天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第48話 体制と予兆。


ーーーーーー

  我が部隊の初陣を告げた後、俺は部屋に戻って、鏡に映った自分の顔を見ていた。


ーー少し前よりもずっと、マトモな表情になっている。


  俺はそれを確認すると、これから起きる『戦争』に向けて、気を引き締めるのであった。

「何さっきからずっと鏡を見てるの......?」

  桜は、そんな違和感のある行動に不審がりながら、俺に問いかけてきたのだった。

「いや、何でもないよ......。」

  俺は慌てて桜の方に視線をずらして、今やっていた行動を打ち消す様にしていた。


ーー戦争になるという事は、桜も戦わなければいけなくなる....。


  そんな風に、まだ幼い桜を巻き込んでしまう事に、心苦しさを感じる。

  いくら決意しても、桜が同意しても、やはり参加させたくない気持ちは変わらないのだ。


ーーそれに、あのみんなの空元気を見た時に、俺は辛さを感じた。


ーー誰だって、戦争なんか行きたくない。


ーー死にたくないんだから......。


ーー俺だってそうだ。


  愛着を持った仲間達を失う可能性がある事は、どんなに頑張っても、否定できない......。

  戦争とは、死を覚悟して行くものなのだから......。


ーーそれに、キュアリスだって......。


  俺はそんな後ろ向きな気持ちを抑え切れずに、頭を抱えるのであった。

「隊長なんだから、しっかりしないと!」

  桜がベッドの上に座り込み、この前お土産で買ったペンギンのぬいぐるみを両手で抱えながら、真剣な表情で俺にそう元気付けた。

  俺はそれに対して、そんな気持ちを押し込めた後で、

「そうだな......。俺が弱気になっていたら、みんな不安がるし......。」

と、今までの考えを撤回する様にして、気持ちを切り替えるのであった。


ーーーーーー

  翌日朝、俺と桜はいつもの様に訓練へと向かった。


ーー昨日までとは違う、空気の変わった訓練場へと......。


  そこに着くと、やはり一足先に部隊の者達は鍛錬に励んでいた。

  俺はそんな連中の動きをゆっくりと眺める。
 
  四方二百メートル程の地で、皆がこじんまりと『異能』を放っていた。

  互いが互いに遠慮する様にして......。


ーー実戦を考えると、こんな狭苦しい環境での戦闘はあり得ない......。


ーーそれに、これでは実戦で本気を出せるか甚だ疑問だ......。


ーーみんなが強くなる事で、少しでも生存率を上げたい......。


  そこで俺は、桜に一つお願いをした。

「この施設の拡張って可能か?」

  そんな俺のふとした思いつきに桜は一瞬驚いた顔をした後で、

「出来る事には出来るけど......。」

と、ちょっとだけ自信無さげに答えるのであった。


ーーこの辺りの地域は、北にある王宮を除けば、更地が多い。


ーー今の倍以上の土地を作れば、もう少し伸び伸びと訓練する事が出来る筈だ......。


  だからこそ俺は、この施設を大きくする事で、今、遠慮気味に『異能』を放っている彼女達も本来の力を発揮できるだろうと。

「じゃあ、頼んだ。」

  俺が桜にそう言うと、彼女は手を訓練場の方へと向けた。

「悪いけど危ないから、みんな一旦こっちへ来て!」

  その言葉を聞いた部隊の連中は、頭に疑問符が浮かんだ様な表情を浮かべながらこちらへと避難して来た。

  そして、桜は土の『異能』を使った。

  俺達の背後の宿舎や外壁を背後に構え、少し先に見える三面の外壁は、まるで本来の所へと戻る様にして、桜の手の中へと収まっていく......。

  すると、遮断する物が無くなった先には、更地が広がった。

  遠目にはちょっとした森が広がっている......。

  ここからの距離は約一キロ程の所にあるであろう。

  桜はその森を施設の境界に区切ると、すっかり何も無くなったその場所に、再び土の『異能』を用いて外壁を三方に作り始めた。

  それは、さっきまであった外壁よりも倍近くの高さになっていて、より強固になった事が伺えた。

  そんな、人力で作れば途方も無い時間が掛かりそうな作業を、桜はあっという間に終わらせてしまったのだ。


ーーやはり、桜の『異能』は凄い。


  俺は、そんな分かっていた事に対して、唖然とするのであった。

  すっかり拡張が完了したのを確認すると、桜はため息をついた後で、構えていた腕を下ろすのであった。


ーー周囲はその圧倒的な能力に愕然としていた。


  桜が『異能』を使うのを初めて見たのだから......。

  そして、その後に歓声を上げたのだった。

「桜さん!ありがとうございます!」

  そんな事を口にしながら......。

  駆け寄って来た隊員に桜は照れながら、

「別に大した事じゃないよー。」

と、ドヤ顔で受け答えをしていた。

  俺はそんな様子を見て微笑みながら、これからは今まで以上に質の高い訓練を出来る目処が立って、安心したのだった......。


ーーーーーー

  施設を拡張してからと言う物、隊員達は『異能』を遺憾なく使用する事が出来る様になり、それにより、色々と見えてくる事が沢山あった。
 
  リュイを始めとする五名は、火の『異能』に特化していて、前衛にて攻撃するに事足りる程の威力を持っている。

  ミルヴィールと他四名は、水を得意としている様で、相手が焼き討ちなどの行為をして来た際、消火しつつの攻撃が可能だ。

  後の四名は、土の『異能』や草の『異能』で防御に専念出来る算段が取れた。

  そして、ミルトに関しては、一番驚かされた......。


ーー彼女は、狭い環境で恐縮していたのか、何らかの理由で隠していたのか、『都市伝説級』と言われる、雷の『異能』を使用していたのだ......。


  『矢立駿』の使用していた『異能』を......。

「お前、雷の『異能』を使えたんだな......。」

  俺がそう驚愕すると彼女は、

「まあね。あたしは昔から、そう言う度が過ぎちゃう所があったから......。」

と、照れ笑いしながら答えたのだった。


ーー度が過ぎる所......。


  それを聞いた時、俺は自分の事を思い返した。


ーーもしかしたらミルトも、俺と同じ様な経験をして来たのかもしれない......。


ーーだから今の今まで能力を隠していたのかもな......。


  俺はそう思うと、それ以上の詮索はよした後で、

「まあ、これからはより頑張ってくれよ......。」

そう激励をするのであった。


ーーそんなある程度の体制が整った所で、三週間の時が過ぎていった......。ーー


ーーーーーー

  月末に差し掛かった辺りで、俺は訓練を終え、いつもの様に部屋へ戻る支度をしていた。


ーー森山葉月が述べた開戦を告げる月末に......。


  来たるその日が近づくに連れて、部隊の連中は妙な緊張感が増幅しているのが分かった。

  それは俺も例外ではなく、施設全体は張り詰めた空間へと変貌していた。


ーーまるで俺達が初めて来た時に戻ってしまったかの様に......。


  そんな時、ふと、ポケットのペンダントから森山葉月の声が聞こえて来た。

  俺が慌ててその声に受け答えする為にそれを取り出すと、まだ周りにいた部隊の者達は一斉に俺を凝視するのであった......。

  俺はその殺伐とした空気を感じつつ、森山葉月に返事をした。

「もしかして......。」

  俺がそう弱々しい声でペンダントに語りかけると、森山葉月はいつにも無く真剣な口調でこう伝えた。

「明後日、正式に国民へ『ヘリスタディ帝国』との開戦を宣言します。それに際してなのですが、隊長であるあなたには一度王宮の方へ来て欲しいのですが......。」

  それを聞くとはっきりと返事をして、会話を終えたのだった。

「いよいよ始まるのですね......。」

  リュイは武者震いをしながら、俺にそう言って来た。

  俺はそれに対して、

「そうだな......。」

と、顔を強張らせながら答えるのであった。


ーー戦争が始まる......。


そんな緊張感の中で俺は、明日王宮へと向かう事が決まったのであった......。

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