幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

124話目 忘れてたこと

 俺とリーディアは門前へとたどり着いたが、二人だけで門を抜けるという訳にもいかないのでそこでシャルを待つことにした。内側に居ても外は見えるので、先に二人で抜けようが三人一緒に抜けようが不都合は生じないのだが、だからといって彼女のことを待たないのは薄情と言えよう。


「私は今回の旅で得るものは色々とあったが、リョウ殿は何かそういったことはあっただろうか?」


 シャルを待つ暇つぶしに雑談をしていたが、依頼の最中に散々喋っていたので早々に話のネタは尽き、多少気が早いがリーディアは今回の小旅行の感想を求めてきた。


「まあ、実際に体験してみると予想と違うことが多かったって感じだな」


 本当はあの料理が美味かっただのどうだのと話したかったが、不衛生なことやそもそも調理のレベルの低さも相まって食べたいと思えるような物も無く、結局シャルの調理頼みだったしな。『外』の文明のレベルは知ってはいたが、実感を伴っていないと痛感させられた。


 しかしその反面、見るべきものもあると知ることが出来た。技術やらは全て我流で訓練していたので、たかだか柄一つでああも使い心地が違ってくるというのは盲点であった。この調子じゃあ他にも色々と見落としている事が存在しているに違いない。出来れば『ガンダスの店』は贔屓にしたかったのだが……、娘のアンがあの調子では再度訪れるというのも難しいだろう。というよりも、そもそももう一度この国に何事も無く入れるかすら怪しい。その点は自業自得だが。


「リーディアはどうなんだ?」
「私か? そうだな……」


 質問を投げかけると彼女は十数秒程考え込んだ後に指折り数えながら教えてくれた。


「まずは私のお気に入りの場所を二人に教えられただろう? それに冒険者として活動することもできただろ? 村を助けることが出来たし……」


 シャルと歳が然程変わらない女性が真剣に数えているその仕草がなんとも可笑しいような微笑ましいような、自然と口の端が緩んでしまう。しかし彼女が『ああ、そうだ!』と言って手を『ポン』と叩いて口から出した言葉を聞くと俺の表情は凍り付くことになった。


「リョウ殿が騎士団長を圧倒しているのは流石だと思ったぞ!」
「ちょっと待て」


 俺の言葉に対して『どうした?』と彼女は不思議そうな顔をしているが、ちょっと待てや。俺そんなことした憶えは無いぞ。


「リーディア、いつ、何処で、俺がそんなことをしたんだ」
「それか? えーっと、この国に来た次の日に城の訓練場でやったはずだぞ」
「あいつか!」


 彼女の言葉を聞いて、俺はあの妙に強かった兵士を思い出して思わず叫んだ。成程、リーディアよりも強く、そしてあの場の訓練だけで凄まじい成長を見せたあの男ならば騎士団長というのも頷けるし、ボロスの野郎が意味深な視線を投げかけていた理由も容易に想像がつく。俺の力量を測るためか、はたまた何かしらの技術を盗むためか、そのために団長ともあろう人物を一兵士として紛れ込ませる手段の選ばなさは最早天晴あっぱれとさえ言える。


 というかだな、そんなヤツがあの場にいたんだったらさっさと教えろよ! 特に何か変わったりはしないだろうけど、それでも何か言えよ! 多分ずっと自分よりも上と考えていた騎士団長と俺が戦うという、彼女にとっては一大イベントであるそれに熱中していたんだろうが、それでも! 何か! 言えよ! 常識的に考えて!


「いやー、すまない。ついうっかりしてだな……」


 俺の渾身の突っ込みを、『たはは』と笑いながら『ついうっかり』で済ませるその性格、最近は慣れてきたと思っていたがまだ甘かったようである。脱力してしまって思わずその場にへたり込みそうになるも、俺はなんとかこらえることに成功した。


 まさかとは思うが、似たような事がまだ残ってるんじゃないか? つーかむしろ残ってないと考える理由が無い。いや、残ってる。間違いない。問いたださねば。


「リーディア、思い出せ。まだ何か言わなきゃいかん事が残ってんじゃねえか? 実は俺たちを連れて行った場所が立ち入り禁止の場所だとか、あの村は実は曰く付きだったりとかしないだろうな?」
「いやいや、そんなことは無い、と、思う、ぞ? うんうん、無い……、はずだぞ?」


 こやつ、言ってる事に全く自信が無い。目は泳いでるし、しどろもどろだし、絶対よくわかってない。ああ、面倒事はそんなに無いと思ってたのに、何で最後の最後になって不発弾が残ってるなんて知らなきゃならないんだよ。


 『いいかー、思い出せー、思い出すんだー!』と言われて、リーディアはうんうん唸っていたが、シャルが戻ってきた事にいち早く気づくと顔をバっと上げて、これ幸いとばかりに手を振って彼女に合図を送る。


「シャル殿ー! こっちだー!」
「待たせてごめんなさい! ドラ助のお土産、受け取ってきたよ!」


 怪しまれないくらいに速度を抑えながらも急いで走るという小器用な真似をしながら移動するのは神経を使うんだろうな。肉体的には疲れていないはずだが、彼女は俺たちと合流すると『ふう』と一息ついた。


「よし、それでは早く手続きを済ませてしまおう!」


 そして彼女と合流するや否や、リーディアは門番のもとへと行ってしまう。いやまあ、早く帰りたいのは俺も同じだからいいんだけどね? 何か納得行かねえなあ。


 そんな俺の内心とは関係なく手続きは滞りなく終わり、俺たちは何事も無く門の外へ出て、人目につかない場所で転移魔法を使って久しぶりのわが家へと帰宅するのであった。

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