天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第65話 あなたへの想い。


ーーーーーー


「この街に来るのは、あれ以来だなぁ......」

  キュアリスは夕暮れ時に、その場所を懐かしむ。

  過去に何度もこの街に訪れた。

  『聖騎士』を辞め、たった一人であの村に住む事になってからは、その回数が増えた。

  だが、街を幾ら訪れても、道行く人と関わる事は決して無かった。

  当たり前ではあるのだが、青果店だって、肉屋だって、洋服店だって、皆、接客として彼女に接していた。

  そこに情という概念は一つもない。

  そんな事は、彼女は重々承知していた。

  でも、いつも何処かで心の拠り所を探していた。

  周りで歩いている家族の幸せな雰囲気を見かけると、微笑ましい反面、嫉妬してしまう。

  私は、どうかしていたのかな......。


  そんな風に彼女は、その数年の自分を振り返っていた。

「でも......。」

  彼女は、この街へ最後に訪れた事を思い出す。

  それは、今までの状況とは全く違った。

  村の近辺の森で、ある少年と出会った。

  その出会いは、彼女の心の穴を確実に埋めて行ったである。

  何故あの時、彼に声を掛けたのかは、全く分からない。

  だが、初めて会った森の側で、彼のあの表情を見た時、彼女は人との距離を取る為の理性を完全に失ってしまったのだ......。


ーー何故か不思議と、少年が同じ様に孤独である事がすぐに分かった。


ーー今まで感じた事がない程の安心感を感じた。


  それから彼とこの街にやって来た。

  歩き慣れているはずの街は、全く違う景色にさえ思えた。


ーーまるで、モノクロだった絵に多くの彩りが付いた様に......。


  それから二人で色々な所を回った。

  短い時間ではあったが、それは、彼女の人生の中で、最も印象に残る事なのかもしれない......。

  そんな事を考えていると、彼女は気がついてしまった。


ーーこの人は、掛け替えのない大切な人である......。


  だからこそ、失いたくなかった。
 
  この街で別れを告げられた時は、藁にもすがる思いでかれを説得した。


  それは紛れもなく、彼女のわがままでしかない。迷惑であるかもしれない。

  でも、絶対に手を離したく無かった。

  そんな気持ちが彼女の心の奥を支配した。


ーーその思いが伝わったのか、彼からは旅での生命線とも言えるルビーのペンダントを託された。


  『聖騎士』をやっていた時に使い慣れている筈のマジックアイテムは、彼女にとって特別な宝物となった。


ーーあの時、彼はどんな事を考えていたのだろうか......。


  些細な事はすぐに分かるのに、肝心な事は全く分からない。

  そんな彼の真理を知りたかった。


ーー実はあの時、私のわがままに愛想を尽かしているのでは無かったのか......。

  そう考えた瞬間、物凄く心配になった。

  しかし、彼は優しかった。

  その後の旅の中で、絆も芽生えた。

  多分、それだけは本当の事だ。

  だからこそ、私は守りたい。

  こんなにも大切な人を守りたいと思うのは、生まれて初めてだったから......。


「ごめんなさい、雄二。もう少しだけ、私のわがままに付き合ってね......」


彼女はそんな事を考えた最後に首から下げたルビーのペンダントをぎゅっと両手で握りしめると、過去に雄二と宿泊をした思い出の宿にて、再び弱り切ってしまった体をベットの上に横たえる。


ーー明日には、必ず到着しなければ......。


  そう思いながら、その部屋の中で彼の姿を無意識に探しているのだった......。


ーーーーーー

  辺りが暗くなり始めている夕方、俺達の部隊は、明日に控えた開戦の為に、ポルから敵軍の状況を聞いていた。

「一昨日、先に我が軍の密偵を再び派遣したのですが、その時、相手の状況が少しばかり分かって来ました。」

  彼女はその状況について説明をした。

メルパルク山脈に控えている『ヘリスタディ帝国』の軍は、歩兵が千人程に、『異能』を用いると思われる部隊が数百人に、『魔法』に関する部隊が数十人、更には指揮官に異世界人がいるとの事だった。

  俺は、その圧倒的な人数の違いに驚きつつ、我が部隊の強さとの比較の中で勝算を導き出していた。

  真っ向から挑んでしまっては、勝算は一気に減ってしまうので......。

  だが、その後ポルは躊躇しながらも、気になる事を口にした。

「ですが、それとは別にかなり気をつけなければならない人が矢立駿ともう一人います......。」

  俺はそれに対して質問をした。


ーー矢立駿に関しては、もう既に聞いていたので分かってはいたが、それ以外にも操られている者がいるのか......?


「それと言うのは、一体誰なんだ......?」

  俺のそんな質問に、彼女ははっきりと述べた。

「それは......。元ヘベレス支部の軍士長でありました、グリンデルさんです......。」

  俺はその名前を聞いた時に、強い悲しみと憤りを感じた。

  信じたくは無かったのだが、グリンデルは『ヘリスタディ帝国』によって操られていたのだ......。


  俺がそんな風に怒りを露わにしていると、ポルは質問を投げかけた。

「そこでなんですが、何故、この『ヘベレス支部』の長だけが『軍士長』と呼ばれているか、わかりますか......?」

  俺はその質問に対して、今まで通って来た街の支部を思い出した。


ーー確かに、フレンディアの長であるメローに関しては、『支部長』と言う呼び名で呼ばれていた。


  ポルによると、他の街にある支部においても例外なく、『支部長』と呼ばれるのが通説らしい。

「では、何故ここの街だけは『軍士長』なんだ......?」

  俺がそう質問をすると、彼女は下を向きながら答えた。

「この街は『首都リバイル』に次ぐ第二の都市なのです......。それでいて、隣国との防波堤と言う一面も持っています。なので、それ相応の兵士を派遣しなければならないのですよ。その長は、他の地域とは違い、大きな力を有していないと、多くの兵士を纏めきれません。なので......。」


ーー俺はその話を聞いた時に、全てを察した。


ーー要は、グリンデルは近隣の『支部長』とは違い、『軍士長』と言う名に相応しい強さを持っていると......。

  俺は、スケアリー・ドラゴンを倒した。
 
  それ自体がまずあり得ない話だったらしい。

  実際にグリンデルはヤツを仕留められなかった。


ーーしかし、グリンデルの強さが万が一、俺の予想を上回ったとしたら......。


  俺はそう考えると、少しだけ不安になった。

  だが、それよりも、俺は彼を助ける為に何をしたら良いかを優先する必要がある事を考えた。

  何よりも、矢立駿とグリンデルは俺たちを殺しに掛かって来るのだから......。


  そう思うと少しだけ切ない気持ちになりながらも、打ち合わせは続くのだった......。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    戦争の前なのに精神面が脆弱すぎて見てて哀れ

    0
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