天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第62話 思い出の地。

ーーーーーー

「はあはあ......。」

夕暮れ時、風の『異能』を駆使して空を飛んでいるキュアリスは、疲弊して草原の岩場にもたれ掛かっている。

  後少しで到着するのに、疲れと痛みから、全く体の自由が効かない状態なのである。

  彼女はそんな自分の体に苛立ちを覚える。悔しさを感じる。

「早くしないと......。始まってしまう......。」

  今にも消えてしまいそうな弱り切った口調で、彼女はそう呟いた。

  そんな時、岩場の裏方面から馬の足音と共に、聞き覚えのある男が聞こえてくる......。

「この草原の先に、『ヘベレスシティ』がある。その先には、目標の『メルパルク山脈』が見えて来るはずだ。みんな、気を引き締めて行こうな! 」

  彼女はその声を聞くと、必死に歯を食いしばった後で、垂れ下がった腕で地面を掴むと、重力に負ける程に動かなくなった体を無理矢理起こして立ち上がろうと試みた。


ーーだが、それは叶わぬ行為になる。


  それどころか、もがけばもがく程に、声すらも出なくなっていくのだ......。

  そんな自分の不甲斐なさに、歯ぎしりを強めるのであった......。


ーー何が、『聖騎士』だと......。


ーーーーーー

  草原へと辿り着いた俺と部隊は、後少しで目的の地へと到着する事に一度安心しつつ、馬の足を進めていた。


ーーだが、それと同時にこれから起こる戦闘が現実のものとして押し寄せる。


  だからこそ、部隊の言葉数は次第に減っていったのである。

  その最中で俺は、軍帥、森山葉月に一度連絡をした。

「後一日ほどで、『メルパルク山脈』に到着する模様だ。」

  俺がそう話しかけると、森山葉月はすぐに応答し、明るい口調で、

「それは良かったです。第一目標はこれでクリアになりますね......。」

と、安堵の声で答える。

  それに対して俺は、拳に力を込めて、

「ああ、長い様で短い旅だったよ。だが、これからが一番重要になってくる......。だから、気を引き締めて行くよ。」

と、これから起こる戦争への決意表明をした。

  俺の言葉を聞いた森山葉月は真剣な口調で、

「それは、いい心がけだと思います。では、これから一度、『ヘベレスシティ』の方へ向かってください。派遣の者を送っていますので、その方と最後の作戦会議の方をしてください。」

と、労いと共に、業務連絡を終えるのであった。


ーーそう、これからが大事なんだ......。今から本番なのだから......。


  俺はそう決め込むと、武者震いをするのだった......。

「じゃあ、一回『ヘベレスシティ』に行くんだね!! そこ昔、私が住んでいた時期がある街だから楽しみだな!! 」

  そんな能天気な口調で言葉を発したのは、ミルトだった。

  俺はそんなすぐ先に見える戦争を気にしていないと言わんばかりに明るい表情で馬を並走させているミルトに向けて、

「そうだったのか。でも、俺達は戦争をする為にやって来ているんだ。そこだけは忘れないでくれよ。」

と、彼女を正すのであった。

  それを聞いたリュイは、歓喜と尊敬が入り混じった様なテンションで詰め寄って来くると、

「流石は我が部隊の隊長様!! ミルト、そういう事なんだから、ちゃんと自覚なさい!!


などと、息巻いているのだった。

  そんなリュイの言葉に対して、ミルトはうんざりとした顔をしながら、

「わかってますよぉ......。」

と、いじけた顔をして口を尖らせ答えた。

  そんな二人の会話を聞いている桜は、優しく微笑みながら、こう呟く。

「二人とも仲良しさんだね。」

  俺は、桜がふと発したその言葉に少し思う事があった。

  訓練期間を通じて、おれにとって部隊のみんなは掛け替えが無い大切な存在となって行った事に.....。

  当たり前になってしまった日々の中で。


ーーだが、こんな時間はいつまで続くかもわからない。


  これから俺達が向かう先は、何よりも戦争なのだから。

  だから、再認識をさせられるのであった......。


  それに気づいた俺は、大きな声で笑う。

  それを聞いたミルトは、顔を真っ赤にして口を膨らませた後で、

「何がそんなに可笑しいの?! 変な人!! 」

と、まるで子どもの様な口調で怒っていた。


ーー俺はこの、『特殊異能部隊』のみんなが大好きだ。

  だからこそ、全て守ってみせる。

  キュアリスも桜も、部隊のみんなも。

  何にも変えがたいほどに大切な存在。

  それは、例え、俺の命と引き換えにしても......。


ーーーーーー

  ヘベレスシティの門前に到着すると、俺は数十年ぶりにやって来たかの様な錯覚に陥り、懐かしんだ。

  何を隠そう、ここは俺とキュアリスの初めて踏み入れた街であるからだ。

  グリンデルや、森山葉月と出会った場所でもある。

  俺の凍り切っていた心が暖められた街......。


  この街での思い出は、俺にとって格別で、今こうして門前に立つと、何か感慨深いものがあった。

  俺がそんな風に浸っていると、リュイが近寄って来て囁く。

「隊長殿。では、行きましょう......。」

  俺はそんなリュイの言葉を聞くと我に返り、皆に告げた。

「じゃあ、行くとしようか。」

  そう宣言すると、『ヘベレス支部』へと足を進めるのだった......。


ーーーーーー

  『ヘベレス支部』へと到着した俺達は、とりあえず守衛に話をして、中へと入るのだった。

  すると、俺達はある一室へと案内される。

  そして、そこへ行くと、一人の女性が待っていた。

「お、お久しぶりです......。佐山雄二さん。」

  その弱々しい声を発する女性の事を、俺は見た事がある。

  彼女は、キャロリール王女の秘書を務めていると聞いていた、『ポル』と言う少女だ。

  確かに森山葉月からは派遣の者を送っていると聞いていた。


ーーだが、何故それが王女の秘書なのだ......?


  俺はそんな彼女がここにいる事に、強い違和感を覚えた。

  すると、そんな俺の様子を見た彼女は、相変わらず消えそうな声で言葉を選びながら呆然とする俺に対してこんな事を言った。

「じ、実は私......。国王軍の副軍帥も兼任しておりますので......。」

  俺はそれを聞くと、妙な納得をするのだった。

  それにしても、秘書と副軍帥の掛け持ちなんて......。

  常にそばに居ないなど、秘書の意味がない気が......。


そんな風に思いながらも......。


ーーその時、後ろの方から叫び声が聞こえる。


「姉ちゃん?!」

  俺はその声に驚くと、慌てて振り返った。

  そしてあからさまに驚愕の声を上げた背後を振り返ると、叫び声の本人は、ミルトだった。

  空いた口が塞がらないミルトを見たポルは、微笑みながらこう口を開いた。

「久しぶりだね......。ミルト......。」

 
ーーミルトは今、姉ちゃんと確かに言った。


  つまり、彼女らは姉妹であるというのか?

  だが、一つだけ引っかかった。


ーーそれは、ポルが彼女を見て発した『久しぶり』と言う言葉である......。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    寄り道多いな、思った展開とちがったʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ

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