天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第50話 そして部隊は旅立った。


ーーーーーー


ーー「キャロリール王女殿下による、明日の演説の後、あなた達には国民に見送られる形で出兵します。」ーー


  俺は、先程の森山葉月から告げられた言葉を胸に、施設の前に到着した所だ。

  馬車から降りると、アメールにお礼を言う。

  すると彼女は事務的な口調のままに、

「こちらこそ、ありがとうございました。どうか、この戦争の勝利への足掛かりとなる様な実績を残してきて下さい。」

と、無表情のままに頭を下げた。

  俺はそれに対して、小さく頷き、施設の中へと入って行ったのだ......。


ーーーーーー

  施設に入ると、俺の到着を今か今かと待ち構えていた部隊の面々が俺を一斉に見つめるのであった。

  そして、それを契機に全員が規律よく並び出す......。

  何故か桜までもが見よう見まねで......。

  リュイは俺に向けて、こう言った。

「お待ちしておりました。隊長殿......。」

  俺はそれを聞くと皆に向け、静かに口を開いた。

「明日、キャロリール王女から開戦の宣言がある。それが終わり次第、『メルパルク山脈』を目指す!」

  俺がそう伝えると、周囲の顔は強張った。

  その後で、全員が口を揃えて、

「はいっ!!!!」

と、大きな声で返事をするのだった。


ーーだが、各々の表情からは緊張感と哀愁が入り混じっている......。


ーー何だか、無理矢理に自分を奮い立たせるかの様に......。


  俺は彼女達の心の内が分かってしまう様で、心苦しくなるのであった......。


ーーだが、それと同時に『絶対に誰も死なさない。』そんな決意を心の中でするのであった......。


  そして、緊張感に包み込まれたこの場所で、俺は全員に指示を出す。

「これから、各々が出兵の準備を始めてくれ!明日の朝には出発する!」

  俺がそう伝えると、皆は撤収して準備へと取り掛かるのであった......。


ーーーーーー

  俺も同様に準備を進める為に、部屋へと戻っていた。

「それにしても、桜まで整列しなくても良いんだぞ......。」
  
  俺が桜に向けてそう言うと、彼女は必死の形相を浮かべた後で、

「だって、桜も仲間の一人だもん。だから......。」

と、呟いたのだった。

  俺はそれを聞くと、桜も幼いなりにこれから何が起きるのかを自覚している事に気がついた......。

  だからこそ、椅子の上に正座をして真っ直ぐにこっちを見ている彼女の頭を撫でて、

「桜は立派な仲間だよ......。」

と、笑顔で答えた。

  すると桜は嬉しそうな顔をして、頷いていたのだ......。

  俺はその顔を見ると一瞬だけ安心して、旅の時に愛用していたリュックを手に取るのだった。


ーーそれを背負い込んだ時、少しだけ懐かしい気持ちになった。


ーーここまで来るのは長い旅だった......。


ーーあの時は、こんな未来が来るなんて、誰が予想していただろう......。


  俺は、そんな事を考えた。

  それと同時に、キュアリスの顔が思い浮かぶ......。


ーー感情に素直で優しい彼女の事を......。


  だが、すぐに我に返り、必要な物を取り出そうと、リュックを開くのであった。

  コンパスや地図、これから使えそうな物はとりあえず全て揃えた。


ーーだがその中に、一冊の本の様な物がある事に気がつく......。


  俺はそれを徐に手に取って、開いて見た。
 

ーーすると、そこに書かれていた物を見て、黙り込んでしまった。


ーー「今日は、雄二が少しだけ笑顔になった。これからは、もっともっと幸せにしてあげたい。」


「『ロンブロー・シティ』で雄二からペンダントを託された。凄く嬉しかった......。少しだけ、彼と信頼関係を築けた気がして......。」


「森の中で『観音寺桜』という女の子と出会った。彼女を悲しませない様に、これからは三人で頑張っていこう。」ーー


ーーそこに記されていたのは、キュアリスの『日記』であったのだ......。


  俺は、旅で起きた毎日の出来事を、震えた手で、一枚一枚を捲った。


ーーその度に、彼女との思い出が克明に蘇って来る......。


ーーキュアリス......。


  そんな記憶の回帰の中で、俺は嗚咽を漏らして泣いてしまっていた。

  そして、『首都ベリスタ』に到着を前にして、その日記は途切れていた......。


ーー最後のページには、こう記されている。


ーー「多分これから、雄二と桜に悲しい思いをさせてしまうかもしれない。でも、大事な『家族』である二人にいつか幸せになって貰う為にも、私は頑張ります。」ーー


  その内容からは、彼女の葛藤や決意が滲み出ていた。


ーーきっと彼女は、俺と桜を戦争から救う為に『聖騎士』になる事を選んだのであろう......。


  俺は、そんな彼女の決意を知ると、溢れている涙を拭って、無理矢理に笑顔を作った。


ーーキュアリス......。


ーー幾らお前が反対したって、俺がお前を幸せにしてやる......。


ーー『家族』として。


  そう心に決めると、彼女の『日記』を持って行く事に決めたのだった......。

  そして桜を抱き締めて、

「明日からも、よろしくな。」

と、伝えた。

  桜はそれに対して笑顔で、

「必ず守るよ......。」

と、答えるのであった。


ーーーーーー

  いよいよ出兵する事になった当日、俺と桜を含めた『特殊異能部隊』は、王宮の中にいた。

  もう既に大勢集まった国民達は軍への期待を込めた歓声を上げている。

  それを横目に武者震いをする部隊の面々と俺は、最上階の王宮広場に現れたキャロリール王女を見つめる。


ーーすると、王女が国民の前に姿を現した。


  彼女は神妙な表情の後で、口を開く......。

「皆の衆!!来たる時は訪れた!!」

  その言葉を聞いた国民達は、更に大きな声で湧き上がる。

  俺は、そんな国民達を只、眺めながら、これから戦争へ身を委ねる事を実感する......。

  そして、王女は、国民の雄叫びを遮る様に、

「これより、我が国『ベリスタ王国』は、『ヘリスタディ帝国』への宣戦布告を宣言する!!」

彼女がそう宣言した。

  それをきっかけに俺の部隊は王宮広場へと出て行き、国民の前へと姿を現した。

  同時に再び湧き上がる歓声......。

  王女は、登場したのを確認すると、説明を始めた。

「これからその第一陣として、『特殊異能部隊』である彼らを派遣する!!どうか、激励の言葉をかけて欲しい!!」

  彼女がそう叫ぶと、俺は王女に一礼した後で、国により用意された馬に乗る。

  全員が乗った事を確認すると、民衆が真っ二つに分かれた城から門までの道を真っ直ぐに進んで行った。


ーー割れんばかりの歓声の中で......。


ーーキュアリスも桜も、部隊の仲間も、誰も死なさない......。


  俺は、そんな決心の中で門から出て行くのであった......。


ーーーーーー

  王宮の中の一室で、彼女は外から聞こえる歓声を聞きながら、俯いていた。


ーー雄二と桜が、戦争へ行ってしまった......。


  それを考えると、彼女はいたたまれない気持ちになる。

  軍へ入隊したと言う事も、軍の先鋒として旅立った事も、全て止めなかった。

  いや、止められなかったのだ......。


ーー施設で会ったあの時、気が動転してしまい、入隊を反対すら出来なかった......。


ーーいや、彼の顔を見た時、安心してしまったのだ......。


  彼女はそんな弱い自分に対して後悔をする......。


ーーもっとはっきりと言えば良かった......。


  そんな事を考えていると、一つの結論に達するのだった。

「助けなくちゃ......。」

  そう決意すると、彼女は暗い部屋の中で一人、立ち上がるのだった......。

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