天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第63話 ミルトの過去。


ーーーーーー

  ポルからは館内の施設内部における説明があった。

  彼女は、恥ずかしがりながらもその説明を終えると、次の議題となる重要な話を、

「そ、それでは夕方から今回の戦争における概要の説明をします......。」

と、弱々しい口調で俺達へと告げた。


ーー妹であるはずのミルトとは、一度も目を合わせる事がなく......。


  俺はその様子に対して、何処か違和感を感じた。


ーー二人の間には、何か複雑な事でもあるのか......?


  そう思いながらも、一度用意された宿舎に荷物を置きに行くのであった......。


ーーーーーー

  『ヘベレス支部』が用意してくれた部屋へ辿り着くと、荷物を置いた後で、俺はソファに勢い良く腰を落とした。

  そして、俺はベットの上で跳ねている桜に向けて素朴な質問をしてみた。

「あのさあ......。桜からは、ミルトとポルの姉妹ってどう見えた?」

  それを聞いた桜は飛び跳ねる事を一度辞めて女の子座りになり、俺に答えた。

「なんか、姉妹なのに二人とも気を遣ってる感じがしたかな。まあ、殆ど喋ってなかったけど......。」

  俺はそれを聞くと、桜の見解に対して頷いた。

  確かに、その意見は一理あるかもしれない......。


ーー違う考え方を持っていたものの、桜も同じ様に二人の関係に違和感を覚えていたのか......。


  そんな風に俺が感心していると、ドアからノック音が聞こえた。

  それに対して俺が返事をすると、何故か申し訳無さそうな顔をしたミルトが中に入って来た。

「いきなりどうしたんだ......?」

  俺が間を取り持つ様にして彼女へ質問を投げかけると、彼女は少し顔を赤くしながら俺にこう答えた。

「さっきは雰囲気、ちょっと壊しちゃったかな、とか思ってさ......。」

  ミルトがそう口を開くと、俺は彼女がポルとの姉妹関係について話したくてやって来た事を察した。

「何か喋りたい事があって来たんだろ......? 聞くぞ......。」

  俺はそう言うと、テーブルを挟んだソファの対面に座る様に促した。

  するとミルトは苦笑いをしながらソファに腰掛けて、俺にこう呟いた。

「戦争を前にして話す事では無いんだけどさ......。」


ーー俺はその言葉を聞いた時、彼女の発言と逆の感情を抱いた。


  だが、それに関しては黙った後で、彼女の言葉を聞いた。

「実はね、私って親に捨てられた身なんだ。」

  彼女は短い言葉で衝撃的な事を言い放った。


ーーーーーー

ーー彼女の話によると、ミルトの家系は有力な貴族であったらしい。


  その中で、父である『キャンティ伯』と屋敷の使用人であり愛人でもあった女性との間に産まれたのがミルトであった。

  最初、『キャンティ伯』はその事実を世間から隠す為に、使用人が別の男性と関係を結んだという話にして、ミルトにもその事実は告げずに、屋敷の中で育っていたらしい。

  その時に、正妻との間に産まれていた二つ上の姉というのがポルだったらしい。

  ポルはミルトが産まれた事を誰よりも喜んでいた。

  そして二人は、仲良く毎日を過ごした。


ーーだが、ミルトには非凡な才能があった......。


  何をやっても姉であるポルよりも上手く行ってしまい、その差という物は、日が増すごとに顕著になって行った。

  そんなミルトに対してポルは常に褒め讃えてくれた。

  ミルトはそれが嬉しくて、更にやる気を出したと言う。

  しかし、それを面白く思わないのは、『キャンティ伯』の正妻である。

  建前上では使用人の子どもが、自分の娘よりも有能である事が悔しくて仕方がなかったらしい。

  その結果、正妻は使用人であるミルトの母に対して、執拗なまでの嫌がらせをした。

  その嫌がらせは、約二年にも及んだのである。

  最終的にミルトの母は、その苦しみに耐えられず、日に日にやつれて行って、最終的には自殺をしてしまった......。

  まだ十歳だったミルトは、母が死んでしまった事を、心から悲しんだ。


ーーそんな時、慰めてくれたのもまた、ポルだった。


  ミルトが気持ちのドン底に陥っている時も、何も言わずに抱きしめてくれた優しい姉......。


ーーしかし、ミルトはそんな優しい姉すらも、失ってしまう事になる......。


  それは使用人である母が亡くなって数日が経過した時だった。

  まだ気持ちの整理がついていない時に、ミルトは『キャンティ伯』の部屋へと呼び出された。

「すまないが、今まで黙っていた事がある......。実は、お前のお父さんは、俺なんだよ。」


ーー彼女はその言葉を聞いた時、混乱した。


ーーそして、そんな訳が無いと、脳内で否定し続けた。


ーー母を殺したあの女を黙認し続けた男が、実の父であるなんてあり得ないと......。


「そんな訳ない......。」

  ミルトは、歯ぎしりをしながらその事実から逃れる様に否定を繰り返した。

  だが、『キャンティ伯』は何を言っても、冷めた表情のままであった。

  そして彼は、ミルトの否定を制止する様にして、口を開いた。

「そこでなんだが、この事は世間にバレてはまずいのだよ。それに、もうお母さんはいない。だから、お前がここにいる時点で辻褄が合わなくなるんだ。申し訳ないのだが、この屋敷から出て行ってくれないか......? 」


ーー彼女はそれを聞いた時に、頭の中が真っ白になった。


ーー何も考える事が出来ずに、只、その場でしゃがみ込んだ。


  そんな彼女を見た『キャンティ伯』は、何一つ気にしていない様な顔をして、こう吐き捨てた。

「まあ、そういう事だから。部屋から居なくなってくれ......。」

  その言葉を最後に、彼女は呆然としたまま否定を繰り返した父の部屋から出て行った。

  次の日の朝、『キャンティ伯』に連れられて屋敷の門の前に行くと、一台の馬車と、凛とした表情の少女がいた。

「これからはこの少女が面倒を見るから、お利口にするんだぞ。」

  父は、如何にも厄介払いを終えた様な安堵の表情でミルトに告げる。


ーーその女性こそが、森山葉月だったのだ......。


  それを聞いたミルトは、何も話す事が出来ずに只、その女性について行ったのであった......。


ーーすると、馬車に乗る直前、外から叫び声が聞こえた。


「私はずっと、ミルトのお姉ちゃんであり続けるからね!! 」


ーーその声の主は、ポルだった......。


  ミルトはその声を聞くと、これが慕っていた姉と交わす最後である会話である事を自覚した。


ーーそんな事を考えていると、涙が止まらなくなった。


ーー大好きだった姉の顔すらも見れなかった。


  そして、そのまま目を合わせる事もなく、馬車の中へと入って行くのだった......。


ーーーーーー

  俺は、その話を聞いた時に、物凄く切ない気持ちにさせられた。


ーー森山葉月は彼女にとっての親代わりだったんだな......。


  それと同時に、自分の昔の状況がどれだけ甘かったのかを自覚させられた......。


ーーミルトの過去に比べたら、俺なんかどれだけ恵まれていたんだよ......。

  俺は、元いた世界の時、常日頃他人を猜疑心でしか見ていなかった。

  結局の所、自分から殻を作っていたからこそ、孤立して行ったんじゃないか......。


ーー結局分かっていると勝手に思い込んで、そんな滑稽な悲劇に酔いしれていただけじゃないか......。


  一瞬だけそんな風に考えていると、俺は自分が情けなくて仕方が無くなった。

  すると、ミルトは更に続けた。

「でもそんな時、私の心を支えてくれたのが、『初代聖騎士』なんだ。なんか、私と同い年くらいの女の子が勇敢に戦う姿が格好良くてさ......。」

  確かに彼女と初めて会ったのは、首都リバイルにある、その銅像の前だった。

「それから私は毎日の様にあそこに行っていたの。そうしたら、雄二と桜がいて......。なんかね、あの日二人を見た時、言葉では言い表せない感情が私の心を支配したの。雄二、物凄く悲しい顔をしていたから......。」


ーー俺はその時、全く自覚がなかった。

  キュアリスは必ず帰ってくると信じてはいたから......。

  だが、心の何処かで『二度と会えないのでは』と思っていたのかもしれない......。

  そんな不安をミルトは一瞬で見抜いていたのだ......。


  俺がそんな風に自分でも気づく事の出来なかった気持ちに俯いていると、彼女は、

「でも、それが『初代聖騎士さん』だったとは、思わなかったよ......。それに、たまたま見かけちゃっただけだけど、キュアリスさん、突飛して良い人だって分かったし!! 」

と、笑顔で俺に答えた。


ーー俺がキュアリスに別れを告げられた時、ミルトは桜と共にその経緯を見かけていた。


「でも、あの一瞬だけしか見てないなら、彼女が最低だと思っても仕方ないかと......。」

  俺がそう答えると、ミルトは疑問符が付いた様な表情になった後で、

「なんで? あんなに雄二の事を考えてくれているんだよ......? 葉月さんのおかげで後々気がついたみたいだけど、早く気がついてあげないと!! 」

と、ドヤ顔で言った。


ーー確かに、俺は鈍感だったのかもしれない......。


ーーあの時は、結局自分の事しか考えていなかったのだから......。


  俺はそんな自分が恥ずかしくなった後で、それを遮る様にしてミルトに言った。

「何かすっかり俺の話にすり替わっちゃってるけど、とりあえず、お前はポルとしっかり話した方が良い!! 」

  取り繕いながらも本題に戻すと、彼女は途端に切ない表情に切り替わって言った。

「それは、今更無理だよ......。姉ちゃんだって、ずっと私の事を負い目に感じちゃってるみたいだし......。」

  俺はそんな煮え切らないミルトにこう捲し立てた。

「何を言っているんだ!! お前、これから戦争に行くんだぞ!! 今和解しないで、いつするんだよ!! 」

  そう怒鳴りつけると、彼女は狐につままれた様な表情になり、俺を見つめていた。

  そして、俯いた後で、答える。

「でも、ちゃんとお喋り出来るかな......。」

  俺はそれに対して、根拠はないが、強気な口調でこう言った。

「そんな事はどうだって良いんだ!! お前は俺にとっても大切な存在なんだよ!! だから、モヤモヤしていて欲しくなんか無い!! そうと決まったら、今すぐ行くぞ!! 」

  そう言い切ると、俺は彼女の腕を掴んで部屋を出て行った。

  出て行く直前で、桜が微笑みながら、

「雄二はやっぱり、本当に優しいんだね......。」

と、呟いているのを聞いた。


ーーその言葉にハッとした。


  俺が変われたのは、この世界に来て、色々な人に出会ったからこそだ。

  一番変わった事。


ーーそれは、大切な人に悲しい思いをさせたく無いという感情が芽生えた事だ。

  だからこそ、ミルトを見逃せない。


ーーだって、俺は彼女の事を、物凄く大切に思っているのだから......。

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