天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第19話 森の中で気づいた大切なこと。


ーーーーーー

  俺達は再び旅に出てから、早一週間が経っていた。

  目的の場所は、先日フリードが教えてくれた、『ベゴニア村』である。

  森を越え、砂漠と形容できる地域を越えて今は山の麓にいたのだった。

  旅の最中は、桜の作った家があるのでそこまで不自由する事なく進んでいる。

  俺の水の『異能』と、キュアリスの炎の『異能』によって、食事から風呂まで入れ、大半の生活に支障が生じる事はなかった。

  しかし、幾ら生活環境が整っていても、やはり徒歩での移動となっているので、なかなか骨の折れる旅になっていたのは、言わずともである。


ーー何よりも、明日からは山脈を越えねばならない。


  その山脈を越えてやっと、『ベゴニア村』に到着するのだ。

  俺は、ロンブローシティでキュアリスに、

「山脈を越えるならそんな薄い格好じゃ風邪引いちゃうよ!」

と、念を押されたので、着慣れた夏服を脱ぎ、この世界の衣服に身を纏っていた。

  そして、早朝、俺は二人に宣言した。

「じゃあこれから、山を越える事になる。どうやら、二日程で村に到着出来るらしい。気を引き締めて登ろう!」

  俺がそう意気込みを口にすると、キュアリスは、

「頑張りましょう!あと少しだからね!」

と、答えていた。

  桜は、嫌々という表情を浮かべながら、

「疲れたらおんぶだからね!!」

などと、早くも保険を張っていた。

  そして、俺達は山脈へと足を踏み入れるのであった......。


ーーーーーー

  山脈の中に入ってから、早、五時間ほどが経過した頃、桜はすっかりと飽きてしまっていた。

「ねえ......。一回休もうよー!!もう疲れた!」

と、俺の背中の上で駄々を捏ねていた。


ーーいやお前、もう暫く歩いてないだろうが......。


  俺はそんな事を思いながらもキュアリスの方に目をやった。

  すると彼女も、少し息が上がり気味になっていて、疲労を感じているのが分かった。

  俺は、それを見て、

「じゃあ、そろそろ一回休憩を取るか。」

と、一旦休憩を取る事を決意した。

  その場所は、樹木も疎らになっている地域で、見晴らしも良好であった。

  そこに一度腰掛けてキュアリスは、鞄からいつもの様にお菓子を取り出した。

「ほら、おやつ食べようか!」

  桜はそれを見ると、興奮して、口に頬張っていた。

  俺はそれを、微笑みながら見ていた。


ーー俺達は一通り軽食を終えると、ひと息ついていた。

 
  すると桜は、少し先に咲いている珍しい花に目をつけた。

  それを見ると、目を輝かせながら、

「ねえ、あそこの花、見に行ってもいい?!」

と、俺に許し求めて来た。

  俺はその言葉を聞くと、

「良いけど、すぐに戻ってくるんだぞ......。」

そう釘を打って了承したのだった。


ーーそして、二人になった俺は、遠くに見える桜に目を向けながら、キュアリスに口を開いた。


「俺も最近やっと、少しは人に心が開ける様になった気がするよ。」

  それを聞くとキュアリスは、一瞬驚いた表情を浮かべた後で、

「そうなったんだね。桜の影響もだいぶあるのかもしれないし......。本当に最初と比べると、雄二は変わったよ。」

と、微笑みながら答えた。


ーーいや、お前のおかげだよ......。


  俺は、そんな事を考えながらも、それを伝えるのをやめた。

  そして地図を開き、これからのルートについての計画を立て始めた。

「この山脈を越えて、『ベゴニア村』である程度の物資を調達する。その後、二、三日そこに滞在した後で、『首都リバイル』を目指す事にしようと思ってる。」

  俺が説明を終えるとキュアリスは、

「うん。その計画で良いと思う!私も、今まで以上に頑張るから、任せて!」

そう張り切りながら答えた。


ーー首都への道は少し遠回りになっているが、
誤差の範囲なので、あまり気にする事はない。


  俺はそう考えながら、それよりも目前にある場所への、グリンデルの端書が気になった。


ーーもし仮に何かのアクシデントで、ロンブローシティから山脈を越えるのであれば、中腹の辺りの森になる所には気をつけろ。

あそこの森は、白狼の生息地になっていて、群れが闊歩している危険な場所だ。ーー


  俺はそれを考えると、今日中にその森を抜けるのが最善だと思った。

  そこでキュアリスに、その旨を伝えた。

  すると、彼女も頷いてくれた。


  という事で、俺は出掛ける準備をした後で、桜を呼びに行こうとした。

  そして、先程の花の咲いている辺りへと走って行 った。


ーーしかし、そこに桜の姿はなかったのだ......。


ーーその先にはすぐに、白狼の森がある......。


ーー俺はそれに気が付くと、走り出したのだった。


「どうしたの?!雄二!」

  キュアリスは俺が走り出すのに気づくと、驚いた表情で問いかけて来た。

  俺は、走る足を止める事なく、

「ちょっと桜を探してくる!中は危険だから、待っていてくれ!」

と、答えた。

  すると彼女は、不安そうな顔をして、

「分かった。必ず見つけてくるんだよ!」

と、俺を見送った。

ーーそして俺は、森の中へと足を踏み入れるのであった......。


ーーーーーー

ーー森の中に入るとその雰囲気は独特で、何よりも静かすぎるのが逆に不気味さを物語っていた。


  俺はその雰囲気を感じ取ると、余計に不安が増して行くばかりであった。

「桜!!いたら返事しろ!!」


  そして俺は、叫び続けた。


ーーすると木陰から物音が聞こえ、俺は、桜が声を頼りにやって来たのだと思い、急いでそこへと駆け寄った。


ーーだが、俺の目の前いたのは、桜ではなく、数頭の白狼であったのだ......。


  およそ三メートルを越える大柄な体に、鋭い牙、肉を欲しているかの様な眼差し。

  それはまさに、この森の王者に相応しい風格をしていたのだ......。


ーー俺は、それを見ると慌てて間合いを取った。


  白狼達はそれを確認すると、物凄い勢いで襲いかかって来たのだ......。
 
  俺は、その白狼の一体一体に水の『異能』を撃つ事によって倒して行った。

  そして全て倒すと、俺は再び走り出すのであった......。


ーー桜、無事でいろよ。


そんな不安を抱えながら......。ーー


ーーーーーー

  もうすでに、夕暮れ時だ。


ーーだが、未だに桜は見つからない。


ーー現れるのは白狼だけだ。


  俺は、その中でも決して諦める事なく彼女を探し続けていた。


ーー絶対に無事でいろよ。


  そして、森の奥へ奥へと進んで行った......。


ーーそんな時、茂みの更に奥の方から、

「ドンッ!!!!!」

という、破裂音が聞こえたのだった。

  俺はそれを聞くと、桜が何かに巻き込まれたのかと思った。

  すかさず、その音の方向へと再び走り出す。


ーーすると、そこには桜がいた。


ーー大泣きをしている桜がいた......。


ーー俺はそれを見て、彼女が無事だった事を確認した。


ーー周りに土の槍が刺さって無残な姿になった大量の白狼の死体が転がっている中で......。


  俺は一瞬、自分の目を疑ってしまった。


ーーこの白狼達を全て桜が倒したのか......。


 だが、そんな事はすぐに忘れた。


ーー桜は無事だったのだから......。


  俺は、そのまま桜の元へと駆け寄った。

「大丈夫だったか?!探したぞ!!」

  俺は安堵しつつ、汗だくになった体で彼女を抱きしめた。

  そんな俺の安堵の一言に桜は、

「ごめんなさい。怖かったよ......。お花を探しに森へ入ったら、狼が桜を追いかけて来て......。」

と、涙で顔を濡らしながら俺の体にしがみついていた。

「まあ、見つかって良かったよ。とりあえず帰ろう。」

  俺はそう言うと、桜の手をぎゅっと繋ぎながら、キュアリスの元へと戻って行くのだった。


ーーーーーー

  俺と桜が先程の場所に戻る頃にはもう外は真っ暗になっていた。

  俺はとりあえず桜に、キュアリスにもちゃんと謝る様に促した。

  それに彼女はコクリと頷いていた。


ーーそして森を抜けると、キュアリスは俺達を待っていた様で、半べそ状態になりながら走って来た。


ーー俺はその様子から、彼女が余程心配していたのが伺えた。


  そして、キュアリスはそのまま桜の前にしゃがみ込んだ。

  すると桜は、今回のことを謝ろうと、口を開いた。

「キュアリス、ごめんなさ......。」

と言いかけた時だった......。


ーー「パンッ!!!」


ーーそんな音が静寂に包まれた暗がりに響き渡った。


 その音の先には、キュアリスの掌があった。


ーー彼女は涙を流しながら、桜の頬を叩いたのだった。


  そして、涙目になって頬を押さえている桜に向かって、震え声で呟いた.....。

「雄二がすぐに戻って来てって言った筈でしょ......。無事だったから良かったけど、何かあったらどうするつもりだったの....。」


ーーそれを聞くと桜は、みるみる内に表情が崩れて行った後で、


「ごめんなさい!!!!」


と、大声で泣きながらキュアリスの胸に飛び込んで行った。


ーー俺は、そんなキュアリスの表情を見るのは初めてだった......。


ーーだからこそ、キュアリスから桜への愛情が痛いほど伝わって来たのだ......。


  二人は泣きながら抱き合っていた。


ーーそんな優しい空間の中で、俺は立ち尽くしていたのだった......。


ーーーーーー

  結局その夜は一度、その場所で一夜を明かす事にして、俺達は手慣れた様に明日に向けての英気を養った。

  すっかり泣き止んだ桜により再び家が造られ、食事を摂った後、桜はすぐに眠りに就いたのだった......。

  二人になった時、俺は先程の事について聞いてみた。

「さっきは驚いたけど、ありがとな......。」

  俺がそう言うと、キュアリスは微笑みながら答えた。

「驚かせてごめんね。でも、それだけ桜の事が大切だったから......。」

  俺はそれを聴き終えると、小さく頷いた。

  そして、彼女は続けた。

「私達ってもう『家族』みたいなものじゃない。だから、失いたくないの。傷つけたくもない。大切な存在だから......。」


ーー俺はそれを聞いた瞬間、心の奥が騒めき出しているのが分かった。


ーー『家族』


ーー俺はそれを聞くと、暫く固まってしまった....。


  するとキュアリスは、

「どうしたの?」

と、問いかけて来た。


  俺は慌てて、

「いや、何でもないよ。」

と、返したのだった。


ーー俺が一番求めていて、一番遠くにあったもの......。


ーーそれが今、目の前にある事に気がついたのだった......。

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