるよ......。」

  俺はそう呟くと、握っていた火の刀をグリンデルに向けて思い切り振り下ろした。


ーーすると、俺の切った刀の先からは、風と火の混在とする大規模な斬撃が繰り出された。


  それを抑えようとするグリンデル......。


ーーだが、その余りにも現実離れした大きさの斬撃にグリンデルは太刀打ちする事が出来ず、思い切り地面へと堕ちていったのだった。

  
その斬撃は、グリンデルを通過した後も止まる事を知らず、奥に控える魔法使いすらも一網打尽にした。

  そして、轟音と共に『メルパルク山脈』へとぶつかった時、まるで海を二つに分けるかの様にして、深くまで地面は抉れていたのだった......。


  俺はその一振りを終えると、静かに地面へと降り立った。

  そのまま虫の息になっているグリンデルの前に立つ。

  そして、再び刀を振り上げ、大声で叫んだ。

「ふざけんじゃねぇぞ!! 」


ーーだが、そんな時だった。


  俺が振り下ろそうとしたグリンデルの手前には、土の『異能』が現れたのである。

  それを見ると、俺は後ろを振り返った。


ーーすると、そこには涙目になった桜が俺を見ていた。


「雄二、その人を助けるって言ってたじゃん......? 」

  俺はその言葉を聞くと、ハッと我に返った。

  今、グリンデルの事を殺そうとしていた。

  その事実を前に、自分の中に潜む負の感情に俺は一瞬負けかけた事に気がつくのであった......。


  俺はそんな自分に怒りを感じつつ、倒れているグリンデルに目をやった。


ーーもう何も話せない程に衰弱した彼を......。


  そんなグリンデルを背負い込むと、すっかり相手を倒し切っていた桜や部隊の待つ『結界』へと戻って行くのであった。

  桜、本当にありがとう......。

  俺は一瞬、大切な事を見失う所だったよ......。


ーー例え相手が覚えていなくても、彼が俺に良くしてくれた事だけは変わらない。


  そんな風に自分を戒めるのであった......。すっかりと片付いた山の麓にて......。


俺はその先の山の中腹を睨みながら、グリンデルの身を案じるのであった......。

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