天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第32話 入隊志願者。


ーーーーーー

「ご馳走様でした!!!!」

  満足そうにお腹を抑えて叫んでいるのは、先程銅像の前で話しかけられた少女である。

  彼女に喫茶店へ引っ張られてから、もう既にしてから約三時間が経過しているのだ......。

 彼女の名前は、『ミルト』と言うらしく、単純に初代聖騎士のファンらしい。

  ミルトは、ひたすらに俺達へと途切れる事なく会話を続けている。

  桜は俺のうんざりした様子を見て、これ見よがしに食べ物の注文を続けているのだ......。

 おかげで俺の興味を持っていた『聖騎士』についての情報量は格段に増えたが......。

  七年前、隣国である『メリバルン法国』と戦争状態だった『ベリスタ王国』は、押され気味であった。

  重要な地方都市は陥落し、このままでは降伏するしかない所まで追い込まれていたらしい。

  そんな時に、王家が国民に向け、『聖騎士』の擁立を宣言したのだった。


ーーそこに現れたのは全身に武具を纏った小さな兵士だった。


  それを見た国民は皆、王家に対して批判を繰り返したという。

  追い込まれて血迷った結果、子供を『聖騎士』などと、トンチンカンな事を言い出したと......。


ーーだが、そんな国民の不安は一瞬で取り除かれるのだった......。


  突如として現れた小さな兵士は、陥落し占領された地方都市を一人で奪還すると、一気に『メリバルン』へと攻め込んで見せた。

  結果的に圧倒的優勢だった『メリバルン』は、たった数ヶ月で降伏する事になったのだった......。

  『初代聖騎士』のその姿はまさに奇跡の存在で、七年経った今も尚、英雄として国民の語り草になっているのだとか。

  まだ、ミルトの話は、今も話は止まらない......。

「それでね!!五年前のロンブロー・シティの時も凄かったよね!!」

  その話は、フリードからも聞いた話だった。


ーーその聖騎士は、どの様な人物であったのだろう......。


  俺は素朴にそう思った。

「それで、初代という事は、もう今は別の『聖騎士』がいるんだろ?」

  俺はミルトへと質問を投げかける。

  するとミルトは、ちょっと意表を突かれた様な顔をした後で、答えた。

「今は、『聖騎士』と呼ばれる兵士はいないよ。」

  彼女の説明によると、『初代聖騎士』は四年前に突如として姿を消したらしい。

  それから一年経った時、『二代目聖騎士』が誕生したのだとか。

  だがその『二代目聖騎士』は、就任後すぐに起きてしまった『異世界人』の率いる西の大国、『ヘリスタディ帝国』による侵略が始まった際、大健闘して押し返したものの、そこで命を落としてしまった......。

  それからというもの、王家は二年の間、『聖騎士』を擁立していない。

  そして、今も尚、『ヘリスタディ帝国』との緊張状態は続いているらしい......。


ーーたったの何年かでこれだけの事が起こってしまうのか......。


  俺は、素直にこの国の不安定な状況に唖然とするのだった。


ーー平和国家日本との差を感じつつ......。


  俺は、元いた世界との比較をしながら、この世界の未来を憂うのであった。

「でも、あたしだって頑張らなきゃだから!!」

  ミルトが、自分を鼓舞するかの様に喋り出した。

  俺は、それ聞くと理由を問いかけた。

「頑張るって何を?」

  するとミルトは、誇らしげな顔をしながら俺に告げた。

「あたしも『ベリスタ王国国王軍』に入隊できる事が決まったから......。これからは『初代聖騎士フレイディア』みたいな強い兵士になって見せるんだ!!」

  俺は、彼女の意気込みに微笑んだ。

「そうだったんだな......。じゃあ、俺はミルトを応援するよ。」

  彼女はそれに対して、

「期待してなさい!!!」

と、無邪気な笑顔で答えたのだった。


ーー念願叶ったミルトの表情には、嘘も偽りもない。


  俺は、自ら戦争に身を投じるミルトに対して複雑な心境を抱いたが、何も言う事は出来なかった。


ーーそして、窓の外へ目をやると、もう既に日が傾いていたのだった......。


  もうすっかり食べ飽きてしまった桜は、フォークとスプーンで遊んでいた。

  俺はそんな桜に対して、

「そろそろキュアリスとの待ち合わせの時間だ。店を出るか。」

と、伝えた。

  すると桜は、笑顔になって、

「そうだね!!キュアリス待ちぼうけしてるかも!!すぐ寂しがるから早く行かないと!!」

と、手早く店を出る準備をしていたのだった。

  そして俺は、ミルトに対して、

「実は仲間と待ち合わせがあるんだ。だから、今度またゆっくりと話を聞かせてもらうよ。」

と、この会合の終わりを告げた。

  ミルトは、沢山喋って満足した様に、

「わかった!!今度会った時は、軍の話を沢山聞かせてあげるから!!」

と、最高の笑顔で答えた。

  そして、その後ですぐに、

「本当に嬉しかったんだ...。だから、あの小さな銅像の前で二人を見た時、思わず話しかけちゃったの......。長々と付き合わせちゃってごめんね......。」

と、先程の勢いとは打って変わって、弱々しい口調で謝罪を述べた。

  俺は、この子も実は弱い子なのを知った後で、

「いや、楽しかったよ。後、入隊、おめでとう......。」

と、彼女が今一番かけてほしいであろう言葉を投げかけた。

  それを聞くと彼女は、再び万遍の笑みに戻り、

「ありがとう!!」

と、俺にお礼を言った。

  それを最後に俺と桜は、喫茶店を離れ、目的のレストラン、『アバリウド』へと足早に向かうのであった......。


ーーーーーー

  空が真っ赤染まった頃、俺達は店に辿り着き、キュアリスを待っていた。

「俺達の方が先に着いたみたいだな。」

  俺は桜に話しかける。

  桜は、それを聞くと、

「そうだねー!桜、キュアリスに勝ったんだねー!!」

と、何故か勝ち負けに形容し出して、勝利の余韻に浸っていたのだった。ーー


ーーーーーー

  もうすっかり暗くなった店の前で、俺と桜は呆然としながらキュアリスを待っている。

  幾ら何でも、余りにも遅すぎる。

  あれから既に一時間以上待っているが、彼女は決して現れる事はない。

  そんな状況に桜は少し駄々を捏ね始めていた。

「なんで、キュアリス来ないの?!ずっと待ってるのに!!」

  俺はそれを静かにする様宥めていたが、彼女はそれを気にする事なく叫んでいた。


ーーすると店内にいた小太りのマスターが、そんな俺達の様子を伺いながら、表へ出てきた。


「君達、もしかしてキュアリスちゃんを待っているのか?」

  俺はその質問に桜を制止しつつ、答えた。

「そうなんだけど、なかなか来なくて......。マスターは、キュアリスの事を知っているのか?」

  マスターは俺の言葉を聞くと、再び口を開いた。

「キュアリスちゃんが小さい時によくこの店に来ていたからね。後、彼女なら伝言を頼まれているんだ。さっき昼間にやって来てね......。」

  そのキュアリスからの伝言はこうだった。


ーー『ごめんなさい、やっぱり後二、三日戻れないかも......。』ーー


  俺は、その伝言を聞くと、マスターに感謝を述べて、桜の手を掴み、すぐにその場から去っていった。

「雄二、どうしたの?いきなり怒った顔になっちゃってさ......。」

  桜は、手を繋がれながら、心配そうな顔で俺を見つめる。


ーーキュアリスが心配で仕方がない。


ーー親と会っているだけと分かっているのに......。


ーーそれに何故、俺は今こんなにも腹を立てているんだ......?


ーーただ、もう二度とキュアリスに会えない気がしてしまう......。


  俺は、そんな自分の気持ちが理解出来ずに、近くにある適当な宿を取り、足早に中へと入って行くのであった。

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