天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第10話 決意の表れ。

ーーーーーー

  今にも日の落ちそうな夕暮れ時、俺達はグリンデルに連れられて街の一角にある大衆酒場へと案内されていた。

  そして店に入り、テーブルの奥に座るとグリンデルは、

「すまんな!軍の方の予算も、なかなか逼迫している様で、この様な場所になってしまった......。本当はもっと良い場所に連れて行ってやりたかったのだが......。」

と、申し訳なさそうに俺達へ向け、謝罪を口にした。

「いやいや、気にしないでくれ。むしろ、ご馳走してもらって、本当に有難いよ......。」

  俺はその謝罪に対し、彼にそう感謝を述べた。

「本当にすまん......。だが、ここの酒場のパスタは、天下一品なんだ。幾らでも食べてくれていいからな!」

  彼がそう太鼓判を押した。

  俺はキュアリスの方を見て、彼女が頷いたのを確認した。

  その後で、笑顔で
 
「じゃあ、それを二つもらっていいか?」

と、俺は答えた。


ーーこの酒場は賑わっている。


  今日起きた事を楽しげに話している者もいれば、男女関係で何かあったのか泣いている者、喧嘩をしている者もいる。


ーーここには、喜怒哀楽が全て揃っているのだ。


ーーーー俺に足りない物が、全てが......。


  そんな事を考えながらも、俺は食事を待っていたのだ。

  すると、グリンデルは俺に向かって、

「だいぶ遅れてしまったが、今回の一件、大変、感謝を申し上げる。」

と、深々と頭を下げた。

  それを見て俺は、

「いやいや、感謝される程の事ではないよ。実際に俺達だって、危なかったのには変わりない訳だし......。」

そう、謙遜しながら答えた。

  その後で続けて、

「ところで何故、あの場所に軍師長であるお前がいたんだ?」

  俺は聞きそびれてしまっていた、あの時の状況について聞いてみた。

  その質問にグリンデルは、

「実は最近、メルパルク山の周りでドラゴンの仕業とは違う、不穏な動きがあったと聞いていたのだ。」

と、神妙な顔で答えた。

  話によると、近頃この街で、人攫いが多発しているらしい。

  その中で、一人の子供を攫って行った男が、山の方へと走っていくのを見かけたと言う情報を手に入れたのだとか。

  実際に今、国交が余り上手く行っていない隣国、『ヘリスタディ帝国』では、人身売買が蔓延している。

  そうなると、もしかしたら『ヘリスタディ帝国』指揮の下でその様な動きがあるのかもしれない。

  グリンデルは、先程の山、メルパルク山を拠点に、奴らが何らかの動きを起こしているのでは、と考え、軍師長である彼自ら指揮を執り、捜査に乗り出した、と言う話だった。


「その時に......。」

  俺は、その先の展開を予想して、おもむろに口を開いた。

  するとグリンデルは情けない表情を浮かべた後で、

「そうなんだ。本当は昼間の内に捜査を終わらせようと思っていたのだが......。我々は、時間感覚を失っていたのか、気がついたら夜になり、『スケアリー・ドラゴン』と出くわしてしまったのだ。何とか応戦はしたのだが、我々の力ではどうにもならず、結局逃げていた所にお主らと出くわしたのだ......。」

と、溜息交じりで説明をした。


ーー俺は、時間感覚という言葉に少しだけ引っかかったが今は何もわからない状態なので、聞き流す事にした。


「しかし、我が国で最も恐れられている生物の一つ、『スケアリー・ドラゴン』を討伐してしまったのには驚いた物だよ。」

グリンデルは、真面目な顔から笑顔に戻り、興奮気味にそう続けた。


ーーどうやら、俺の倒した『スケアリー・ドラゴン』は、出会ったら最後、と言われる程に恐れられている存在であったみたいだ。


  その強さは、まさに災難級で、

『悪い事したら、メルパルク山のドラゴンの餌にしちゃうよ。』

という言葉がある程であったらしい。

  俺は、その話を聞いて、思った。


ーーきっとキュアリスはその事を知っていた筈だ......。


  そして俺は、少しだけ怒りの表情を浮かべた後で彼女に、

「お前は知っていたのか?」

と、睨みながら問いかけた。

  すると彼女は、
 
「あなたなら必ず勝てると思ったから。それに、どうせ止めても『行く』って言いそうだったし!」

と、万遍の笑みで答えた。


ーー何でそんなに俺なんかを信用出来るんだよ......。


  俺はそう思ったが、言い返す事をやめたのだった。

  そんな様子を見ていたグリンデルは、一呼吸置いて、俺に気になる事を口にした。

「流石、お主が我が国の軍帥殿と同じ、『異世界人』である事も、理解出来たものよ。」

  その言葉を聞いて、俺は、少し知りたくなった事があった。

「彼女は何故、この国で軍帥をやる事になったんだ?」

  俺の問いかけに、グリンデルは、何か言いたげな顔をしたが、直ぐに元に戻り、

「それは、いずれ彼女の口から直接聞いた方がいい...。」

そこまでで留まったのであった。


ーー俺は、少し先の話を聞きたかった。


  どの様な理由で『森山葉月』は、軍帥になっていったのかを......。

  俺が難しい顔をしていると、グリンデルは、続ける様にして告げた。

「だが、一つだけ言える事がある。軍帥殿は、お主の味方だ。お主が、この世界を救いたいと思い続ける限りな......。」


ーーその、力強い言葉を聞いて、俺はいずれ会った時にしっかりと話を聞こう。


  そう考え、その話題について深追いする事を辞めたのであった......。


ーーそうしている内に、手元にパスタが届いたので、俺達はそれを口に運ぶ。


ーー味は、グリンデルの評判通り、絶品な物だった。

思わず、驚愕の表情で、

「美味い...。」

と、口にしてしまう程に。


ーーだが、キュアリスだけは、

「ぐぬぬ......。認めたくないけど、これは確かに美味しいね......。」

などと、対抗意識丸出しになって居るのが見て取れた。


ーー彼女はどうしても、料理だけは絶対に負けたくないのであろう......。ーー



ーーその後は、グリンデルと談笑をしたりして過ごした。


  キュアリスはキュアリスで、店主に、パスタの作り方について聞いたりしていた。


ーー断られても、何度でも...。


  そして、時間はあっという間に過ぎて行き、俺達は店を出たのだ。


ーー店を出ると、外にはグリンデルを兵士が待っていた。


「今日はご馳走様でした。とても、楽しい時間を過ごせたよ。」

  俺は彼に、お礼を言った。

  それに対してグリンデルは、

「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。後、これから何処に向かうのだ?」

と、笑顔で答えた後で、行き先を聞いてきた。


  そこで俺は、微笑を浮かべながら、

「ベリスタ王国の首都である、『リバイル』だ。」

そう胸を張って答えた。


ーー実は俺は、店で軍帥の話を聞いた時から行き先を決めていたのだ。


  そこに行って、もう一度『森山葉月』と、しっかり話をする為に......。

  すると、グリンデルは、

「ふふ......。やはりそう言うと思ったよ。だが、道のりは、かなり険しいぞ。魔物や、紛争地帯があったりもする。是非、気をつけて行って欲しい物だ。」

と、俺の決意を読んだ後で、注意を口にした。

  その言葉に対して俺は、

「当たり前だ。」

そう、短い言葉だけを伝えた。


ーーキュアリスの事は、一度も見る事なく......。


「もし何か、危険な事に巻き込まれてしまったら、これに念じると良い。」

グリンデルは俺にそう告げると、真ん中に赤いルビーを埋め込まれたペンダントを俺に差し出した。

「なんだ?これは......。」

  俺は、そのペンダントを不思議そうに見つめて問いかけた。

  するとグリンデルは、

「これはマジックアイテムで、そこに念じると、同じペンダントを持っている同士で交信を出来る
。もしもの時、使ってくれ。我らはお主を助けに参じる。」

と、笑顔で答えた。


ーーこの世界には、魔法の類もあるのか......。


  そんな事を思いながら、俺はそれを有り難く受け取った。

  その後で、視線をグリンデルに戻して、

「ご厚意感謝するよ。では、また機会があったら、お会いしよう。その時まで......。」

と、グリンデルに告げた。

  すると、彼は、

「おう!達者でな!」

そう、返事をした。


ーーそして、俺達は、グリンデルと別れたのであった。


ーーーーーー

  宿までの帰り道で俺は、キュアリスについて考えていた。


ーーそれは、先日の件で、かなり無理をさせてしまった事だ......。


  グリンデルから今後の道程は、険しいと聞いた。

  そうなると、もしかしたら、キュアリスを悲しませてしまうかもしれない。


ーーそんな事は、絶対に嫌だ......。


  こんなに健気で、真っ直ぐで優しい子なのに......。

  そんな気持ちで頭がいっぱいになってしまっていた。

  暫く葛藤をした後で、俺は、意を決して、隣を歩いているキュアリスに、別れを告げた。

「申し訳ない......。これから危険な事が沢山あるかもしれない。もしそうなった時、俺はお前を守り切れる自信がないんだ......。だから......。」ーー


ーー俺はその先の言葉を言えなかった。


ーー別れを惜しんでいるのもあるのかもしれない。


ーーすると彼女は、俺の意図を察した様で、目の前に立ち止まり、

「そんな事、村を出た時から、もうとっくに覚悟しているよ!だから私を一緒に連れて行って......。絶対に迷惑はかけない!......もう、私を一人にしないで......。」

そう、泣きながら嘆願してきたのであった......。


ーーもしかしたら、彼女は、俺に似ているのかもしれない。


  その言葉を聞いた時に思った。


ーー彼女の身に昔、何があったのかは、わからない。


  只、その必死な形相を見ていると、少しだけ理解出来る事があった。


ーーキュアリスもまた、孤独と戦っているのだ。


  俺は、笑顔の裏で隠し続けていた彼女の気持ちに気づかなかったのだ......。


ーーそして俺は、自分の情けなさを噛み締めながら、これからはキュアリスと支え合って旅を続けよう、と、決意した。


  そんな事を考えていると、自然に涙が出そうになった。

  俺はグッとそれを堪えながら後ろを向いて、ルビーのペンダントを差し出した。

「俺の代わりに持っていてくれ......。」


ーーそう、彼女に告げると、

「これからもよろしくお願いします、雄二。」

と、涙声で答えて、それを受け取った。


ーーーー俺は、ダメな男だ。


  そんな事を思いながらも、俺の心の氷は、完全に溶けて行くのがわかった......。


ーー今から本当の冒険が始まるんだ。


  そう覚悟を決めて、俺達は星空の綺麗な夜空の下で、宿へと足を進めたのであった......。

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コメント

  • 真砂土

    スケアリードラゴン?Scary?怖いって意味だから
    怖いドラゴン?ってことか

    0
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