天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第33話 不安な夜は更けてゆく。


ーーーーーー


ーー「クラスの打ち上げ、どうするよ?」


  これは、俺が高校一年生の時の教室での会話だ。

  文化祭が終わった事を皮切りに、どこかの休日にクラス全員で打ち上げをやると言う話らしい。

  俺は、どうせ頭数に入っていないと腹を括っていたので、静かに教室を出て行こうとしていた。


ーーそんな時、クラスのムードメーカーの男子がこちらにやって来た。


「佐山くんも行くよね?今週の日曜日に駅前の噴水で待っていてよ!」

  彼は優しい口調で俺を誘ってきた。


ーーその瞬間、俺はすごく嬉しかった。


ーー俺も仲間と捉えていてくれた事に。


ーークラスの人達が俺を気味悪がっているのは知っていたのに......。


  だからこそ俺は、物凄くぎこちないで了承の返事をした後で、その日に備え、俺以外誰も入る事のないマンションの一室で柄にもなく鼻唄を歌ったりしていたのだ。


ーー俺は、心の底から嬉しかったのだ。


ーーそして、当日。


  俺が約束の時間よりも早く駅の噴水前に着いた時、そこにはまだ誰も来ていなかった。

「幾ら何でも一時間前に到着じゃ、誰もいないよな......。」

  俺はそんな事を考えながらそこから離れる事も無く、ひたすらに立ち続けていた。


ーー何時間経っても......。


ーー時計の針が新たな時間を刻んで行くたびに、俺は悔しさと哀しさで胸がいっぱいになって、体が固まって行った。


ーーそして、辺りが暗くなってきた時に、道路を挟んだ対面のカラオケショップから、クラスメイト達は出て来たのだった。


  そして、俺を誘った張本人が俺の存在に気づく......。

  するとすっかり笑顔の仲間達を引き連れて、俺の元へやって来た。

  そして、悪魔の様な笑顔で俺に向け口を開く。

「あれ?まだ待ってたんだ。ごめんね!時間、間違えちゃった!」


ーー俺はその言葉を聞いた時、彼が最初から俺を騙す事を画作していた事に気がついた。


ーーいや、時間が過ぎてからずっと、分かっていた事だった。


ーーーーだが、認めたくなかった......。


  その後、彼の背後から響き渡る笑い声......。ーー


ーーそれは今、桜と共に宿に入ったばかりの俺の耳元で色濃く鳴り響き続けるのであった......。


「ねえ、雄二......。」

  俺のそんな悪意に満ちた声を掻き消すかの様に、桜は俺を呼んだ。

「大丈夫......?」

  俺がその言葉で我に返り、絶望の表情を浮かべたまま、小さな空間を隔てて二つ並んだベットの向かいに目をやった。

  そこには、熊のぬいぐるみを抱えて心配そうな顔で俺を見つめる桜がいた。

  その姿を見ると俺は、その表情のままで冷や汗をかきながら彼女に返答した。

「ごめんな......。色々と妙な事を考えてしまって......。」

  桜は俺のその弱々しい態度を見ると、一つため息ついた後で、

「キュアリスは帰って来るよ。たったの二、三日でしょ?それまで桜も良い子にして待ってるから!」

と、俺を元気付けたのだった。

  俺はその桜の励ましを聞くと、先程の思い出を胸に仕舞った。


ーーでも、キュアリスが戻って来なかったら......。


ーー待っていても永遠に来ない気がして......。


  俺はそう考えると、不安で仕方が無くなった。


ーー彼女と別れた時からずっと胸の奥で騒めき続ける嫌な予感があったから......。


  すると桜は、考え事をしたままずっと情けない表情を浮かべ続けている俺の座っているベットの上に飛び込んで来た。

「今日は桜が一緒に寝てあげる!!」

  彼女は無邪気な笑顔で小さい体を俺に寄せて来たのだ。

  そんな桜の温もりを感じた時、過去と現在の不安が一瞬で言葉として現れた。

「俺は、情けない男だよ......。」

  その言葉を聞くと桜は、ニコッと笑顔を見せた後で、

「大丈夫だよ......。キュアリスはすぐに帰って来るし、桜、雄二の事に元気になってもらいたいし......。」

と、俺を励ましたのだった。


ーー「ありがとな......。桜......。」


  俺は、その幼いながら不器用な言葉に胸を打たれて彼女を抱きしめた。


そして、その日はそのまま眠ったのだった......。


ーーーーーー

  次の日は、再び街を歩く事にした。


ーーキュアリスに対する不安を拭う為に、あてもなく......。


  街は相変わらず賑わっていて、桜と甘い物を食べたり、新しい服を買ったりして過ごした。

  気がつくと、あっという間に夕方になっていて、俺と桜は再び宿への帰途へと就くのであった......。

  そして、王宮へと続く大通りに差し掛かる。


  その時、俺は思った。


ーー昨日と違い、今日はやけに馬車の行き交いが激しいな......。


  そんな気持ちで通り過ぎて行く馬車達を見つめていた。


ーーそんな時、一台の馬車が俺と桜の前で止まった。


  そして、荷馬車の小窓のカーテンが開く。


ーーそこにいたのは、森山葉月だった。


  そして、呆然としている俺と桜の事を交互に見つめた後で、

「お久しぶり。やっとここまで辿り着いたのですね。」

と、取って付けた様な口調で俺に向けて言った。

「ああ......。長い道程ではあったが、何とかここまで来れたよ。」

  俺は、彼女からの一言にそう返事を返した。

  俺が返答すると森山葉月は、神妙な表情になった後で、告げた。

「唐突ではあるんですけど、今から時間はあるかしら。少しお話したい事があるので......。」


ーーいきなり、何なんだ......?


  キュアリスの事で頭が一杯になっていた俺は、彼女のその言葉で一瞬我に返っていた。

  そして、その先が気になった。

「どちらにせよ、俺達もキュアリスの帰りを後二日程待つつもりだから、大丈夫だぞ......。」

  俺がそう返答すると、森山葉月は笑顔で俺と桜を馬車の中へと招いた。

「良かったです。では、参りましょう......。」

  その言葉の後、俺と桜は馬車に揺られながらそびえ立つ城へと向かうのであった......。

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