天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第59話 自分を犠牲にしてでも。


ーーーーーー

  彼女は真夜中に空を自由に飛ぶ。

  それはまるで、自由に空を駆ける天馬の様に......。

  そんな中、彼女はふと、少し前の事を思い出す......。


ーー「あなたはいけません!!もう既に『特殊異能部隊』の方を派遣しております!!

  軍帥の甲高い否定の声が部屋一帯を支配する。

  それを遮る様に沸き起こる要人からの歓声。

「いいじゃないか。『聖騎士殿』が直々にそうおっしゃっておられるのだ。断る理由が無いではないか......。」

  恰幅の良い伯爵の一人はそんな事を言う。

  それに対して続けてほっそりとした体系の貴族はまるで打ち合わせがあったかの様にタイミング良く答える。

「キャンティ伯の言う通りでございます。この戦争において、失敗は絶対に許されないのです。第一、軍帥殿が発足したばかりの部隊に何故そこまで傾倒するのかわかりませんな......。あの『異世界人』が強いのは分かりますが、万が一、反旗を翻されては......。」

  そんな発言の応酬に森山葉月は返す言葉もなく、只、俯いている。


ーーそんな如何にも猜疑心しか感じられない空間に耐えられなくなった彼女は思わず叫んだ。


「彼はそんな人じゃない!!!!」


ーーあんなに傷ついて、優しい人なんていないのだから......。


  その言葉は周囲一帯を静寂に包み込んだ......。

  そして、彼女は続ける。

「葉月さん。さっきも言ったけど、私は『メルパルク山脈』へ行く。私が行けば、全てが丸く収まるんだから......。」

  それを聞いた貴族達は一斉に歓声を上げる。

  森山葉月はそんな空気感に諦めたみたいで、苦虫を噛み潰したような顔をして、

「分かりました......。あなたがそこまで言うのなら、仕方がありません。しかし、この事は世間には公表しません。後、キュアリスさん。必ず私へと小まめに連絡して下さいね。」

  葉月の注意喚起に対して、彼女は大きく頷いた。ーー


ーーすっかり思い出す事をやめると、彼女は思う。


  私がこの国を守るんだ。

  そして、何よりも、大切な人を必ず......。


  数十分程飛んだところで、キュアリスは息を切らしながらマジックアイテムに語りかける。

「後三日程で『メルパルク山脈』に辿り着くよ。さっきは連絡途絶えちゃってごめんなさい......。」

  小さな声で彼女がそう呟くと、葉月からはすぐに返事が返ってきた。

「あまり無理をするのはやめて下さい。あなたは、余り無茶を出来ないのですから......。後、どうやら佐山雄二さんはあなたの存在に気づいてしまったみたいですよ。」

  それを聞いた彼女は、相変わらず息を切らしながら答える。

「分かってる......。でも......。」


ーー彼女は共に旅した日々を思い出しながら、外まで聞こえる彼の声を只、聞いていた。


ーー辛辣に別れを告げた彼が、勇敢な表情で『魔法』の研究に励んでいる所に......。


  まさか、『結界』の作用により、マジックアイテムが使えなくなる事は想定外ではあったが、実際にそんな事を忘れる程に、夢中で聞いていた。


ーー木陰の上からひっそりと......。


  最後に彼女はマジックアイテムに向かい呟く。

「大丈夫。私が全て何とかするから。マメに休憩も取るつもりだし......。じゃあ、また連絡するね。」

  キュアリスはそう言い切ってマジックアイテムを胸元に仕舞うと、何もない草原の上へと静かに降り立つのであった。

  そこで彼女は強く思う。

ーー雄二の考えは凄く分かるよ。

  軍隊に入ったのだって、戦争に行くのだって、私を助けるためなんでしょ......。

  でも、絶対にそんな事させない。

  あなたには幸せになって欲しいから......。

  きっと、そんな事言ったら、雄二に怒られちゃうんだろうな......。ーー


  キュアリスは、彼の事を強く考えながら、疲れ果てた体をその場に落として、彼女は微笑みながら呟いた。

「また一人ぼっちになっちゃうな......。」

  そして、その言葉を最後に、草原に体を預ける様に寝そべるのであった......。


ーーーーーー

  遠くへ消えて行ったキュアリスの姿を見て俺は、只、立ち尽くしていた。

  余りにも必死な表情で外へと出て行った俺を追いかける様にしてやって来た部隊の連中はそんな呆然とした俺の姿を見た後で、視線を上に向けていた。

  そして、俺に向かってリュイは呟く。

「先程の暴風、まさか......。」

  俺は彼女の確信に限りなく近い憶測に対して、呟いた。

「気のせいだろ......。明日は早朝に出発する。早く寝ておいた方がいいぞ。」

  俺がそう言うと、部隊の仲間は不審がりながらも納得して、再び施設の中へと戻っていくのだった。

  そんな中、桜だけは俺の手を取った後で、

「キュアリス、来ちゃったんだね......。」

と、不安な表情のままに耳元で囁いた。

  俺はそれに対して、顔を強張らせながら、

「俺は絶対にキュアリスだけは参戦させない。」

と、意思表示をした。

  すると桜は笑顔で、

「やっぱり、雄二ならそう言ってくれると思ったよ。じゃあ、一緒に阻止しようね! 」

と、明るい口調で答えた。

  俺はその言葉に桜と握っている手に力を入れた。


ーーキュアリス。例え俺がどうなったって、絶対にお前だけは......。


  俺はそんな気持ちの中で、明日から忙しくなる事を踏まえて、施設の中へと戻っていくのだった......。

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