天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第41話 おぼろげに見えた欠点。


ーーーーーー


ーー彼女は、朝焼けのベッドの上で数年前の事を思い出していた。


  過去に幸せで満ち溢れていた街が絶望に一変する姿を......。

  その街は、他国の侵略により、街という概念を捨ててしまっていた。

  取り押さえられた市民に、泣きじゃくる子供たち......。

  辺りには戦いの末に命を落とした兵士達の遺体が所狭しと並んでいた。

  彼女が辿り着いたその場所は、まるでこの世の終わりの様な光景が広がっていたのだ......。

  そして、嬉々としてその状況を楽しむ他国の兵士......。

  指揮官と思われる男は、悪意に満ち溢れた笑顔のままに、

「皆の者、悪を叩き潰せ!!!!」

と、嬉しそうに指示を出しているのであった。


ーーそこにいる他国の兵は、単純に戦争を楽しんでいる様に思える......。


  彼女は震え上がる......。

  怒りと悲しみが絡み合う感情の中で......。

  そして、小さな体には似合わない剣を背中から取り出す......。

  全てが終わる頃、その街に点在していた他国の兵は全滅していた......。

  その死体の山の中で彼女は思う。


ーー私は一体、何をしているんだろう......。


  そこに達成感はない。

  あるのは、惨めなまでの虚無感だけなのであった。

  少し間違えると、自分を見失いそうな程の......。ーー


ーーそんな時、ドアの外から男の声が聞こえて来た。


「キュアリス様。そろそろご準備の方を始めてください。」

  彼女はその言葉を聞くと現実に戻り、頬を伝っている涙を拭った後で、急いで支度を始めるのであった......。


ーーーーーー

  俺と桜は、『隊長室』から出ると、指揮官として先程の訓練場へと赴いていた。

  そこには、射撃場や、仮想の敵の模型などが点在していて、更にその奥には、グラウンドがあるのであった。

  各隊員達は各々が各々の訓練に励んでいる。

  『異能』の作用による射撃や、五名一組による連帯攻撃の練習など......。

  俺の目から見ても皆の『異能』は卓越しているのが伺えるのであった。


ーーそこに、射撃練習を丁度終えたミルトがこちらの存在に気がつく。


  そして、ニコッと笑うと俺と桜の所へとやって来た。

「さっきはびっくりしたよ。まさか、あなた達が隊長だったなんて......。」

  彼女は驚きを俺に伝えた。

  その後で、少し困惑の表情を浮かべながら、

「でもこの場合は、あたしの上司になる訳でしょ......?そうなると、敬語を使うべきだよね......?」

と、彼女は俺に質問をして来た。

  俺はそれを聞くと、彼女以上に困惑しながらも、

「なんか、お前に敬語を使われるのも気持ち悪いし、別にこのままでいいよ......。」

と、返すのであった。

  彼女はその発言に対して、少しだけ考えた後で、

「そうだね!!今更直すのも面倒だし、このままでいくわ!!」

と、笑顔で答えたのであった。


  その一幕を見ながらリュイは、ミルトに対する怒りで震えているのが一緒見えたが、俺はそれから目を逸らすのであった......。


ーーーーーー

  それから俺と桜は、初日という事もあり、一日彼女達の訓練を見ているのであった。

  主に指揮はリュイが取って、それに対して皆が従う。

  ミルトが新入りという事もあり、少しばかり厄介事を起こしていたが、全体的に統率のとれた、意識の高い部隊である事が伺えた。


ーーだが、客観的に彼女達を見て行く中で、一つだけ気がついた事があった。


ーーそれは言葉にするのが非常に難しい所ではあるのだが、無理矢理表現するとしたら、とにかく全員が必死過ぎるのだ......。


ーー表情や動きから湧き出る緊張感......。


  それは、今すぐにでも空回りしそうな脆い物で、場の空気を支配する様に張り詰めている。


ーー俺は、辺りが暗くなっても訓練を続けている彼女達を見て、まずそこを懸念したのであった......。


ーーいつか、壊れてしまうのではと......。


  隣に座っている桜を見ると、強張った表情をしていて、

「ここの人達って、何か怖いよ......。」

桜はそう呟くと、怯えているのだった。


ーーこのままでは、来たる時まで持たない......。


  そう考えた俺は、暗い中行進の練習をしている彼女達の元へ歩いて行き、口を開いたのであった。

「みんな、頑張っているな!だが、もう周りも暗い。そろそろ終わりにしないか?」

  俺がそう告げると、リュイは一瞬不満そうな顔をした後で、

「これから、最後に武具を纏ってのランニングが残っているのですが......。」

と、食い下がって来た。

  俺は、彼女の表情から、更に必死さを感じるのだった。

  そこで、俺は提案をした。

「俺と桜は今日から隊長としてここに赴任した。まずはみんなの事を詳しく知りたいので、街へ出て、親睦会をしないか?」

  俺が、そう提案をすると、彼女達は呆然としていた。


ーーたった一人喜んでいるミルトを除けば......。


  そして、代表してリュイが何か言いたげな表情を浮かべたまま、俺に質問をした。

「それは、私達に対しての隊長命令ですか......?」

  俺は、その質問に対して、躊躇した。


ーー 人に命令した事など、一度もなかったから......。


  その結果、物凄く情けない口調になって、

「ああ、命令だ......。」

と、彼女に伝えるのであった。

  すると、リュイは何故か一瞬嬉しそうな顔をした後で、再び毅然とした態度に戻り、

「わかりました。ご命令とあれば......。」

と言って、部隊の者達に訓練を辞め、準備に取り掛かる様に指示を出したのであった......。


ーーこれをきっかけに少しでも張り詰めた空気が和らげば......。


  俺は、そんな淡い期待を抱きながら、親睦会の開催を決定したのだった......。

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