天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第57話 天才の詠唱。


ーーーーーー

  フリードは神妙な顔つきで俺を施設内のある一室に連れ込んだ。

  そこには数々のマジックアイテムが置いてあり、まさに歪を具現化した様な部屋であった。

  その真ん中には、不自然に二つ向かい合う様に置いてある椅子がある。

「では、これから一度耐性について試したいと思います。僕の顔をよーく見てください。」

  フリードはまだ状況を理解していない俺に向かってそう口にする。


ーーこれから何をするのだろうか......。


  俺はそんな何もかもが分からない状況に小さな恐怖を覚えつつ、言われるがままにフリードの顔をまじまじと見つめるのであった。

  すると彼は、俺を見る目に力を思い切り入れた。


ーーそれと同時に、俺の視界はみるみる内に揺らいで行く......。


  これは、ランドリー・シェムから受けた物と同じで、俺はそれを思い出すと、非常に不快な気持ちになり、それを遮る為に体に力をいれるのであった......。


  それと同時に俺の視界は元へと戻って行く......。

「ふう......。あまり突然『魔法』をかけるのはやめてもらってもいいか?」

  俺は自由になった体に安心しつつ、フリードに向かって文句を言う。

  それを聞いたフリードは、一つ息を吸い込んだ後で、俺に告げた。

「やはり、あなたは少し異形な様ですね......。本来ならば、この『魔法』は受けてしまったら最後な筈なのです。かけた本人以外は解く事が出来ない程強力な物なので......。それを、『回避魔法』をかける事なく打ち消してしまうなんて......。」

  俺はそれを聞くと、あの時のランドリー・シェムの言葉を思い出す。


ーー「この『魔法』は破られた事がないぞ......。」ーー


ーーあの時に受けた『魔法』そこまで強力だったとは......。


  俺はその事に気がつくと、やはりここでも『度が過ぎる才能』が有効であった事を理解した。


ーーだが、そこで疑問に感じる事が一つあった。


ーー何故フリードは、俺が異形である事をすぐに見抜いたのだろうか......。


  そこで俺は、彼にそんな素朴な疑問を投げかけた。

「どうして、俺にその様な才があると分かったんだ......?」

  それを聞いたフリードは少しだけ後ろめたそうな顔をした。

  だが観念した様で、すぐに口を開いた。

「実は前にお会いした際、僕はあなたをかなり警戒していたのです。なので、バレない様に『魔法』をかけ続けたのですよ。」

  彼の説明によると、俺達が『ロンブローシティ』付近に家を建てていた事に、フリードはかなり危機感を抱いていたらしい......。

  その時彼は、かなり強力な『魔法』をかけ続けていたとの事だ。

  だが俺にはその類が一切効かず、それどころか、『魔法』を知らないと言い出す始末に敵わない事に気がついた。

  それから少し話す事で、俺達が無害であると知ったと......。

「そこで気がついたのですよ。この人ならもしかしたらって......。次に会った時は必ず試して欲しいと......。」

  彼はそんな言葉で説明を締め括った。

「それで、俺は何をすれば良いんだ?」

  それに対する経緯が分かったところで俺はそんな質問をした。

  俺が質問をすると、フリードと黙ったまま部屋の入り口で腕を組んで只、様子を見ているだけであったルインドが目を合わせた。

  その後、小さく頷いて、フリードが俺に口を開く。

「これから、この世界における『魔法学』において、もう何百年も成功した例がない呪文をお教えします......。」


ーー彼らの、余りにも真剣な表情を見た時、俺は、その『魔法』の危険性についてすぐに分かるのであった。


  現に、彼の話によると、もしそれに失敗してしまうと、精神崩壊を起こしてしまうとの事だ。


ーーだが、俺はそんな事はどうでも良かった。


ーーこの世界を救えるのならば、と思うと自然に自信が湧いてきたのだから......。


  そして、俺はフリードに伝えた。

「やってみようじゃないか。少しでも勝てる要因になるのであれば......。」

  それを聞いたフリードは真剣な眼差しで、
 
「分かりました。成功してくれる事を心から願います......。」

と言った後に、一冊の小さな本を俺に差し出した。

  その一番最後のページを開く様に促され、俺は言われた通りにそれを開いた。


ーーすると、そこには如何にも古い文体で、『結界の呪文』と書かれていたのであった......。


  俺はそれを見ると、フリードに対して驚いた表情で、

「これは一体......。」

と、質問をした。

  それに対して彼は、相変わらず神妙な顔のまま、

「それは、数多の魔法使い達の中で、禁句となっている呪文です。それに成功すると、一定の範囲において、全ての『魔法』を完全無効化にする事が出来るとなっています。」

と、答えるのだった......。


ーー全ての『魔法』を無効化出来るのであれば、桜の事も、部隊の仲間達の事も『魔法』の作用から守る事が出来る......。


ーーそうなれば、彼女達が『魔法』の恐怖に臆する事なく、力を発揮出来るではないか......。


「あなたはその禁句の呪文を詠唱出来得る条件を唯一満たしている存在なのです。」

  フリードは声を大にして訴えた。

  そして俺は、その本を手に取り、彼らに宣言した。

「では、今から呪文を唱える......。もし失敗した時は、頼んだぞ。」

  俺はその後、心の中で詠唱を始めるのであった。

  丁寧に一語一句を読み上げて......。


ーーすると俺が詠唱を始めた途端、周囲の状況はみるみる内に歪んで行った。


  それどころか、どんどんと景色が変化して行く......。


ーー見た事のない景色から、昔馴染みであった景色まで......。


  そのめくるめく景色は次に、描写を持ち始める。

  それはまるで、俺の過去を手繰って行く様に......。


ーー親友と決別した朝。


ーー両親から勘当された夕方。


ーーキュアリスと別れた夜......。


  俺は、その余りにも明瞭に再現された過去の哀しみに、只、叫び続けた。


ーー辛い過去、苦しい過去。


  その全てが今、色を持って俺に語りかける。


ーー「お前ではダメだ......。」


  俺は、それを聞いた時、悔しさと虚しさが心の中を支配して行くのが分かった。

  自分の不甲斐なさ、情けなさを自覚して......。


ーーしかしその時、キュアリスの言葉が頭の中で響いた。


ーー「雄二なら大丈夫だよ」ーー


  俺は心の奥底から聞こえたその微かな声に、安心感を覚え、その不安や恐怖、悲しみや苦しみを全て打ち消すのであった......。

  そして、詠唱を完全に終えた時、景色は元に戻り、何やらオーラにも似た物が辺りを包み込むのが分かった。

  見回すと、俺が正常になったことを確認したフリードが色々な『魔法』を使おうと試みているのが分かった。

  それを見た俺は、その永遠にも感じた一瞬の出来事が終焉を迎えた事に溜息をついた。

  すると、目の前で俺の様子を見ていたフリードとルインドが俺を抱きしめて来て、

「雄二さん!!大成功ですよ!!」

と、喜んでいる。

  俺はそれに対して、安堵の表情を浮かべて、

「良かったよ......。頭がおかしくなりそうだったけど、何とか成功する事ができた......。」

と、笑顔で呟いたのだった。

  それを聞いたルインドは、俺に向け、

「やはり、お前は誰よりも才能に恵まれている。信じてはいたが、まさか本当に『結界の呪文』を成功させてしまうなんて......。」

と、息を荒くしながら尻尾を振っていた。


ーーそこで俺は妙な気持ちを抱いた。


ーーあれ......? 俺は今初めて、『度が過ぎる才能』を持っていて良かったって、心から思っているのではないか......?


ーーあんなに苦しくて、憎たらしくて、最低だと思っていた自分の能力を......。


  そして俺は、それが少しだけ嬉しくなって彼らにお礼をした。

「お前達、ありがとな......。」

  それを聞いた彼らは、最高の笑顔で俺に向け、

「あなたは、最高です!!」

と、力強く言うのであった。

  俺はそれに対して、微笑んだ。
 

ーー後、もう一人お礼を言わなければ......。


ーーキュアリス、俺を救ってくれてありがとう......。

  そう思った俺は今、全てを打ち消す最強の『魔法』である、『結界』を手に入れる事が出来たのだった......。

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