天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第34話 王宮での密談。


ーーーーーー

  王宮へ辿り着くと、俺と桜は馬車から降りて城の中にある一室へと通された。

  その部屋は約八畳程しかなく、会議用と思しき長机が二つと、八個の木造の椅子のみの、とても王宮とは思えぬ程簡素で狭く、まさに秘密会議をするかの様な粗末な造りになっていた。

  そして、森山葉月は一度準備を済ませるという事で席を空け、今、部屋の中には俺と桜が二人だけとなっていた。

「あのお姉ちゃん、誰......?」

  桜は、森山葉月を不審に思っていた様で、俺に不安な顔を見せながら問いかけてきた。

  それに対して俺は、

「大丈夫だよ。彼女は悪い人じゃない。だから、心配いらないよ。」

と、笑顔で答えた。

  すると桜は安堵した様で、木で出来た椅子に腰掛けたのだった......。

「ごめんな....。いきなりこんな場所に来てしまって......。」

  俺が情けない表情で桜にそう伝えると、彼女は椅子から立ち上がって俺にしがみついて、

「いいのっ!!桜は、雄二の味方なの!!だから、どこだってついて行くよ!!」

と、俺を見上げて笑顔で答えた。

  俺は、その桜の純粋無垢な発言を聞くと、少しだけ嬉しくなって、目を逸らしながら頷くのであった......。


  それから十五分程待つと、ドアの外部からノック音が響き渡り、森山葉月が一人で入って来た。

  俺と桜はそれを皮切りに黙って彼女を見るのであった......。

  彼女は徐に俺の対面の椅子に腰をかける。

  そして、口を開いたのであった......。

「お待たせしました。こんな簡素な部屋に呼び出しちゃってごめんなさいね......。この部屋が一番信用出来るから。」

  彼女はこのシンプルな部屋について、謝罪と同時に信用という言葉を口にした。

  俺は、その言葉に少し引っかかったが、一先ず置いておく事にして、発言をした。

「いや、心配ないよ。それよりもここに呼び出した理由は何だ?」

  俺が質問すると、森山葉月は真剣な表情になって、言葉を放った。

「あなた先日、ソローリ村近くの森で、ヘリスタディ帝国の暗躍部隊と戦ったでしょ?」


ーーどうやら、グリンデルが全て報告していた様で、彼女にも伝わっていた様だ。


「そうだな。そこで、ランドリー・シェムと言う男が率いる部隊を倒したのは事実だ。」

  俺が桜の父の一件を隠す様に伝えると、森山葉月は更に深刻な顔になった後で、口を開いた。

「その後、グリンデルにメルパルク山の一件との共通点を見出す為に調査を依頼したんですよ。そしたら......。」

  それからグリンデルが率いた調査隊は、その山から降りてくる事は無かったそうで、今も尚、音信普通のままだという......。


ーーあの時連絡が通じなかったのはそれが原因であったらしい......。


「ここ二週間程でヘリスタディ帝国の動きが加速しているのです。何か嫌な予感がしているのは、私たちだけでは無いと思いますの。」

  森山葉月は困った顔をして俺に伝えた。


ーーやはり、ヘリスタディ帝国は何か侵略の動きを見せているらしい。


ーーそう考えると、グリンデルが余計に心配になるのであった。


  考え込んでいる俺を見ると彼女は、本題である話を俺と桜にして来た。

「そこで、あなた達にお願いしたい事があるのです......。もちろん、観音寺桜さんにもですよ。」

  彼女はそう言うと、桜の方を向いて微笑んだのだった。


ーーどうやらこの女は、桜の父が亡くなった事も、ソローリ村の惨事も知っている様だった。


  俺はそれに気がつくと、少しだけ不思議な気持ちになりつつ、彼女の発言を遮る様にして口を開いた。

「それで、俺達は何をすればいいんだ?」

  俺がそれを聞くと、彼女は静かに答えた。

「それは、明日の夕方に詳しくお話しますので、今日はここまでにしておきましょう。」ーー


ーー俺はそれを聞くと、了承をした。


  そして、森山葉月が会話の終了を告げた。

  すると密室を包み込んでいた緊張感は一気に解け、平穏な空気が漂うのであった。

  俺はそれに安心をして、溜息をついた後で、桜に伝えた。

「いや、明日もあるが、一先ず終わったな。明後日にはキュアリスが帰ってくる。明日の昼間は再び街に繰り出そうな。」

  それを聞くと桜は、嬉しそうな顔になり、

「そ、そうだね!早くキュアリスに会いたい!」

と、にこやかに答えた。

  その様子を見ていた森山葉月は、大きく目を見開いた後で、俺と桜に発言をした。

「その事なんですけど......。キュアリスさんは、多分もうあなた達の元へ帰ってくる事は無いと思いますよ。」


ーー俺と桜は、その言葉を聞くと絶句した......。


ーー何を言っているんだ、この女は......。ーー


ーー俺は、そう思うと、彼女から少し話を聞いた後で、ゆっくりと宿へと帰るのであった。


ーー「明日、王宮広場に来れば、その理由がわかりますよ。」ーー


  その言葉の意味を考えつつ......。


ーーーーーー

  そして、次の日の朝、俺と桜は重い足取りで王宮広場へと向かったのであった。


ーー結局先日は一睡も出来ぬまま......。


  辿り着いた広場には、数万を越える人々が集っていた。

  その者達は皆、見上げると見える王宮の屋上に目をやっていたのだ。


ーーそこに、一人の人間が現れる......。


ーーすると、そこにいたのは、王女、キャロリールであった。


  そして、彼女はその大勢の人々に向け、言葉を放つ。

「本日は、お集まり頂いて、大変感謝する!」

  その言葉を皮切りに広場は拍手喝采で埋め尽くされた。

  王女は、その盛り上がりを制止する様にして、民衆に告げる。

「『初代聖騎士』の復活を祝福してくれる事、感謝申し上げる!!それでは、登場してもらおう!!」


ーー『初代聖騎士』の復活......。


  俺は、王女からの難解な発言に混乱していた......。


ーーそして、その号令を皮切りに『聖騎士』が静かに屋上の先に現れた......。


  俺と桜は、それを見ると、固まったまま、全く動けなくなったのだった......。


ーーその、首から下に武具を纏った『初代聖騎士』と呼ばれている者は、キュアリスそのものであったからだ......。


  最高潮の盛り上がりを見せる広場の雰囲気とは裏腹に、俺は自分の嫌な予感が思わぬ形で当たってしまった事に、気持ちの整理がつかなくなっていた。


ーー彼女は全く俺と桜の様子が目に入っていない様で、精悍な顔つきで口を開いた。


「私は、『初代聖騎士』、『フレイディア・キュアリス』である!!」


ーー俺は、その勇ましいまでの口振りで放たれた『キュアリス』と言う言葉が、説得力を持ってして俺に現実を突きつける......。


ーーそして、本来なら、あり得る無いはずの理解が体の内部から押し寄せて来るのが分かった。


ーー『初代聖騎士』とは、キュアリスの事であったのだ......。


  俺は、一番身近だった相手が唐突に遠くへ行ってしまう侘しさに、只、呆然と立ち尽くすしかなかったのであった。

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