天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第71話 軍士長の経緯。


ーーーーーー

  森山葉月は思い出していた。ーー


ーー「先日、以前話した佐山雄二殿が『ヘリスタディ帝国』のランドリー・シェムを倒したという報告を受けました。やはり、最近相次いでいる連日の誘拐事件は、どうやらその国が原因だったと考えられます......。」

  彼女はその報告を受けると、一目散にヘベレスシティへと足を運んだ。

  ヘベレスシティに到着し、彼からは詳しい話を聞く為、と共にこれからの思案を協議したいからである。

「話は全て聞いた。それで、メルパルク山脈における状況はどうなっていますか? 」

  森山葉月はグリンデルに向けて近況を確認する為にそう問いかけた。

  すると、グリンデルは狐につままれた様な表情をした後でこう答える。

「軍帥殿、あれから二度ほど調査に行ったのですが、どうもあそこに行くと時間感覚をおかしくなってしまうのです......。何らかの『魔法』の作用である事は間違いないのですが、対策は取っているのですが......。」

  森山葉月はそれを聞くと、危機感を覚えた。


ーーグリンデルは『軍士長』の名を持つ腕利きの兵士。


ーーそんな彼が、『魔法』に左右される程、手を抜く訳がない......。


  彼女はそう考えると、『ヘリスタディ帝国』に対する危機感を募らせた。

  するとグリンデルは、彼女に気になる指摘をした。

「それにしても佐山雄二殿は、『ランドリー・シェム』との戦いの際、『魔法』を自然と打ち消したとの事でした......。彼の口振りから察するに、どうやらその存在すらも知らない様子で......。」


ーーそれを聞くと、森山葉月は驚いた。


  あの時だけは、尾行させていた密偵が彼らを見失ってしまっていた。

  その時にランドリー・シェムと戦っていたとの事だった。


ーーだが、『魔法』の存在を知らずに打ち消すなど、神話でしか聞いた事がない......。


ーーだとすると......。


  そう考えると彼女は、佐山雄二という男に更なる可能性を見出した。


ーーもし彼が、我が軍に入ってくれたのならば、大きな戦力になる......。


  そこで、彼女は画策の道筋を立てる事にした。

  それと同時に、メルパルク山脈の一件に関しては、彼を派遣させる事が最優先であると考えた。

「そうでしたか......。それでは、これからの調査に関しては、あなた本人が行くのではなく、『魔法』に精通のある者を派遣させてください。」

  彼女は真剣な表情を崩す事なくグリンデルに伝える。


ーーあの場所は、危険だから......。


  今は彼の志願によって調査を行なっているが、今ここでグリンデルの身に何かが起こるとまずい......。

  下手をすれば戦争が起こりかねない。

  そんな森山葉月の発言に対してグリンデルは、少し浮かない顔をしながらも、受け入れた。

「分かりました。軍帥殿の言い付けならば......。」

  彼のその話を聞くと、森山葉月は安堵した。


ーー彼は力があるものの、感情で動いてしまう所があるから......。


  すっかりと話を終えた森山葉月は、これから佐山雄二を軍に勧誘する為の計画を練る為に、首都への帰途へと就くのであった。ーー


ーーーーーー

ーーだが、それから二週間程経過した時、『ヘベレス支部』から連絡があった。


  その話を聞いた時、彼女は凍りついた。


ーー「グリンデルさんが『メルパルク山脈』にて行方不明になりました......。もう五日ほど戻って来ません......。」


  残っていた部下の話によると、調査に行っていた諜報員は命の危機を感じたのか、グリンデルに向けて連絡をしたらしい。

  すると彼は、怒りの表情を浮かべながら、

「助けに行ってくる。」

と、周りの制止を振り切って行ってしまったのだそうだ。

  流石に『ヘベレス支部』の兵士達はグリンデルの強さを知っていた為、信用して送り出してしまったのだとか......。


ーーそれから彼は、戻ってくる事は無かったと......。


  彼女はそれが戦争のきっかけになってしまう事を危惧した。

  貴族の連中は、好戦的な者が多く、何かきっかけを探っている所だから......。

  ならば、極秘においてメルパルク山脈の一件は真っ先に終わらせねば......。

  彼女はそう考えると、すぐにでも佐山雄二を当てにしたい所であった。


ーー軍部の戦力を投入すると明るみになってしまうので......。


  そんな時、軍帥室のドアからノック音が聞こえた。

「失礼します。実は......。」ーー


ーーーーーー

  森山葉月はそんな事を思い出して深くため息をつく。

「何故、グリンデルにしても聖騎士にしても、私の考えた通りにならないのですか......。」

  彼女はそんな風に項垂れる。

  それに対してニルンドが薄ら笑いで答える。

「そうですね......。余りにも皆が感情的になり過ぎているのが懸念材料です。ですが、せめてもの救いが、佐山雄二さんの存在ですね。彼は、葉月さんの計画を、見事にこなしてくれています。」

  それを聞いた森山葉月は彼女の顔を見ながら再びため息をつく。

「それはそうなのですが、それ以上に心配なのは、キュアリスさんなんですよ......。彼女が参戦してしまう事は非常にまずいのです。あなたなら分かっているでしょう? 」

  森山葉月の話を聞いたニルンドは、真剣な表情に変わった。

「そこが問題ですね。だからこそ、この戦闘は彼女が到着する前に終わらせて欲しいです。いかんせんキュアリスさんは......。」

  そんな話をしながら、森山葉月は戦況が気になって仕方なくなるのであった......。


ーーーーーー

  俺達は今、劣勢になっている。

  魔法使いを気にする余り、自由に動ける敵軍の兵士や『異能』の使い手が一斉に応酬をかけて来ているからだ。


ーーそして何よりも厄介なのが、正気を失っているグリンデルだ。


  俺は、グリンデルの攻撃に対して防御の姿勢しか取れなくなっていた。


ーーそれは、俺の個人的な感情から来る物かもしれない。


  だが、彼だけはどうしても元に戻してあげないと考えているのであった。

  そう考える中で、背後で操る魔法使いを倒そうと、『異能』を用いて攻撃をしたりもするのだが、グリンデルの速さは俺の想像を遥かに超えていて、風により加速したとしても、それは全て打ち消されてしまっていた。


ーー多分これも、彼らの計画通りなのだろう......。


  俺の事を調べ尽くし、グリンデルに情が湧いている事も、傷つけられない事も分かっているのであろう。

  悔しい事にそれは見事なまでに当たっていて、そんな自分のぬるさを自覚していた。

  だが、どうしても俺は彼に向けて攻撃する事は出来なかった......。


ーーそんな時だった。


  彼の振り下ろした斬撃が、俺の目の前に勢い良く迫って来るのだった......。

  そのスピードは先程の数多の斬撃を遥かに上回っており、俺は風のオーラで回避しようとしたが、耐えきれずその場で爆発を起こして俺は倒れてしまった。


ーー急所は外したものの、傷だらけになった俺は、倒れ込みながらふと、後ろ向きな事を考える......。


  この状況ではまずい......。 やはりグリンデルを殺しにかかるしかないのでは......。
  
  俺はそう考えると、背後の戦況を気にした。

  部隊の面々も今は襲い来る敵軍の対応で手一杯になっている。

  この場で動くと、『結界』の効力から外れ、彼女達が『魔法』の作用によって更に悪循環をもたらす可能性がある......。


ーーどうすれば......。


  そんな時、俺の中に一つの案が思い浮かんだ。

  目の前では、グリンデルの攻撃を必死に抑えている桜がいる。

「雄二!! 大丈夫?! 」

  桜はそんな状況においても俺の心配をしてくれた。


ーーやはり打開するにはこれしかない......。


  俺はそう決め込むと、決意を固めて立ち上がり一歩踏み出すのであった。


ーーその時、俺は確信した。


ーーこれなら行ける。


  そう思うと、俺は相手の攻撃を抑えている桜に向かって耳元で囁いた。

  そして、その手段を桜に伝えると、俺は一目散にグリンデルの方へと走り出すのであった......。

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