幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

116話目 収穫祭(死体)

「あ、ちょっと下がって」


 あたしは『嘘だろ?!』と思わずシャルに向けて叫びそうになったがその一言を聞いて咄嗟に後ろに飛びのき、そして次の瞬間あたしの居た場所のすぐ近くで小さな爆発が起こって煙で視界が奪われた。視界が効かなくなる寸前にちらりとキラーウルフの姿が見えたから、あたしは剣を構えてそいつに対処しようとしたが……、煙が晴れるとそれは必要ない事が分かった。


「……綺麗に頭だけ吹き飛ばしやがったのか」


 そこには既に息絶えたキラーウルフの死体が転がっていた。キラーウルフはそのタフさが厄介で知られているが、首から上を丸々失ってしまったら流石にどうしようもえみてえで、首からドクドクと血があふれ出ているがその体はピクリとも動いちゃいねえ。そんな風に死体を観察している最中にも周りからはさっきと同じような爆発音が絶え間なく響いていちゃあいるが、改めて死体を観察した事であたしは一旦落ち着きを取り戻すことが出来た。


 そもそもこの爆発は魔法なのか? 前に仲間の魔法使いに魔法で爆発は起こせねえのか、って聞いてみたら『火薬に着火することで爆発は起こせるが、爆発そのものを起こす魔法は無い』って言われたことがある。だけどさっきあたしの目の前には明らかに何もなかったし、今だってそこかしこから爆発音が聞こえてくるが、そんだけの火薬も、仕込む時間もシャルには無かったはずだ。だからこれは魔法だって思うしか無いのと……、もう一つ気になるのは姫さんの方だ。


「なあ姫さん、あんたもシャルみたいにヤれんのか?」


 地鳴りこそ聞こえてこねえが、爆発音に混じって雄たけびが微かに聞こえてくる。多分だが、リョウもどっかでキラーウルフを殴り殺し、蹴り殺しているはずだ。シャルとリョウがこんだけの実力を隠していたってんなら姫さんももしかして、と思って質問したが姫さんは苦笑いして首を横に振った。


「生憎私一人ではキラーウルフを倒す事は出来なくてな……」


 どうやら三人が三人ともキラーウルフをそこらのザコ同然に扱えるわけじゃあねえらしい。あたしはその事にほっと息を吐いて安心したが、『いくらいつもよりも大きさが小さいとはいえこうも数が多くてはな』って姫さんがぼそりと呟いたのをあたしの耳は聞き逃さなかった。…………やっぱり聞き逃したことにする。


 それにしても、よくもまあこんだけバカスカと魔法を撃って体が持つもんだ。さっき言った魔法使いなら炎の魔法を最大でも十発、安全のために普通は八発までしか撃たないようにしている。それ以上は魔力の使い過ぎで死んじまうからだ。それなのにシャルは一発一発の威力がそれなりにあるっていうのに、この爆発の魔法を少なくとも五十発はぶっぱなしてる。


 一体どんな体をしてやがんだ、と思いあたしはシャルの方を見やると……。


「なっ?! エ、エルフ?!」


 ちょ、ちょっと待て! 何でエルフなんかがこんな場所にいるんだ?! つーかシャルは何処だ!


 そしてシャルの代わりにそこにいたエルフはあたしの声を聞くと深く深く、そりゃもう盛大にため息を吐くと言葉を綴った。


「師匠……、認識阻害の魔法まで解けちゃうのは流石に無いよ……」
「その声、まさかシャルなのか?!」


 エルフの声には聞き覚えがあった、というよりもシャルの声そのものだった。そのエルフはあたしの問いに対して諦めたようにこくりと一回頷くと放っておいてほしいとばかりに作業に集中しだした。


 まさかシャルがエルフだったなんてな……。そんで、その事は確かに驚きだがあんまり驚いちゃいないあたしがいる。どうやらさっきからずっと驚きっぱなしだから感覚が麻痺しちまったみてえだ。どうしてシャルがエルフだったって事に気付かなかったのかってえ疑問は確かに浮かんだが、あんまり気になってねえ。


 もう一生分ここで驚いちまったんじゃねえかな、なんて考えながら姫さんの隣でぼりぼりと頭を掻きながら半ば呆然と立っているとやがて爆発音が止み、シャルは『ふう』と息を吐くとあたしらに『終わったよー』と声をかけてきた。


 そんで、一応姫さんとあたしはシャルの近くに寄ったわけだが正直何を言ったらいいか分からずにいる。いやな、普通なら討伐が終わったら掛ける言葉の一つや二つはポンと出てくるはずだってのに、まーったく頭に言葉が浮かんできやしねえ。


 会話がえまましばらく経つと遠くから大量の馬が駆けてくるような、ドドドドドってえ地響きが届いてきた。『何だよ、また何か来やがったのかよ』ってうんざりしながらそっちに注目すると、その音の原因はリョウだってことが分かったんだが……。


「いやー、すまんすまん! ついこいつらをぶっ殺すのに集中しちゃってさー!」
「師匠、明日の朝もご飯抜きだからね」


 シャルはなんてことないみてえにあっさりと話を始めてるが、あたしはというと思いっきり顔を引き攣らせている。つーかあたしだけじゃねえ、姫さんも固まっちまってんぞ! リョウとシャルは和やかに会話してるが、リョウが今手に持っている物は明らかに雰囲気にふさわしくねえ。


「な、なあ、リョウ、お前の手に持ってるそれはなんだ」


 あたしは恐る恐る尋ねる。いや、分かっちゃあいるんだ。それが何なのかは分かっちゃあいるんだ。でもな、それを理解することをあたしの頭が拒んでるんだ。そしてリョウはなんてことないようにあっけらかんと答えた。


「あ、これ? キラーウルフ」


 そう、キラーウルフなんだ。リョウは片手ずつにキラーウルフの頭を握って運んで来たんだ。ただ、頭部が呆れるくらいに握りつぶされてて、大量の、大量すぎて何体いるか数え切れねえくらいうずたかく積まれたそれを野菜の束を持つみてえにして握っていやがるんだ。


「……お」
「お?」














「お前は一体なんなんだあああああああ!!!!」


 さっき答えを聞いたはずだが、あたしは心からそう叫んだ。

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