天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第28話 広場に響く爆発音。


ーーーーーー

  ベゴニア村は、慌ただしく動いていた。

  中央の広場に机や椅子を出したり、真ん中に火を起こしていたりする。

  端には大きな鍋や金網が並べられ、そこで何らかの肉を焼いたり、汁物を作っていたりする。

  中には青年の集団がもう既に酒に口をつけていて、老人に怒られたりもしていた。

  その様な形で村は先日と打って変わってすっかりと活気に満ち溢れているのだった。


ーー少し大袈裟になって来ている......。


  そんな事を考えながらも、俺とキュアリス、桜の三人はその様子を見ながら、何か手伝える事があるかと聞いて回っていたのだが皆、口を揃えて、

「主賓に手を煩わせる訳には行かない。」

と、断られてしまった為、今はベンチに座ってその祭りの雰囲気を堪能しているのであった。


ーー主賓扱いされると困るものだ......。


  俺は、この大袈裟なまでの快気祝いに戸惑いつつ、村人達の様子を見ていた。


「みんな、幸せそうだね。」

  そんな時キュアリスがふと、口にした。

  俺は、それを聞くとニコッと笑いながら、

「そうだな......。フリードにしてもそうだが、この世界の人達は本当に逞しいよ......。」

と、弱気な返事をしたのだった。

  それを聞くとキュアリスは、こちらに微笑みながら、

「そうだね。でも、雄二の影響も大きい筈だよ。実際に私だって雄二といて強くなれているし......。」

と、俺の予想をしていない返事を返して来た。


ーー俺が何かを変えられている......?


  それには答えを決して導き出せずにいる。

  そして俺は、はぐらかす様にして桜に対して、

「今日は大きい催しになりそうだから、美味しいものを食べられるぞ!」

と、半分空元気の様な素振りを見せたのだった。

  桜はそれを聞くと、

「おおー!!!そうだね!!!もう既にいい匂いがして来てるよー!!!」

と、その場で跳ねながら喜びを全身で表現していた。

  俺はいつもの倍以上のテンションで取り繕い、その中でふとキュアリスをチラッと見ると、彼女はそれを暖かい目で見ていたのだった。


ーー俺はその視線を見ると、少しだけ照れ臭くなって再び目を逸らすのであった......。


「雄二さん、キュアリスさん、桜さん!!宴の準備が出来ました!!」


  獣人族の一人が俺達にそう告げると、日が傾いた夕暮れ時に、村を挙げてのお祭りは始まったのであった......。ーー


ーー会場の真ん中に行くと、わざとらしい程に目立つ位置に俺達の座席が用意されていたのであった。


ーー俺は、それを見ると嫌な予感がした。


ーー幾ら何でも俺の快気祝いにしては余りにも大袈裟過ぎる。


  すると、遅れて登場したルインドが準備万端である村人達に対して高らかに宣言をした。

「それでは、みんなが揃った所で、我々獣人族を救ってくれた『英雄』への敬意を込めて、祭りを開催したいと思う!!」


ーー『英雄』......?


ーー俺は、その言葉を聞くと、ルインドにしてやられたと思った......。


ーーだが、その場の雰囲気は決して否定出来る物では無かったのだ。


  なので、俺は苦笑いをしながら彼らのご厚意を素直に受け入れる事にしたのだった。


ーー真っ赤に染まる空の下で、燦然と輝く一人一人の笑顔......。


ーーまるでこの日を待ちわびていたかの様に......。


俺はその光景を見て、初めて自分がこの村を救った事を実感したのだった......。


ーーこの話は、いつか矢立駿にも話そう......。


ーー俺達で村を救ったんだ。


  俺はふと、そんな風に考えたのだった......。ーー


ーーそれからは、沢山のご馳走を拵えた女性達から、たらふくご馳走になった。


  キュアリスは、相変わらずレシピについて執拗に問いかけていたのだが......。

  桜は動けない程に食べた様で、長い食休みを取っていたのだった。

  そんな彼女のお腹をリフェスが尻尾を振りながらツンツンと触れて笑っている。

そして皆が大いに盛り上がり、夜は更けて行ったのだった......。ーー


ーー数時間の時を楽しんだ時、すっかりと酔っ払ったルインドが俺の元へやって来たのだ。


「こ、今回はありがとなー!!!本当に助かったよ!!!」

  ルインドはそう言うと、俺の肩に腕を組んで来たのだ。

  俺はそれに対して、

「いやいや、今回の件はお前達のおかげだと思っているよ......。」

と、控え目に返答した。

  するとルインドは、俺の肩にぶら下がる様にして下を向きながら囁いた。

「絶対そんな事はないぞ!!こんなに誰もが楽しめる事など、本当に久しぶりだ......。警備もいらない、外からの攻撃に恐れる事もない......。こんなに幸せな事があるか......。」

  彼はそう言うと、静かに眠るのであった。

  周囲にいた獣人族の一人は彼の所作を見ると、

「久しぶりですよ......。ルインドさんの笑顔を見るのは......。本当は明るい人だったのですが、『例の一件』以来、我々に感情を出す事を辞めてしまったので......。多分、誰よりも辛い思いをしていたのでしょう......。」

と、嬉しそうに俺に向かって伝えたのだ。


ーー俺は、彼が本当は明るい人だと初めて会った時から知っていた。


ーーしかし、村を守る為には毅然としていなければいけなかったのだろう......。


  そう思うと俺は、ルインドの本心に心を洗われて、いびきをかいている大きな体を彼の自宅へと運んだのだった......。


ーーーーー

  朝を迎えた俺は、キュアリスや桜より先に目を覚ました。

  俺達はルインドの家の一室を借り、疲れから雑魚寝をしてしまっていたのだ。

  ふと部屋の中に目をやると、まだ寝ている二人は曇りのない表情をしていた。

  そして俺は、二人を起こさぬ様に静かに部屋を出て行ったのであった......。

  階段を降りて少し歩くと、広いリビングでルインドが頭を抱えながら、隣で心配そうにしているリフェスに付き添われていた。

「おはよう......。」

  俺は控え目に挨拶をした。

  するとルインドはそれに気付き、

「お、おはよう!昨日は飲み過ぎたよ!すっかり二日酔いだ!」

と、相変わらず頭を抱えたまま、笑顔で返した。

  俺はその表情から、彼もやっと落ち着けるのだと考えて、

「昨日は本当にありがとう。本当に楽しかった。」

と、ルインドに頭を下げたのだった。

  その後すぐルインドは、微笑を浮かべながら、

「気にするな!!ところで、そろそろ旅に出てしまうのか?」

と、少しだけ寂しそうな口調で俺に問いかけて来た。

  俺はその質問に、

「そうだな。明日の朝には出発しようと思っているよ......。」

と、彼から目をそらす形で答えた。

  するとルインドにくっついていたリフェスが悲しそうな顔をして、

「......桜ちゃんも......?」

と、目をウルウルさせていた。


ーー初めて出来た友達を、失いたくない。


ーーきっと彼女はそんな気持ちなんだろう......。


  その時、桜とキュアリスが目を覚ました様でリビングに現れた。

「でも、ずっと友達だよ!!」
 
  桜は話を聞いていた様で、リフェスへと叫んだのだ。

  リフェスは桜のいきなりの登場に少々戸惑っていたが、その後すぐに彼女の元へ走って行った。

「約束だよ......。ずっと友達だからね......。」

  リフェスは桜に向け小指を立てて、涙を堪えながら、確認を取った。

「当たり前でしょ!!」

  桜も泣き笑いをしながらリフェスに小指を向けた。


ーーそして、二人の小指は重なったのだった......。


  俺はその様子を見ると、二人に、

「まだ出発まで時間があるから遊んで来な!!」

と、伝えると、桜は俺に向け、

「わかった!行ってくるね!!」

と、言い残して奥の部屋へと駆けて行った。


  二人のいなくなった部屋でルインドは水を一杯一気飲みして俺とキュアリスへ伝えた。

「実は俺の妻も一昨年、人間に殺されてしまったんだよ...。」

  俺達はそれを聞くと、少し驚いた。

  そして彼は続ける。

「それからリフェスは塞ぎ込む様になっちまったんだ......。それまでは明るい子だった。」


ーールインドの妻は、心優しい女性だったらしい。


  誰からも慕われる存在で、その日も日課であった村の外の墓を綺麗にしようとしていた。

  警護の者が守りつつ、彼女は一つ一つ丹精込めて洗っていたのだった。


ーーだがその時、誰も見抜けなかった人間の攻撃が彼女の胸を射抜いたのだった......。


  結果、彼女はそのまま帰らぬ人になったのだ......。

  俺はその話を聞き終えると、あの墓がやけに綺麗にされていた事を思い出す。

  そして、ルインドは俺達に向け、最後に伝えた。

「でも、リフェスはもう大丈夫だろう。だって、桜という友達が出来たんだから......。」


ーー俺は、ルインドとリフェスの抱えていた心の闇を知ると、少しだけ泣いてしまった。


ーー桜、これからもずっと友達でいてやってくれ。


  俺は、そのまま動けずに上を向いていたのだった......。

「人って不思議だね......。どんな出会いで、どんなキッカケで変わって行くのかわからない。」

キュアリスがふと、そんな事を呟いた。

  ルインドはそれを聞くと、

「そうだな、本当に......。」

と、微笑みながら下を向いたのだった......。ーー


ーーそんな時、中央の広場の方から、

「ドンッ!!!」

と、爆音が聞こえて来た。

「何事だ?!まさか、まだ『遊び』は終わっていなかったのか?!」

  ルインドがそう叫ぶと、俺達は急いで広場へ走り出して行った。


ーー到着すると、広場のど真ん中に煙が舞っていて、昨日の片付けをしていた獣人族達も呆然とその爆音の元と思われる煙を見ていたのだった......。


ーーそして、煙が消えて行く......。


ーーーすっかり煙が消えると、そこには一人の少女がいた。


  その少女は、俺と同い年くらいの、青髪に紅い瞳、背丈は平均程で真っ赤なドレスを身に纏った美少女だった。

  そしてその少女は不機嫌そうな顔をして、高らかに叫んだ。


「最近獣人族を狙った悪事をしているって聞いたから救いに来たら、もう終わってるじゃない!!」


ーー俺は、その少女の謎の発言に只、立ち尽くす事しか出来なかった......。


  するとその少女は周りを見渡して、キュアリスを見つけると、彼女の方へゆっくりと歩いて行った。


ーー開いた口が塞がらない周囲の目を気にもせず......。


  そして、突然抱きついた。

「久しぶり!!キュアリス!!」

  キュアリスはかなり戸惑った後で、その少女へ口を開いた。

「なぜこんな場所におられるのですか?!キャロリール王女......。」


ーー王女......?


ーー俺は、キュアリスから放たれた言葉に、聞き間違いをしたのかと自分の耳を疑ったのだった。


  だが、その少女はキュアリスから一度離れて胸を張りながら、

「そうだな!!あたしも王女としてこの国の民衆を助けようと思ってな!!だから、来たんだ!!」

と、したり顔を決めていた。


ーーそこで俺は自分の耳が正しかった事を確認した......。


ーー何故、ベリスタ王国王女が一人でやって来たのだ......?


ーーどうしてキュアリスと知り合いなのか......?


  そんな事を考えていると、俺は少しだけ頭が痛くなったのであった......。

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