天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第64話 動き出した時間。


ーーーーーー

  宿舎から支部の施設へと走った俺とミルトは、先程ポルがいた部屋の前にいた。

  ミルトは息を切らしながら俺にこう告げる。

「やっぱりやめようよ......。あっちだって迷惑だろうし......。」

  それに対して俺は、強気の口調で答えた。

「そんな簡単に諦めるな!! お前、これが最後かもしれないんだぞ!! 」

  俺がそう彼女を説得すると、彼女は小さく頷いた。

「そこまで言うのなら、頑張ってみるよ......。」


ーーそうだ。ミルト、その勇気を踏み出す事が、後悔をしない為の第一歩なんだぞ......。


  俺はそんな風に思うと、その場をソッと離れようとミルトから背を向けようとした。


ーーその時、彼女は顔を赤らめながら俯き、静かに口を開いた。


「その代わり......。」

  そう小さく呟くと、ミルトは俺の軍服の袖を摘んだ。

  俺は、その時、彼女が次に何を発するのかが全く理解出来なかった。

「私が勇気を出せなくなった時、励まして欲しいの......。だから、雄二も一緒に来て......。」


ーー俺はその言葉を聞くと、少しだけ照れてしまった。


「な、何を言っているんだよ......。これは、お前達姉妹の問題なんだから、俺がいたら場違いに決まっているじゃないか。」

  俺は、つぶらな瞳で俺を見上げるミルトから目を逸らしつつ、そう告げた。

  するとミルトは、涙目になって、俺にこう嘆願して来た。

「雄二じゃなかったら、お願いなんかしないよ......。本当に、側にいてくれるだけでいいから......。」

  俺はそれを聞くと、そんな彼女の健気なお願いに折れる形で、

「分かったよ。だけど、ちゃんとポルと話すんだぞ! 」

と、了承をするのだった。

  ミルトはそれに対して、笑顔になって、

「うん。言いたかった事、全部伝える! 」

と、明るい口調で言った。


ーー俺の袖を掴む彼女の手が震えているのを感じつつ......。


ーーそんな時、突然ドアが開いた。


「先程から、な、何か聞こえて来たんですけど......。」

  そのドアを開けた張本人は、ポルだったのである......。

  そんな突然の姉の登場にミルトは怯えつつ、俺の後ろに隠れるのだった。

  俺とミルトの姿を見たポルは、物凄く悲しい顔をしていた。


ーー俺は、そんなギクシャクとした姉妹関係に耐えられなくなった。


  そして、後ろに控えているミルトを無理矢理前に出した後で、

「ミルトがお前に話したい事があるらしい......。どうか、話を聞いてあげてくれないか......? 」

と、ポルに告げた。

  するとポルは、もう今にも泣きそうな表情を浮かべながらも、それを堪えて、

「じ、じゃあ、中へ入ってください......。」

と、俺とミルトに向けて催促するのであった......。


ーーーーーー

  ポルによって部屋の中へ入ってから、もう既に数十分が経過している。

  だが、未だにそこに会話はない。


ーーそんな永遠とも取れる静寂の中で、俺は息苦しさを感じていた。


  ミルトもポルも、お互いと目を合わせない様に下を向いたままで、話すきっかけを探っている様にも思えた。

「あの......。」

  まるで均衡を破る様にして話し始めたのは、ポルだった。

「ミ、ミルト、本当にごめんね......。私がもっとしっかりしていれば......。」

  彼女は弱々しくもハッキリとした口調でそう言った。

  ミルトはそんな謝罪の言葉を聞くと、一瞬ハッとした表情を浮かべた後で、目に沢山の涙を溜め込んでいた。

  それに対して、ポルは震え声で続ける。

「私は何度も自分を恨んだの......。あの日、馬車に乗り込むあなたを何故追いかけなかったのかと......。そんな無力な自分が悔しくて......。」


ーー俺は、彼女の口から出る懺悔とも取れる言葉の数々を聞くと、胸が痛くなった。


ーーポルにとって、ミルトは本当に大切な存在で、それを失った彼女は、心に深いトラウマを作っている事がすぐに分かったからだ......。


  その後もポルは、黙ったままのミルトに向け、それまでの行いを清算するかの様に謝り続ける。

「今日だってそうだよ......。私、ミルトを見た時に、何も話せなくなっちゃった。最初はちゃんと話そうと思って、無理矢理笑ってみたのに......。でも結局、ダメだったの......。それに結局、あなたを戦争に行かせてしまう事になってしまったし......。」

  ポルがそう言ったのを最後に、再び部屋の中は静寂に包まれた。


ーーそんな時、ミルトは俯きながら俺の袖をグッと掴んだ。

  そして、顔を上げた後で泣きながら叫んだ。

「もうやめて!! そんな言葉、聞きたくなかったよ!! 」

  彼女の表情は完全崩れていて、哀愁を感じる......。

  それを聞いたポルも、見る見る悲しそうな表情に変わって行った。

  だが、その後すぐに怒りにも似た顔に切り替わり、小さく呟いた。

「なんで......。」

  その後、先程のミルトの発言を掻き消すかの様に大きな声で怒鳴った。

「私が、どれだけあの日の事を悔やんでいたのか分かっているの?! あれからミルトに負けない様に一生懸命頑張った! ここまで来るのにどれだけ努力したのか分かる? それは、あなたの分も頑張らなきゃって思っていたからだよ?! なのに......。」

  その表情や声は、先程までのポルとはまるで別人の様だった......。



ーーそれを聞いた時、ポルは、ミルトという負い目を背負いながら、今日まで頑張ってきた事が分かった......。


ーー俺は、そんな彼女の苦しみや葛藤が垣間見えた様な気がしたのだった......。


  ミルトはそんな突然の出来事に、一瞬固まった。


ーーだが、頬から伝っている涙を拭いながら、微笑んだ。


「私は、一度だって姉ちゃんの事を恨んだ事なんて無かったよ......。だって、何度考えたって、大好きな姉ちゃんを嫌いになんかなれなかったんだもん......。」

  ミルトがそう呟くと、ポルの表情は完全に崩れた。

  そして、ミルトの元へ駆け寄り、思い切り抱きしめるのだった。

「ミルト......。本当にごめんね......。」

  それを聞いた彼女は、ポルに向けて、

「いいんだよ......。私こそ、ずっと心配かけちゃって本当にごめんね......。」

と、泣き笑いで答えるのだった。


ーーその光景を見て、俺は心から思った。


ーーあの時、怯えるミルトをここに連れて来て、本当に良かったと。


ーーこの戦争が終わったら、また笑顔で会話出来るといいな......。


ーーーーーー
 すっかりポルと和解したミルトは、その後止まってしまった時間を紡ぐ様にして会話を繰り返していた。

  そして、それがひと段落つくと、俺と共に一度宿舎へ戻る為に廊下を歩いていた。

「雄二、本当にありがとう。雄二がいなかったら多分、私は一番大事な一歩を踏み出せなかったと思う......。」

  彼女は笑顔で俺にそう言った。


ーー俺はそんなミルトの表情に、ホッと胸を撫で下ろすのであった。


「俺のおかげなんかじゃないよ。ミルトが自分でやった事だ。」

  俺がそう言うと、ミルトは謙遜していた。

「それにしても......。」

  俺はおもむろに彼女に口を開いた。

  そんな俺に対してミルトは、

「どうしたの......?」

と、不思議がっている。

  そんなミルトに俺はこう告げた。

「部屋に入る前のお前、凄く素直で良かったぞ。」


ーーそれを聞いたミルトは、その時の事を思い出した様で、途端に顔を真っ赤にした。


「そ、そんな事ないよ! べ、別にそんなに変わらなかったし! 」

  そう、あからさまに取り繕っていた。

  俺はその表情を見ると、笑った。

  ミルトは俺が笑っているのが気に入らない様で、

「なんで笑ってるの?! おかしいでしょ!! 」

と、相変わらず赤い顔で怒っていた。

  だが、その後、俺の目の前に立って、一つお辞儀をした。

「私、雄二に会えて良かった。今回は本当にありがとうございました。」


ーー俺はそれを聞くと、最高の笑顔でミルトの頭を撫でて、

「ちゃんと話せて、本当に良かったな!! 」

と、答えた。

  それを聞くとミルトは笑顔になって、走って部屋へと戻って行った。


ーー俺はそんな曇りの消えた彼女の背中を見ていたのであった......。


ーー後何時間かで戦争の打ち合わせが始まる。


  俺は、今あった暖かい出来事から気持ちを切り替えて、自分の部屋へと戻るのであった。

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