天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第35話 宿に待つ軍帥殿。


ーーーーーー

  俺と桜は、まだ理解のしようがない非現実的な現実を突き付けられて、何も会話のないまま、城からの道を歩いていた......。


ーー何故、キュアリスがあんな事に......。


ーーあれ程、戦争に否定的だったにも関わらず......。


  俺は考えれば考える程に、頭が混乱して行った。

「きっと、何かの間違いだよ......。」

  桜は俺の気持ちを理解したのか、再び慰めていた。

「そう思いたいもんだな......。何だか、悪い夢でも見ている様だよ......。」

  俺がそう返事をすると、再び沈黙が続く......。

  そんな暗い気持ちで坂を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「やあ!一昨日はありがとう!!」

  その声の主は、一昨日喫茶店で一緒になったミルトであった。

  俺はその純粋な笑顔を見た時に、一瞬気持ちが殺気立った。

  しかし、その気持ちをすぐに押し込めて気丈に振る舞う。

「やあ、こちらこそ楽しかったよ。」

  俺がそう返事を返すと、彼女は俺と桜の状況を分かっている訳もなく、興奮気味に話した。

「『初代聖騎士』の顔、初めて見たよ!!まさか、あんな美少女だったとは、全く想像付かなかった!!これからあんな人と一緒に戦えるなんて、嬉しいもんだよ!」


ーー俺は、キュアリスの過去の栄光を知らない。


ーー俺の知っている彼女は、料理が好きな、世界中の誰よりも優しいキュアリスだ......。


  俺は、そんな気持ちを抱きながら、ミルトと距離を置きたくなったので、

「そうだったんだな。それは良かったよ。じゃあ、俺達は今日行かなきゃいけないところがあるから、これで......。」

と、ミルトと目を合わせる事なくその場を去ろうとした。

  するとミルトは、そのお粗末な対応に戸惑いながらも、俺に一言告げたのだった。

「あたし、急遽明日から軍に入れる事になったの!!国を守る為に頑張るからね!!」


ーー俺は、背後から大きな声で聞こえるその言葉を聞いた時、何か大きな戦争が起きる事を予感した。


  俺はそれを聞くと、

「それは、本当に良かったな......。」

と、ミルトの方を振り返る事なく歩き出して行ったのであった。


ーーこんなの、どうかしている。


  俺は彼女の意気込みを聞くと、夕方、森山葉月の元へ行く約束を放棄する事を頑なに決意したのであった。


ーーーーーー

  それから、再び桜と夕方まで街を彷徨った。

  先日とは違い、キュアリスが戻って来ない事で、不安が確信に変わり、哀愁に支配された中で......。


ーーそして、日は暮れる......。


  桜はひたすらに大人しく、しかし、いつもよりも、より固く俺の手を繋ぎながら......。

  そして、辺りに人が疎らになった夜、俺と桜は再び宿へと戻るのであった。


ーー宿の入り口に差し掛かると、宿の前には、森山葉月がいた。


  俺は彼女と話す気にもなれず、無視する様にして宿の中へと入ろうとした。

  すると森山葉月は、俺が通り過ぎようとした時、口を開いた。

「約束を守らないのは、良い事ではありませんよ。」

  俺は、その嫌味を込めた口ぶりに対して、目を合わせぬままに答えた。

「気が変わってしまってね。すまないが、今日の所は帰ってくれないか?」

  俺が粗末な対応を取ると、彼女は気になる事を口にした。

「あなたの今、一番気になっている、『聖騎士』さんについても、話そうと思っていたのですよ?」


ーー俺は、その言葉を聞いた時に思った。


ーー彼女は、キュアリスについての何かを知っている。


  そう確信すると、俺は目を覚ました様に森山葉月の方を見た。

  そして、はっきりとした口調で、

「中に入ってくれ......。」

と、彼女を部屋へと誘い込むのであった。

  すると森山葉月は、やはりと言ったような表情を浮かべた後で、

「ご協力、感謝致します。」

と、俺の後ろを付いてきたのであった。


ーー彼女は一体何を知っているのであろう......。


ーーキュアリスには一体何があったのであろうか......。


ーー森山葉月ならば、その絶対に解くことの出来ない答えを、導き出してくれるのでは......。


  そんな気持ちを持って俺は、彼女に小さな希望を見出したのであった。


ーーーーーー

  部屋に入ると俺は、森山葉月に対してベッドの手前にあるソファに座る様に伝えた。

  それに対して、彼女は余裕の笑顔を見せながら、その気遣いに感謝を述べて腰掛けたのであった。

  俺は、今すぐにでもキュアリスについて聞き出したい所であった。

  俺の隣に座っている桜に関しても、同じ様な姿勢を見せていた。

  しかし彼女は俺と桜を焦らす様にして余裕の表情を崩さない。


ーーそして、暫くの沈黙が続く......。


ーーその時、森山葉月は動き出したのであった。


「ちょっと待ってて下さい。」

  彼女はそう一言述べると、思い切り目に力を込めたのだった。


ーーすると俺は、幾ばくか空間が歪んだ様な錯覚に支配されたのだった......。


「何か気持ち悪い......。」

  桜もその感覚を感じていた様で、頭を抑えながら呟いていた。

  そしてそのまま呆然としている俺と桜に対して、

「びっくりさせて、ごめんなさいね。最近は物騒なので、変な輩に聞かれても困るので......。」

と、説明をしたのであった。


ーーどうやら、俺と桜に『魔法』をかける事で、外部からの盗聴を防いだらしい。


ーーこの女が軍帥である所以は、こう言う抜かりのない所にあるのだろう......。


  俺はその時、素直にそう思ったのであった。

  森山葉月は、すっかり閉鎖的になった環境になったのを確認すると、先程までの笑顔から一転して、真剣な表情へと移り変わるのであった。


ーーそして、口を開く......。


「それでは、今日お願いしようと思っていた事を伝えます......。佐山雄二さん、観音寺桜さん。あなた達、キュアリスさんを救いたいのですよね......?」

  彼女は、冗談を一つも感じさせない口振りで、俺と桜にそう告げたのであった......。

  俺は、全く予想をしていなかったその発言に対して、暫く口を開く事が出来なかった。

  森山葉月は、そんな俺の表情を欺くかの様に、続ける。

「その方法なら、ありますよ。」


ーー俺と桜にキュアリスは救えるのか......?


ーーだが、このまま行けば、彼女は来たる戦争に駆り出される事になり、傷ついてしまう......。


ーーそんな事、絶対にさせたくない。


ーーならば、やってやろうではないか。


  俺は、そんな風に決意をすると、桜の方に目をやる。

  すると桜も、俺の方を見て、大きく頷いたのであった。

  そして俺は、森山葉月を真っ直ぐ見つめた後、はっきりとした口調で述べた。

「その方法、教えてくれないか......? 」

  俺の真っ直ぐな目を見ると彼女は、深くため息をついた後で、

「あなた方なら、そう言ってくれると思いました。」

と言って、安堵の表情を浮かべていた。


ーー俺はキュアリスを絶対に救ってみせる。


  そう決意をして、俺と桜はその方法を詳しく聞く事にしたのであった......。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く