天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第46話 失敗から得たもの。


ーーーーーー

  ちょうど日の暮れた辺りに、俺は本日の訓練が終了すると、いつもなら自主的に鍛錬をするのだが、夜の予定に合わせてすぐさま部屋を目指すのであった。

  その様子を見ていたリュイは、俺にはっきりと言ってしまった事が原因であると思っているのか、取り繕って問いかけて来た。

「き、今日は、自主練はしないのですか......?」

  俺はその質問を聞くと、森山葉月と会う事を隠した後で、

「ちょっと、用事が出来たので出掛ける事になったんだ。」

と、罪悪感丸出しのリュイに向かってそう答えたのだった。

  彼女はそれに対し、ぎこちない表情で、

「そ、そうですか。気をつけて行ってらっしゃいませ。」

と、俺を建前で気遣うのであった。


ーー俺は、その彼女の態度に対して少しだけ辛さを感じたのだが、それを押し殺し頷いて、部屋へと向かうのだった......。


ーー後、問題は桜だな......。


  この二週間ですっかりと部隊のマスコットの様な扱いを受けている桜に対して俺は、

「ちょっとだけ出掛けてくる。」

と、隊員達に抱きつかれてる彼女に告げた。

  すると桜は、周りにいる隊員達を振りほどいて俺に近づき、

「なら、桜も行く!!」

と、笑顔で言うのであった。


ーーだが俺は、今回の森山葉月との会合に関しては一人で行くべきだと思っていた。


ーー何か、重要な出来事が起きそうだったので......。


  そこで俺は、桜にこう提案した。

「いい子にしてたら、お土産を買って来てやるぞ。」

  それを聞いた桜は、苦悶の表情を浮かべていた。

  そして、口を開くのであった。

「そこまで言うなら、仕方ない......。その代わり、なんかあったら絶対許さないからね!!」

  彼女は、お土産と言う言葉の毒牙にまんまと嵌まったのだった。

  それに対して俺は、少しだけ心が痛くなったが、とりあえず安心して溜息をつくのであった。

  桜からの了承を受けて俺は、森山葉月の待つ、『異世界の料理店』を目指すのであった......。


ーーーーーー

  『異世界の料理店』に辿り着いて、俺が店内に入ると、もう既に森山葉月はカウンターの所に座っているのであった。

  彼女は普段の軍服姿ではなく、ワークキャップの様な帽子に、赤いシャツ、青いデニムと言う私服姿だった。

  俺はその姿を見た時、少しだけ違和感を覚えて立ち止まった。

  すると森山葉月は俺に気がついて、笑顔になって、隣に座る様に促したのであった。

  俺はその素振りを見ると黙ったまま、彼女の隣に腰を下ろした。

  彼女は俺が座ったのを見た後で、

「いきなり呼び出してしまって、ごめんなさいね。」

と、笑顔で謝罪を述べたのであった。

  俺はそれに対して彼女に目を合わせる事なく、

「待たせたな......。」

と呟いて、会合はスタートするのであった。


ーーーーーー

  会合が始まってから十五分程が経ったが、森山葉月は依然として店主と喋るばかりで、俺を呼び出した理由を語る事が無かった。

  俺はそんな様子に苛立ちを覚えつつも、それを我慢していたのだった。

「やはり、故郷の味は一味違う物がありますね。」

  彼女はもつ煮込みを食べながら、店主に呟いた。

  俺は、その余りにも余裕のある彼女を見て、遂に怒りが込み上げ、遂に核心を突くのであった。

「どうして俺を呼び出したのかを、そろそろ教えくれないか?」

  俺がそう問いかけると森山葉月は、おしぼりで口元を拭いた後に答えるのであった。

「あなたの様子が、最近おかしいと聞きましたので......。」

  それを聞くと俺は、何故彼女が今の自分の状況を知っているのかを疑問に感じるのであった......。

  そして、慌てた顔をする......。

  だが、彼女に抵抗する事は、俺の本能的にストップが掛かったので、俺は問う事をやめた。


ーー何もかもが見透かされている気がして......。


  その後で、観念した様に俺は呟いた。

「今日まさに、その事について部下から指摘された所だよ......。」

  俺がそう答えると、森山葉月はニコッと笑った後で、

「そんなにキュアリスさんから別れを告げられた事を、気にしているのですか?」

と、逆に俺の核心を突いてきたのだ。


ーーこの女は、全てを知っている......。


ーーその上で俺をここに呼び出しているのか......。


  俺は、そう気がつくと、その問いに対して、

「そ、そうだな......。忘れる為に必死になっていたのかもしれない......。」

と、情けない口調で呟いた。


ーー結果的にそれで部隊の中で浮いた存在になってしまった。


ーー最低過ぎるだろ......。


  俺は話し終えた後に、自分への後悔を再び始めるのであった。

 そんな俺の様子を見た森山葉月は、再び笑みを浮かべた後で、質問をしてきた。

「でもあなたは、キュアリスさんを助ける為に軍に入ったのですよね......?」


ーー俺はそれを聞いた時に、自分がどれだけ浅はかであったのかを、痛感するのであった。


ーー俺はキュアリスを助ける為に軍に入った筈だった。


ーーなのにそれを利用して、彼女を忘れる為の材料にしてしまっていたのだから......。


ーーそれでは、本末転倒じゃないか......。


  そして俺は、俯いて情けない口調をしながら、彼女に口を開くのだった。

「そんな大事な事も忘れてしまうなんて、俺って本当に最低だよな......。」

  俺がそう言うと、森山葉月は、カウンターに着いている腕の先に顎を乗せた後で遠目をしながら、

「誰にだって、そう言う時はありますよ。実際に私にだってありましたし......。」

と、話した後で切ない顔をした。


ーーその顔を見た時、彼女も何か俺に似た境遇を味わった事があるのを、感じ取るのであった......。


  そして森山葉月は遠くを見ていた視線を顔ごとこちらに移した後で、真剣な表情を浮かべて、俺に話した。

「キュアリスさんも悲しい気持ちの中で別れを告げたのでしょうし......。後、これだけは言っておきます。絶対に初心だけは忘れないでください。後で後悔をしたくなければ......。」


ーー俺はそれを聞くと、目が覚めた。


  今までの反省をしつつも、これからはキュアリスを助けると言う前向きな方向で、励んで行こうと思った。


ーー例え、彼女が望んでいなくても......。


  俺はその後、森山葉月に対して、

「ありがとう。俺は、お前のおかげで見失いそうになっていた大事な事を、思い出す事が出来たよ......。」

と、笑顔で伝えた。

  すると彼女は、真剣な表情から一転して、心から笑顔になり、

「それは、本当に良かったです。」

と、答えるのであった。


ーー俺は、森山葉月のおかげで息を吹き返す事が出来たのだ。


ーー戻ったら、迷惑をかけたみんなに謝らねば......。


  俺はそんな事を考えるのであった。

  だが、その後すぐに森山葉月は、呟いた。

「これでやっと、本題を話す事が出来ますね......。」

  その言葉を聞くと俺は、一瞬で真剣な表情に切り替わって、

「それは一体、何なんだ......?」

と、森山葉月に問うた。

  すると彼女は微笑を浮かべて、答えた。

「それは......。」ーー


ーーーーーー


ーー「了解した......。」


  俺はそれを聞くと暗い表情のままに、彼女の言葉に頷くのであった。

  そして、俺と森山葉月はその後少しすると、別れたのだ。


ーーすっかり遅くなってしまった。


ーー桜に土産を買ったら、すぐに帰らなければ......。


  俺はそう心に決めた後で、店を後にするのであった......。


ーーーーーー

  俺が施設の門の前に立った。

  もう深夜近くになっているので、俺は薄暗い宿舎を横目に、扉を静かに開けたのだった。


ーーみんな多分、もう寝ているであろう......。


  そんな気持ちで、極力気を遣って入ったのであった......。

  施設の中へ入ると、案の定真っ暗で、俺はその中を音を立てぬ様に歩いて行った......。


ーーだが、どうも訓練場の方から、少し音が聞こえて来たのがわかった。


  俺はそれを不審に思い、静かにそこへ向かった。


ーー何か不審者であれば、危険だ......。


  そんな風に考えながら。


  そして、到着した時に、俺は驚いたのだった。


ーーそこにいたのは、隊員達全員と、桜だったから......。


  呆然と立ち尽くす俺を見ると、彼女達は、

「やっと戻って来ましたね!!心配していたんですよ!!」

とか、

「何か最近、隊長の様子がおかしいって桜さんが言っていたので......。」

などと、俺に対する心配の言葉を口々にしたのだ......。

  どうやら隊員達と桜は、俺を心配して、ずっと帰りを待っていてくれたらしい......。


ーーそれを聞いた俺は、驚いた。


ーーそれと同時に、少しだけ嬉しくなったのだった......。


「何で俺なんかの事を......。」

  俺がそう俯きながら呟くと、桜が俺に寄り添って来て、その後で、

「だって......。最近の雄二の事、みんな、ずっと心配していたんだよ......。」

と、少し照れながら呟いた。

  俺はそれを聞くと、少しだけ泣いてしまった......。

  だが、恥ずかしい所を見せぬ様に、上を向いてグッと堪えた後で、声を上げ、桜を始めみんなの方を向き、

「迷惑をかけてすまなかった。少し気の迷いがあって......。だが、これからは独りよがりな行動は取らぬ様に気をつける......。だから、これからも宜しくお願いします!」

そう言って、頭を下げた。

  それから暫くすると、周りからは安堵とも取れる声が聞こえて来た。

  それを聞くと、俺は頭を上げて涙目で笑顔を見せた。


ーーすると、皆を代表するかの様にリュイが俺の目の前に立ち、笑顔で一言述べた。

「これからも宜しくお願いしますね。隊長殿。」

  俺は、それを聞くと涙をこらえる事が出来なくなった......。


ーーなんて、気のいい奴らなんだ......。


ーーこんな情けない俺の事を......。


  そんな事を考えて......。

  その様子を見たミルトは、ニヤニヤしながら俺に駆け寄って来て、

「何~?泣いちゃってるの~?」

などと、茶化して来た。

  俺はそれを聞くと恥ずかしくなって、

「は?!泣いてなんかいねえから!!」

と、取り繕うのだった。


ーー俺は、見失っていた。


ーーキュアリスの事も、部隊の事も......。


ーーだからこそ、今は後悔を安心感が包み込んで行く......。


ーーもう迷わない。


  俺はそう決心すると、その暖かい雰囲気に身を委ねるのであった......。


ーー明日は必ず伝えよう。


ーー森山葉月からの指令を......。

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