天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第67話 あの世界とこの世界。


ーーーーーー

  作戦会議を終えた部隊の皆は、もう辺りが暗くなっているにも関わらず、明日に控えた戦争に向けて、宿舎の中庭にて自主的に訓練を行っていた。

  窓の外に見える皆が見せる、一人一人の真剣さから、俺は命を張ると言う意味について考えさせられていた。


ーー多分、自分の頭で考えているよりもずっと、死ぬと言う事は怖いのである......。


  だからこそ各々は自分を鼓舞し、気丈に振る舞う事で、その事実を無理矢理捻じ曲げているのだ......。

  俺だって死ぬのは怖い。

  それを象徴する様に、俺も皆が寝静まった頃に毎晩、訓練を続けているのだ。


ーー俺はここに来た時、死んでしまったと勘違いをしていた。


  いや、実際の所は本当に死んでしまったのかもしれない。

  何故なら未だにその事実が解明されていないのだから......。

  そんな時、俺は考えた。


ーーでは、もし仮に突然俺が元の世界から体ごと消えてしまっていたとしたら、あちらではどの様な事になるのであろうか......。


  まあ、十中八九が行方不明という形になるであろうか......。


  どちらにせよ、あちらの世界で死んでしまったのならば、この世界は死後の世界という事になる。

  おれはそんな風に戦争を前にしているにも関わらず、不謹慎にもこの世界の謎についてふと、考えてしまうのであった......。


ーーだが、それよりも俺が一番不思議に思う事がある。


  それは、最近ごく稀に思い出す事のある見知らぬ男の事だ。


  その男は全く身に覚えが無いのに、思い出す度に心が休まって行く気持ちになる。


ーーもしかしたら、その事案も転移に関係しているのかもしれない......。


  俺はそんな風に難しく考えるのであった。

  そんな時、俺の隣で外を見ている桜が、不安そうに質問をした。

「どうして難しい顔をしているの......? 」

  俺はそんな彼女の口調を聞くと、スッと我に返った。

  その後で、桜には何もかも見透かされそうな気持ちになったので、正直に思っていた事を伝えた。

「ふと、元の世界の事を考えていたんだ......。俺っていつの間にかこの世界に来ていたからさ......。」

  俺がそう彼女に呟くと、桜は何かを思い出した様な顔をした。

「そういえば、昔パパも同じ様な事を言っていたよ! 何で来たのかは分からないって! 」

  俺は桜の話を聞くと、何となく、どの『異世界人』もそれを見つけ出せぬままに生活してるのでは、と言う仮説を立てたのであった。


ーーすると桜は気になる事を口にした。


「でもパパ、一度だけこの世界で仲の良かったお友達と会った事があるだって!! 」

  俺はその言葉に少し思う事があった。


ーー幾ら偶然にしても、友人も転移してくるなど、どんな確率だよと......。


  桜はそれに続ける。

「でも最初に声をかけた時は、そのお友達、パパの事を全然覚えていなかったんだって......。その後いろいろと話してやっと思い出したらしいんだけどさ......。」


ーーそんな彼女の発言に俺の中の謎は更に深まるばかりであった......。


  普通は親友の事など忘れるものか......?

  俺はそんな疑問を抱いたが、それに関しては一度置いておく事にした。

  その後で、一番気になる事を桜に質問した。

「ちなみになんだが、パパってなんて言う場所から来たかとか、聞いた事あるか......? 」

  俺の深刻な表情での問いかけに対して桜は口元に指を立てて上を向いて思い出していた。

「うーん......。聞いたことあるよ。確か......。」


ーー俺はその街の名前を聞いて、耳を疑った。


  それはまさに、俺の住んでいる地域であったからだ......。


  それに気がつくと、俺は桜の両肩を強く掴んで、脅迫じみた口調で問い詰めた。

「それって、海が近くて、坂道の多い、大きな都市だよな?! 」

  俺がそう迫ると桜は、驚きながら、

「い、いきなりどうしたの?! それ以上の事は知らないよ!! 」

と、突然の出来事に怯えていた。

  俺はそんな桜の表情を見ると、慌てて腕を解いた。


ーーどうやら、あの街に住む人間がこちらに転移するのかもしれない......。


  そんな風に憶測を立てるのであった......。


ーーそんな時、ふと外から声が聞こえる。


「隊長殿ー!!!!」

  その声の先に目をやると、リュイが俺に向かって手を振っている。

  その後で、

「明日の戦での配置のチェックをして欲しいのですが、宜しかったら見て頂けませんか?」

と、俺に中庭へ来る様に促した。

  俺はそれを了承すると立ち上がった。

「さっきは突然熱くなってすまなかったな......。戦争を前に変な事を考えてしまった様だよ。」

  俺がそう桜に謝罪を述べると、彼女は不安そうな顔をして、

「それは全然大丈夫なんだけど......。雄二、もし戻れるとしたなら、元の世界に帰りたいと思うの......? 」

と、俺に上目遣いで呟いた。

  そんな桜に俺は、真剣な表情で、

「そんな訳ないだろ。まだ戦争も終わっていないし、キュアリスだって助けていない。」

と、答えた。

  すると桜は、更に質問を続ける。

「じゃあ、全部終わったとしたら......? 」


ーーそんな問いかけをする桜の表情は、まさに今にも泣きそうな程に弱いものであった。


  まるで、『もう、ひとりにしないで』とでも言いたい程に......。
  
  そんな彼女の気持ちを理解した俺は、桜の頭を撫でた後で、

「お前を残して帰れる訳がないだろう......。」

と、呟いた。

  俺の言葉を聞いた桜は、笑顔に戻った後で、

「良かった......。これからもずっと一緒に居てね。」

と、明るく口にした。


ーーそんな時、俺はふと、妙な事を考えてしまった。


  それは、今まで一度も考えた事のなかった事だ......。

  今考えるには余りにも傲慢な事かもしれないが、もし、何もかもが上手く行ったとしたら、その時、俺はどうするのだろうかと......。

  俺はこの世界の心優しい人々と接する事で、自分に足りなかった所を沢山教えてもらった。

  考えたくはなかったのだが、その度にいつも何処かで『もし仮に元の世界に戻れたとしたら、次はここを直そう』などと、思ってしまっていたのは事実だ。

  まずそもそもが、帰り方どころか、何故この世界にやって来たのかも分からないくせに......。


ーーだが、それは考える事すらも、桜やキュアリスに対する裏切りになるのでは、と、常日頃思っていた。


  だからこそ、ずっと元の世界についての詮索は放棄していたのである。


  そんな事を考えていると、再び外からリュイの声が聞こえる。

「早くしてくださいよー! 隊長!! 」

  俺は彼女の声を聞くと、戦争前の佳境にも関わらず、いつまでも余計な事を考えている自分を心から恥じた。

  そんな話、今はどうでもいいじゃないか......。

  これから命懸けの戦争があるんだぞ......。

  もしかしたら、俺自身が一番戦争への現実逃避をしていたのかもしれない。

  それに気がつくと、俺は気持ちを切り替えた後で、桜の手をしっかりと握って部屋を出て行く。


ーーこれから俺は、元の世界の、故郷の人間達と戦うんだ......。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    話の流れが遅すぎて飽きてきたʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ

    0
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