天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第61話 桜の墓参り。

ーーーーーー

  山を進む部隊の皆は、明るい口調での会話が飛び交う。

  それはまるで、何かの感情を包み隠す様に不自然なもので、滑稽な姿であった。

  リュイだって、普段の毅然とした態度とは一変して、桜のご機嫌を取る為に柄にもなくふざけた会話を繰り返す。

  他のみんなも、それに触発されるようにして笑顔を見せる。

  ハタから見れば、多分、これから戦争へ向かうなどとは思えないだろう......。

  しかし、その天邪鬼は何処か暖かさを感じさせ、桜への配慮を感じさせる。


ーー みんな、本当にありがとな......。


  俺は、その優しさに心からそう思うのだった......。

「それでね、雄二が居なくなった後も、メローちゃんはずっと遊んでくれてたんだよ!! 」

  桜は皆のそんな態度に対して、気を遣っているのか、明るく振る舞う。

  彼女は気づいているのだ。


  それを決定づける様に、『ソローリ村』についての事は一言も触れずに......。

  もう既に山を登り始めてから、数時間が経過していて、後少しでその地へとついてしまう......。

  俺は、それを考えると、息苦しい気持ちにさせられた。

  桜は、どんな顔をするんだろうか。

  頭で分かっていたとしても、そんな簡単には整理出来ない心の部分があるはずだ。


ーーそれならば、俺はその時、桜にどんな言葉を掛けてあげれば良いのだろうか......?


  脳内から溢れ出す葛藤や不安に俺が頭を悩ませているのをかき消す様にして、森の中で不自然に穴の空いた場所へと到着した。


  俺はその場所に到着した時、気がついてしまった。


ーーこの穴は、ランドリー・シェム彼らを殺戮した時に出来たものであり、それこそが『ソローリ村』である事に......。


  だが、俺がその村を見た時、以前とは全く違う光景が広がっていたのであった。

  何故ならば、散り散りに焼き尽くされ残っていた瓦礫は、どこを見渡しても無く、綺麗さっぱりなくなっていたからである......。

  その結果、殺風景な景色が目の前に広がっていて、その先には俺が作った柱で出来た墓だけが、存在感を示しながら建っていたのだ。

  もしかしたら、どこかの旅人がこの地に来て心を痛め、片付けたのかもしれない......。

  俺はそんな事を思いながらも、皮肉な程に気を遣い、一生懸命に喋っている桜の姿に心を痛めながらも、馬の足を止めてゆっくり振り返ると、一瞬だけ口元に力を込めた後で、こう告げたのであった。

「桜、到着したぞ。ここが、お前の故郷『ソローリ村』だ......」

  俺が神妙な面持ちでそう告げると、桜はそれまでの表情から一転して、悲壮感にも似た表情を見せると、馬からゆっくりと降りてこんな事を呟いた。

「桜の村、やっぱり、全部無くなっちゃったんだ......」

  呆然とした様子で一人、昔の面影が何も残らない村の方へと恐る恐る足を踏み入れるのであった......。

  俺はそんな桜の後ろ姿を見ると、居た堪れない気持ちになって、只、頭の中で延々と彼女への謝罪を続けた......。


  ーーもし俺が、もっと早くこの村に着いていればきっと、彼女は今もこの村で幸せに暮らしていたはずだ......。本当にごめん......。


  俺が罪悪感と、守れなかった自分への不甲斐なさを痛感している中、ふと、周囲からはすすり泣く声が聞こえる。

  それは、紛れもなく特殊異能部隊の面々の声であった。

  彼女達もまた、桜の心境を察している事がすぐに理解出来る。

  そんな周囲の様子に気がつく事なく、桜はゆっくりと墓の前へと向かうのだった......。


ーーそんな時、桜は何かに気がついた様で、勢い良く振り返ると、俺に声を掛けた。


「雄二、ちょっと来て!」

  俺は、墓前で呼びかける彼女の声に対して、慌てて馬から降りると、急いで桜の元へと掛けて行った。


ーーすると、そこには一つの黄色い花が手向けられていた。


  その花は、如何にも「一生懸命採りました」と言わんばかりに不器用にお墓へと手向けられていて、まだ萎れていない辺りが、この場所に来てまだそう時間が経っていない事を象徴しているのであった......。

  そして、俺はまるで「もう、悲しまないで 」と言わんばかりに明るい花を一輪手に取ると、ある事に気がついた。

「この花は......。」


ーー「私、本当にこの花が好きなの。良い匂いがするし、何よりもすごく綺麗な色だし!! 」ーー


  俺はそんな事を言っている一人の少女を思い出す。


ーーそれと同時に、全てを理解したのであった。


「キュアリス......。」

  ここの瓦礫を綺麗に片付けたのも、悲劇の中で亡くなっていった人々の為、墓前に花を手向けたのも、全て彼女がやってくれた事だったのだ......。

  きっと、血の匂いが漂う変わり果てたこの村を桜に見せたくなかったからであろう。


ーーたった一人の幼い少女が突きつけられるには、余りにも残酷な現実を......。


  俺はそれに気がつくと、右手に持っている花を桜へ静かに手渡した。
 
  それを受け取った桜は、墓を撫でながら、笑顔でこう言ったのだ。

「キュアリス......。パパとママ、みんなの為にわざわざ来てくれたんだね......。みんな幸せ者だよ......。」


ーーそう何度も何度も繰り返しながら、無理に堪える気持ちが彼女から伝わり、俺は心苦しくなった。


  その後、桜は墓前に向けて手をかざすと、色とりどりの花を『異能』によって咲かせ、墓を囲む様にして彩りを与えたのである。

  そして、すっかりそれが終わると両手を合わせて墓へと祈る......。

  それを見た俺も、彼女から一歩引いた形でお祈りをしながら、心の中で何度もこう呟いた......。

ーーお父さん、約束を守れなくてごめんなさい。桜は立派になりました。


  本当なら元気な姿を見せてあげたかったのですが......。

  でも、これだけは言わせてください。

  桜は、立派に育っています。

  ここに連れて来て、本当に良かった。

  これからも、桜の事を見守り続けてください......。ーー


ーーーーーー

  桜はすっかりお祈りを終えると、殺風景な村の方へ足を向けた。

「何もないんじゃ、寂しいもんね......。」

  桜はそう言うと、手から土の『異能』を出した。

  それは、見る見る内に家の形へと変化して行った。


ーーまるで、失ってしまった時間を逆行する様にして......。


  そして彼女がその作業を終えた時には、それまで何もなかった更地は、すっかりと立派な村へと変貌したのである。

  中央の広場を囲む様にして家々が立ち並び、煉瓦造りの入り口門なんかと綺麗に整っていた。

  家から少し離れた場所には、酪農をしていたであろう小屋があったりもした。


ーーきっとこれが、本来の『ソローリ村』のあるべき姿だったのだろう......。


  俺は、そう思いながら村を見渡していると、桜は涙を拭った後で笑顔になって、俺へとこう言ったのである。

「雄二!! これから桜の村を案内してあげるね!!  」

  その言葉を聞くと、一度部隊の方へと目をやった。

  すると皆、俺に向かって頷いてくれた。

  それを確認した俺は、桜の手を強く握って、

「じゃあ、これから桜の村を探検しようか」

と、精一杯に優しい口調で答えた。


ーーーーーー

  村の中に入ると、桜が昔遊んでいた場所や、友達と喧嘩した場所、犬に噛まれて泣いてしまった所など、思い出を語ってくれた。

  俺はその彼女から出る明るい口調の一つ一つを聞く度に、泣きそうになって、その気持ちをグッと堪えた。


ーー彼女から垣間見える、これまでの人生を思いなごらも......。

  そして、一軒の家の前で桜はピタッと足を止めたのである。


「ここが、桜とパパとママ、三人で暮らしてた家なんだ......。」

  その家は、周囲の家々と変わらない、一般的な家屋であった。

  俺は、それに対して明るい口調でこう返答した。

「そうなのか!! ここが桜の実家なんだな!! 」

  桜はその言葉を聞くと、

「いやっしゃい、雄二!! 」

と言って笑顔で中へ入る様に促した。

  俺はそれに頷いて、玄関のドアを開けた......。

「ここがね、いつもママが美味しい料理を作ってくれた場所なんだ!! 」

「それで、ここは、パパの特等席なの。いつも窓の外の景色をこーやって見ていたんだよ!! 」

  彼女は、その思い出を説明する度に、表情が歪んで行った。

「ここは......。」

  そしてついに、言葉が詰まり、その場で膝をついて泣き崩れたのだ......。

「パパ......。ママ......。本当にもういないんだね......」

  嗚咽を漏らして桜は泣きじゃくる。


ーーずっと抱えていた悲しみを全て吐き出す様にして......。


  俺はその時、どんな言葉をかけて良いのか分からなかった。

  だが俺は、頬からも伝っている涙を拭うと、何も言わずに桜をキツく抱きしめたのだった......。


ーー何も会話をする事もなく、只、ひたすらに......。


ーーーーーー

  すっかりと泣き疲れた俺達は、村の外で待っている部隊の元へと戻って行った。

  すると、話しづらそうにしながらも、ミルトが俺と桜に対して呟いた。

「ちゃんと挨拶出来て、本当に良かったね......。」

  それを聞いた桜は、泣きすぎて腫らした瞼をこすった後で、最高の笑顔になり、

「うん!! パパやママ、みんなも喜んでくれていると思う!! 本当に良かったよ!! 」

と、気丈に振る舞うのであった。


ーー桜、もっと泣きたいし、悲しいんだろう......。


ーー俺はそんな彼女の気持ちを考えると、より強い意志を持った。


  そして、桜はすっかり笑顔になると、村の門の前に走り出して行った。

  そして、ピタリと立ち止まった後で一つお辞儀をした。

「みんな、また会う日まで、さようなら。」

  彼女がそう言うと、俺と部隊の皆は、続ける様にしてお辞儀をした。

 そして桜が俺の方へ戻ってくると、

「じゃあ、日が沈む前に山を下るか。 」

と、笑顔で出発の宣言をした。

  それに対して皆は頷いて、馬に跨るのであった。


ーーふと、村を去ろうと背を向けた時、俺の耳元で、小さな声が聞こえた。


ーー「佐山雄二くん。娘をここに連れて来てくれて、本当にありがとう......。」ーー


  その声は、紛れもなくこの村で聴いた桜の父の声だった。


ーー多分、桜がこの村に来た時からずっと、離れず見守っていてくれてたのであろう......。


ーー世界中の誰よりも愛する娘の姿を......。


  俺はそんな事を考えていると涙を堪えるために上を向いた。

  そして、グッと体に力を入れた後で、

「出発だ!!!! 」

と、笑顔で伝えて『ソローリ村』を後にしたのである。


ーーお父さん、俺が必ず『ヘリスタディ帝国』を倒してみせます。


ーーもう、こんな悲劇が起こらぬ様に、桜の為にも、この国の為にも。


  そう固く決意して、俺は未来の為に戦う事を誓ったのである......。

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コメント

  • ペンギン

    感動回ですね!ありがとうございます!

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