幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
120話目 依頼達成
それから数日間、暗くなれば警戒などを行ったりはしたが当然ながらゴブリンが村を襲撃することは無かった。不機嫌が続くのではと危惧していたシャルについても、二日目の夜にはやや臍を曲げてはいたものの、向こうから俺の部屋に入ってくるくらいには回復していた。
尚、彼女がぎこちなく俺の部屋に入ってくる様をニヤニヤとしながら見ていたため、その後ポカポカと胸を叩かれるという反撃を食らってしまった。それ自体は別に構わなかったのだが、立て付けの悪い扉が半開きになってしまっていたようで、そのやり取りをライザに見られてしまったため翌朝以降、しばらくの間は汚物を見るような目で見られる羽目になった。
とまれかくまれ村に泊まる事四日が経ち、『もし取りこぼしたゴブリンが村にひょっこりと現れたらどうしよ……』と内心の焦りが大きくなりつつあったが、どうやらキッチリと全滅させることができていたようで杞憂に終わり、ついでに晴れて依頼達成を村長から言い渡されたわけである。
「いやあ、疑ってすまなかった! 蓄えが無いから報酬は増やせないが、報告書には君たちの働きぶりをきちんと書いておくから安心してくれ!」
「まあ、はあ、よろしくお願いします」
報告書とはなんぞや、と思いながらも適当に相槌を返す。後でリーディアに聞いたところ、単に依頼を達成したかどうかだけでなく、真面目に働いていたかどうか、乱暴を働かなかったかどうかなどを報告書に書くことが出来るらしい。
「父がクーデターを起こす前までは帝国でもその辺りが非常になあなあにされていてな。改善するように私が口酸っぱく父に伝えていたんだ」
最後にそのように言い放ち、若干胸を反らしてふんすと誇らしげに鼻を鳴らした。なんだろう、この可愛らしい言動を見ていると胸の内に暖かいものを覚える。ペットを見守る時の気持ちに似ているが、うちのトカゲを見ていてもこんな気持ちにはならんぞ。
村長夫妻に見送られ、帝都目指して村を出発する。本来ならば村人総出で見送りをしたかったそうだが、ゴブリンによる被害がそれなりに大きかったため村人を作業に当たらせなければ冬を越せるか怪しく、見送りさせる暇が無いとのことだった。
ライザに具体的な手の内を明かしたくないので、村を出て人気が無いところで転移魔法を……、ということもせずに普通に徒歩で帝都へと帰っている。村にいる間は暇だったので村の作業を手伝ったりとそれなりに楽しんでいたので、この徒歩による移動がなんだかやけに懐かしく思える。
「村が酷い状態なら、一枚とはいえ金貨を受け取るのも申し訳ないなあ」
ふとそんな考えが浮かび、誰に言うでもなくポツリと呟いた。俺自身が金に困っていたら絶対に出ない発言ではあるものの、金には困っていない……、というよりも必要としていない生活を送っているので、あの村にとっては大金である金貨一枚を貰うことを忍びなく思えてしまう。
「余計な事は考えなくていい。報酬はしっかりと貰っておけ」
返事を期待していなかった言葉にライザが反応する。自分でも偽善めいた考えだと思うが、もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃないでしょうか。
そんな思いが顔に出ていたのか、ライザはジロリとこちらを振り返ると、『はあ』とこの旅で何度聞いたかわからないため息を吐いた後、態度とは釣り合わない丁寧な説明をしてくれた。
曰く、報酬を受け取らなければ多くの人が迷惑を被ることになるらしい。依頼主の事情で勝手に依頼料を減額しても良いなどという前例が出来てしまえば、冒険者が依頼をきちんと達成したのに金を払ってもらえないなんて事態になるかもしれない。
更に言えば、今回もしも俺が報酬を受け取らなければ『あの村は依頼料を反故にした』なんて噂が広まる可能性もあり、そうなればまたあの村が依頼を出しても、今度こそ本当に誰も受けなくなってしまう。
「冒険者ってのはな、依頼主からキッチリと金を貰わなきゃならねえし、その分の仕事を果たさなきゃならねえんだ」
そう言ってライザは俺に釘を刺して説明を終える。納得出来ない話ではないし、気まぐれな善意が却って迷惑になるというなら、やはり報酬はきちんと受け取るべきだろう。
でも、それならもうちょっとくらい作業を手伝えばよかったかな。
そんなことを思いながら、俺はみんなの後ろを歩いていくのであった。
尚、彼女がぎこちなく俺の部屋に入ってくる様をニヤニヤとしながら見ていたため、その後ポカポカと胸を叩かれるという反撃を食らってしまった。それ自体は別に構わなかったのだが、立て付けの悪い扉が半開きになってしまっていたようで、そのやり取りをライザに見られてしまったため翌朝以降、しばらくの間は汚物を見るような目で見られる羽目になった。
とまれかくまれ村に泊まる事四日が経ち、『もし取りこぼしたゴブリンが村にひょっこりと現れたらどうしよ……』と内心の焦りが大きくなりつつあったが、どうやらキッチリと全滅させることができていたようで杞憂に終わり、ついでに晴れて依頼達成を村長から言い渡されたわけである。
「いやあ、疑ってすまなかった! 蓄えが無いから報酬は増やせないが、報告書には君たちの働きぶりをきちんと書いておくから安心してくれ!」
「まあ、はあ、よろしくお願いします」
報告書とはなんぞや、と思いながらも適当に相槌を返す。後でリーディアに聞いたところ、単に依頼を達成したかどうかだけでなく、真面目に働いていたかどうか、乱暴を働かなかったかどうかなどを報告書に書くことが出来るらしい。
「父がクーデターを起こす前までは帝国でもその辺りが非常になあなあにされていてな。改善するように私が口酸っぱく父に伝えていたんだ」
最後にそのように言い放ち、若干胸を反らしてふんすと誇らしげに鼻を鳴らした。なんだろう、この可愛らしい言動を見ていると胸の内に暖かいものを覚える。ペットを見守る時の気持ちに似ているが、うちのトカゲを見ていてもこんな気持ちにはならんぞ。
村長夫妻に見送られ、帝都目指して村を出発する。本来ならば村人総出で見送りをしたかったそうだが、ゴブリンによる被害がそれなりに大きかったため村人を作業に当たらせなければ冬を越せるか怪しく、見送りさせる暇が無いとのことだった。
ライザに具体的な手の内を明かしたくないので、村を出て人気が無いところで転移魔法を……、ということもせずに普通に徒歩で帝都へと帰っている。村にいる間は暇だったので村の作業を手伝ったりとそれなりに楽しんでいたので、この徒歩による移動がなんだかやけに懐かしく思える。
「村が酷い状態なら、一枚とはいえ金貨を受け取るのも申し訳ないなあ」
ふとそんな考えが浮かび、誰に言うでもなくポツリと呟いた。俺自身が金に困っていたら絶対に出ない発言ではあるものの、金には困っていない……、というよりも必要としていない生活を送っているので、あの村にとっては大金である金貨一枚を貰うことを忍びなく思えてしまう。
「余計な事は考えなくていい。報酬はしっかりと貰っておけ」
返事を期待していなかった言葉にライザが反応する。自分でも偽善めいた考えだと思うが、もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃないでしょうか。
そんな思いが顔に出ていたのか、ライザはジロリとこちらを振り返ると、『はあ』とこの旅で何度聞いたかわからないため息を吐いた後、態度とは釣り合わない丁寧な説明をしてくれた。
曰く、報酬を受け取らなければ多くの人が迷惑を被ることになるらしい。依頼主の事情で勝手に依頼料を減額しても良いなどという前例が出来てしまえば、冒険者が依頼をきちんと達成したのに金を払ってもらえないなんて事態になるかもしれない。
更に言えば、今回もしも俺が報酬を受け取らなければ『あの村は依頼料を反故にした』なんて噂が広まる可能性もあり、そうなればまたあの村が依頼を出しても、今度こそ本当に誰も受けなくなってしまう。
「冒険者ってのはな、依頼主からキッチリと金を貰わなきゃならねえし、その分の仕事を果たさなきゃならねえんだ」
そう言ってライザは俺に釘を刺して説明を終える。納得出来ない話ではないし、気まぐれな善意が却って迷惑になるというなら、やはり報酬はきちんと受け取るべきだろう。
でも、それならもうちょっとくらい作業を手伝えばよかったかな。
そんなことを思いながら、俺はみんなの後ろを歩いていくのであった。
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