天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第25話 都市伝説級。


ーーーーーー

  男は、潔いほどの笑顔で俺へと攻撃を仕掛ける。

  その両手には、赤と緑の色をした『異能』が宿されていて、まるで俺に今までの憎しみ全てをぶつけている様にも思えた。

  どうやら自分から打ち出した草を炎で燃焼する事によって、破壊力を増幅させているらしい。

  実際に彼の繰り出した炎は、黒く燃焼して村の家々を一瞬で潰しているのがわかった。


ーーその炎はまるで俺の理想を打ち崩そうとしているかのごとく......。


  俺はその攻撃が来る度に水や土、火や草などの『異能』を使って回避を続けたのだった。


ーー数十メートル離れた背後にある大きな壁にだけは決して当てぬ様に......。


  そして彼の笑顔の奥に感じる『憎悪』は、辺りにあった塀や、手作りであろう入り口にある木造の門、村の建物を完膚なきまでに破壊しても消える事は無さそうである。


ーー俺はその男から感じる感情は元々からではなさそうだと感じた。


ーー何かに『絶望』した結果なのだろうから......。


ーーそう考えると俺は男に対して攻め込む事が出来なくなってしまっていたのだった。


  そこで俺は、一心不乱に暴れまわり隙だらけの彼の腕に向かって土属性で作った矢を撃ち放った。

  それは、見事に男の右腕に刺さったのであった......。

  そして、彼は一瞬だけ苦しみの表情を浮かべると、攻撃の手を止める......。

「お前は何で、こんな無意味な事をするんだ!」

  俺は、一度動きを止めた彼に問いかけた。

  すると彼は呼吸を荒くしながら腕に刺さった矢を笑いながら抜いて、

「まあ、話す必要もない事だが......。お前も日本から来たんだろ......?」

と、逆に質問を投げかけて来た。

  俺は相変わらず攻撃に備え、体に水のオーラを纏ったままでその質問に頷いた。

  彼は俺が頷いたのを確認すると、続けるのであった。

「お前はこの世界に来て何が変わった?俺は五年前に転移してから、数々の戦争に参加して来た。いや、参加させられたんだ......。そこで見たものは、『悪意』で塗り固められた物だったよ。」


ーー俺は彼のその言動から、この世界と日本での共通点を見出していた。


ーー『させられていた』この言葉に物凄く違和感を感じつつ......。


「結局、どの世界にいても『矢立駿』と言う男は必要悪な存在で、何も変わらない。そんな事に気がつくと、バカらしくなったのさ!」

  彼は初めて自分の名前を名乗った後で、『諦め』を口にしたのだ......。


ーー『矢立駿』はきっと、日本でもこの世界に於いても、もがき苦しんで、『絶望』を感じ、この結論に達したのだろう......。


  俺は矢立の投げやりな態度に対して、

「だが俺はこの世界に来て、変わった事がある。仲間と共に世界を救おうと考えたんだ。それだけは絶対に揺るがない!例え、お前が経験した『絶望』を味わったとしても......。」

と、語尾に力を込めて決意した。

  すると彼の笑顔は、怒りの表情へと変わって行き、

「本物の馬鹿には制裁が必要だな!折角今まで手加減してやっていたのに、ぶっ壊しやがって......。殺してやるよ。」

と、叫んだ後、体から雷のオーラを纏い出したのだった......。


ーーそれと同時に辺りの空は一気に暗い雲に包まれ、地面には騒がしいまでの雷鳴が轟いていたのだ......。


ーー俺はそれを見て固まってしまった......。


ーー前にキュアリスの話していた都市伝説級の『異能』と言うのは『風』だった。


ーー聞きそびれてしまっていたが、きっと、この『雷』に関しても、都市伝説級なのだろう......。


  俺は、そう強く感じた。


ーー矢立駿は、俺との戦いの間、ずっと手加減をしていた......。


ーー何故あれ程の『憎悪』を抱いていた者が......。


  俺は、そんな疑問抱きつつ、目の前に起こっている危機を回避せねばと考えていたのだった。

  そして俺は、背後の壁が危険だと判断して、それの反対方向へと走り出すのであった。

  それを見た矢立は、俺に挨拶程度で雷の光線を眩いばかりに放った。

  俺は走りつつ土の『異能』で壁を作り、回避を試みる。


ーーしかし、その光線は壁をいとも簡単に突き抜けて行き、俺の脇腹を掠った。

  背後を見ると、村の先の茂みの辺りで大きな爆発を起こし、その場所は真っさらになってしまっていた......。


ーー脇腹を確認すると、真っ黒に焦げ上がっていた......。


ーーそして、痛みが俺を支配する。


ーー俺は、初めて攻撃を喰らい、その痛みを感じていた......。


  そして、一度膝を着いてしまった......。


ーーこの男は、強い......。


  俺はそんな気持ちで矢立を睨んだ。

  すると矢立は、相変わらず雷の轟く村の広場の中で、

「どうだ、痛いだろ?お前じゃ俺には絶対に勝てねえよ。だから、くだらない考えはもうしねえ事だな。」

と、再び笑顔で俺に告げる。

  だが俺は、痛みに耐えながらも脇腹を抱えて、

「決意っていうのは、そんなに簡単に打ち消せないもんだよ......。」

と、呟いた後で再び立ち上がり、炎のオーラを体全体に纏わせた。

 そして続けて、

「俺は、世界を救う!!!」

と、大声で叫んだのであった。

  矢立はその一言を聞くと、眉間にしわを寄せ、俺を強く睨みつけた後で、

「お前の考えはよく分かったよ!じゃあ、喰らうがいい!」

と、叫んで、先程の光線よりも数十倍の雷の塊を両腕の前に作り上げ、それを俺目掛けて放って来たのであった。

  それは地面すらも抉り、衝撃で周囲に転がっている木片や岩すらも跳ね飛ばし、俺に向かって来た。

  俺は、全身に纏った炎を最大レベルまで広げ、オーラは周囲十メートル程にまで及んだ。

  そして、向かってくる雷に放ったのだ。


ーーその『異能』同士が交錯すると、お互いが押し合っているのが分かった。


ーー俺は力を緩める事なくそれを続ける......。


ーーしかし、雷は炎を打ち消して、いとも容易く俺を撃ち抜いた。


ーー俺は、その衝撃に耐えられず叫び声を上げたのだった。


ーー辛うじて纏っていた炎のオーラが雷の致死量を防いではいたが、俺はその場で倒れたのであった。


「だから言ったんだ。俺達『異世界人』は同じ穴のムジナだ。この世界に何ももたらさない。必要悪でしかないんだよ!」

  矢立は自分を戒める様に俺に向かって叫んだ。


ーー俺は何も出来ないのか?


ーー俺の小さな手では世界を救う事など出来ないのか?


俺は矢立の言葉を聞くと、ネガティブな感情を抱いた。


ーー目の前にいる圧倒的な力の持ち主に、告げられた重い一言によって......。


  そして俺は、そう考えている内に、悔しくて涙が頬を伝った。


ーー悔しい......。


ーー俺のやろうとしている事は、只の戯言なのか......?


ーーそんな事許される訳がない。


ーーこんな馬鹿げた世界、変えてやるんだ。


  倒れたままで俺は消える事のない気持ちを抑えられなくなっていた。


ーーすると、体の奥から、何かを感じたのだった......。


  そして矢立は動けなくなった俺に近づいて来て、雷のオーラを拳に纏わせ、

「俺も昔、お前と同じ志はあったもんだよ......。俺は俺の正義でやって来た......。あの獣人族に対する『遊び』も、俺がここで一番強い奴の首を取れば終わると思っていたんだ。死ぬ前に教えてやるよ。」

と、聞ける事の無かった真意を述べたのだった......。


ーー俺は死ぬ間際でそんな彼の言葉を聞き、目が覚めた。


ーー彼も考えて、この獣人族への『差別』を駆逐しようとしていた事に......。


「本当はお前を殺すつもりはなかったが......。」

  そう言うと矢立は俺に向かってその拳を振り下ろした。


ーー俺は、世界を救いたい......。


ーー誰もが笑える世界を作りたい......。


ーーーーすると、俺は体の中から『風』を感じたのだった。


  そして、本能のままに雷に向かい、その『風』を放つ。


  矢立はその俺の放った『風』によって、吹き飛ばされたのであった。


ーー目の前には暴風が吹き荒れた。


  俺は、不思議と体が軽くなり、再び立ち上がった。

  矢立は燃え盛った家屋へ吹き飛ばされた。

  そして、もう一度立ち上がって驚きの表情を浮かべていた。

「お前......。『風』の『異能』を......。」

  矢立は目の前で起きている暴風を見ながら呟いた。


ーー俺は絶対に諦めない。


  そんな気持ちを持った後で、俺は体に『風』を立ちのぼらせ、矢立に告げた。

「これで終わりにしよう......。」

俺がそう宣言すると、矢立は気持ちを切り替えた後で、精悍な顔つきをして、もう一度両手ので『雷』の塊を作り上げ、

「そうだな......。これで全てを終わりにしようか......。」

と、賛同をした。


ーー宣言を終えると、二人は一斉に『異能』を放った。


  真っ暗な曇り空の中で光線と真っ白な暴風がお互いを目掛けて飛んで行く......。

  それは、この世の終わりかの様な光景をして......。


ーーそして、お互いの技が交わった時、雷はいとも容易く消え去った。


  勢いを知らない『風』は、矢立を吹き飛ばして行き、そのまま茂みの奥で爆発をした。


ーー俺は、それを見ると勝ったことを確信した。


ーーそして村を出て、彼の元へと駆け寄る。


  その先の彼は戦闘不能な程にボロボロになって倒れていた。

  そんな矢立は、俺に向かって小さく囁いた。

「俺もこの世界を変える為に努力をして来た......。だが、世間は冷たい......。どんなに強い気持ちを持っても崩されてしまう......。だから、俺は悪者を演じる事を誓ったんだ......。少しでもこの世界が良くなる事を願ってな......。」


ーーだから、彼は俺に手を抜いていたのであろう。


ーー多分、ルインドを殺すつもりも無かったのでは......。


  俺は、そう考えた後で、すっかり晴れ渡った空を見上げた。


  そして、矢立に宣言をしたのだった。

「俺は、真っ向から挑んでやるよ。だから、お前にも協力して欲しい。」

  俺がそう言うと、彼は微笑んだ後で、

「まあ、頑張ってくれよ......。俺は俺のやり方で正義を貫くつもりだ......。」

と、言って、気を失ったのだった。

  そして、俺はそれを見届けると、再び自分に気合を入れ直した後で、周囲に大量にある獣人族の墓を横目に意識を失ったのであった......。


ーールインドとの約束を破って村の外へ、出てしまったな......。


そんな気持ちを抱きつつ、俺は目を閉じるのであった......。

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