幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
115話目 困惑
「えーっと、師匠、その魔物はもう死んでるから早く行こ? ねえ、師匠! 師匠ってば!」
シャルがリョウに歩み寄って腕を取り呼びかけるが、リョウはそれを無視して最早原型すらわからなくなった死体を踏みつけ続ける。シャルが両手を使って思いっきりリョウを引っ張っているがこいつは微動だにしていない。シャルは力の入れすぎで顔を真っ赤にしてるっていうのに何で動かねえんだよこいつ……。
姫さんはどうしてよいか分からずにオロオロとしているし、さっきまで命の危険があった事を微塵も感じさせない馬鹿馬鹿しい光景にあたしが呆気に取られていると、微かながら獣の遠吠えのような音が聞こえた事があたしを我に返らせた。
十中八九こいつの仲間があたしらの事に気付いたはずだ。よく分からねえがキラーウルフ共がすぐ近くにはいない内に逃げるぞ!
「リョウ! さっさと離れねえとそいつの仲間がゾロゾロとやってきちまうぞ! 早く逃げ――」
「何だとお?!」
さっきまでまるで無反応だったくせに、あたしの言葉にやけに強く反応したリョウが勢いよくこちらを振り返りギロリと睨んできた。その眼光があんまりにも鋭かったせいであたしは柄にもなく『ひっ!』なんて声を上げちまったがその事を気にする余裕はねえ。
「あ、ああ。だからそいつらがあたしらに追いつく前に森から出て何とか態勢を――」
「いいぜやってやんよ! てめえら全員血祭にしてやんよおおおおおお!!」
「きゃっ!」
多少声を上ずらせちまいながらも、あたしは何故か懸命にリョウを説得しようとしたが、その甲斐も無くリョウはあたしの言葉を遮り、狂ったように叫ぶと腕を掴んでたシャルを振り切って何処かへと走り去っちまった。あんまりにも動きが早すぎて『走り去った』って言葉が合ってるのかすら分からねえくらいだから、それを止める事なんて到底出来やしなかった。
「あーもう師匠! 帰ったらご飯抜きだからねー!!」
もうその後ろ姿すら見えやしないが、置いて行かれたシャルが尻もちをついた格好のままでそう叫ぶ。って、のんびりしてる場合じゃねえ!
「姫さん! シャル! リョウのバカは放っておいてさっさと逃げるぞ!」
あいつの事は知っちゃことじゃねえ、とは言えねえがそれでも勝手すぎる行動は目に余るし、そもそもあんな速さで動いてるヤツに追いつくなんてあたしらじゃ無理だ。だからこそ二人にそう呼びかけたのだが……。
「はあ、ライザさん、これから起こる事はギルドには喋らないで下さいね?」
シャルがそう言いながら尻を叩きつつ立ち上がる。一体何の話だと聞こうとしたが、そいつは出来なかった。近いとは言えねえが遠いとも言えない場所で馬鹿でかい爆発が起こって、その余波がここまで届いてきたからだ。
「な、何だあ?!」
こんな因果な仕事をして来ただけに訳の分からねえ状況ってのには慣れてるが、今回のは訳が分からねえってもんじゃねえぞ! シャルは既に目を瞑ってブツブツと何かを呟いていて邪魔できる雰囲気じゃねえ。あたしは咄嗟に振り返り姫さんに説明を求める視線を投げる。それを受けた姫さんはオロオロするのを止めて、少し悩んでから苦笑しつつもあたしの疑問に答えた。
「あー、今のはシャル殿の魔法だ、と思う」
「『思う?』」
要領を得ない答えを返されたあたしは思わず姫さんの言葉を繰り返し、姫さんは『ああ』と一度頷いた。そんなやり取りをしている最中にもあちこちから爆発音が聞こえてくるんで、あたしは護衛の任務も忘れて姫さんに近寄って話を続ける。
「私も確証は無いのだが、シャル殿程の魔法の腕前ならばこれくらいは朝飯前のはずだ。多分範囲内に入ってきた敵を自動で爆破する魔法を使っているんだろう。もしくは他の魔法を使って敵の姿を確認して――」
「待て! 待て待て、そんな魔法聞いたことないぞ! 魔法ってのは火を出すか水を出すかするもんだろ?!」
姫さんはさも当然の事のように話をするが、そんな話は生まれてこの方聞いたことがねえ! あたしは驚きを顔に張り付け、ぶんぶんと横に振って否定するが、姫さんは『うんうん、分かる、分かるぞ』って言って頷き、何かに納得するような素振りを見せるだけだ。
「あ、あんたら一体何者なんだよぉ?!」
驚きか、恐怖か、それとも別の何かか、少なくとも好奇心なんてもんじゃねえ衝動に突き動かされたあたしは、聞かないでおくことにしたはずのそれを思わず口にしてしまう。そしてその答えは意外な事にあたしの後ろに居たシャルから返ってきた。
「師匠は『魔の森の魔法使い』って言えばわかるかな? 私とリーディアはその弟子だよ」
シャルがリョウに歩み寄って腕を取り呼びかけるが、リョウはそれを無視して最早原型すらわからなくなった死体を踏みつけ続ける。シャルが両手を使って思いっきりリョウを引っ張っているがこいつは微動だにしていない。シャルは力の入れすぎで顔を真っ赤にしてるっていうのに何で動かねえんだよこいつ……。
姫さんはどうしてよいか分からずにオロオロとしているし、さっきまで命の危険があった事を微塵も感じさせない馬鹿馬鹿しい光景にあたしが呆気に取られていると、微かながら獣の遠吠えのような音が聞こえた事があたしを我に返らせた。
十中八九こいつの仲間があたしらの事に気付いたはずだ。よく分からねえがキラーウルフ共がすぐ近くにはいない内に逃げるぞ!
「リョウ! さっさと離れねえとそいつの仲間がゾロゾロとやってきちまうぞ! 早く逃げ――」
「何だとお?!」
さっきまでまるで無反応だったくせに、あたしの言葉にやけに強く反応したリョウが勢いよくこちらを振り返りギロリと睨んできた。その眼光があんまりにも鋭かったせいであたしは柄にもなく『ひっ!』なんて声を上げちまったがその事を気にする余裕はねえ。
「あ、ああ。だからそいつらがあたしらに追いつく前に森から出て何とか態勢を――」
「いいぜやってやんよ! てめえら全員血祭にしてやんよおおおおおお!!」
「きゃっ!」
多少声を上ずらせちまいながらも、あたしは何故か懸命にリョウを説得しようとしたが、その甲斐も無くリョウはあたしの言葉を遮り、狂ったように叫ぶと腕を掴んでたシャルを振り切って何処かへと走り去っちまった。あんまりにも動きが早すぎて『走り去った』って言葉が合ってるのかすら分からねえくらいだから、それを止める事なんて到底出来やしなかった。
「あーもう師匠! 帰ったらご飯抜きだからねー!!」
もうその後ろ姿すら見えやしないが、置いて行かれたシャルが尻もちをついた格好のままでそう叫ぶ。って、のんびりしてる場合じゃねえ!
「姫さん! シャル! リョウのバカは放っておいてさっさと逃げるぞ!」
あいつの事は知っちゃことじゃねえ、とは言えねえがそれでも勝手すぎる行動は目に余るし、そもそもあんな速さで動いてるヤツに追いつくなんてあたしらじゃ無理だ。だからこそ二人にそう呼びかけたのだが……。
「はあ、ライザさん、これから起こる事はギルドには喋らないで下さいね?」
シャルがそう言いながら尻を叩きつつ立ち上がる。一体何の話だと聞こうとしたが、そいつは出来なかった。近いとは言えねえが遠いとも言えない場所で馬鹿でかい爆発が起こって、その余波がここまで届いてきたからだ。
「な、何だあ?!」
こんな因果な仕事をして来ただけに訳の分からねえ状況ってのには慣れてるが、今回のは訳が分からねえってもんじゃねえぞ! シャルは既に目を瞑ってブツブツと何かを呟いていて邪魔できる雰囲気じゃねえ。あたしは咄嗟に振り返り姫さんに説明を求める視線を投げる。それを受けた姫さんはオロオロするのを止めて、少し悩んでから苦笑しつつもあたしの疑問に答えた。
「あー、今のはシャル殿の魔法だ、と思う」
「『思う?』」
要領を得ない答えを返されたあたしは思わず姫さんの言葉を繰り返し、姫さんは『ああ』と一度頷いた。そんなやり取りをしている最中にもあちこちから爆発音が聞こえてくるんで、あたしは護衛の任務も忘れて姫さんに近寄って話を続ける。
「私も確証は無いのだが、シャル殿程の魔法の腕前ならばこれくらいは朝飯前のはずだ。多分範囲内に入ってきた敵を自動で爆破する魔法を使っているんだろう。もしくは他の魔法を使って敵の姿を確認して――」
「待て! 待て待て、そんな魔法聞いたことないぞ! 魔法ってのは火を出すか水を出すかするもんだろ?!」
姫さんはさも当然の事のように話をするが、そんな話は生まれてこの方聞いたことがねえ! あたしは驚きを顔に張り付け、ぶんぶんと横に振って否定するが、姫さんは『うんうん、分かる、分かるぞ』って言って頷き、何かに納得するような素振りを見せるだけだ。
「あ、あんたら一体何者なんだよぉ?!」
驚きか、恐怖か、それとも別の何かか、少なくとも好奇心なんてもんじゃねえ衝動に突き動かされたあたしは、聞かないでおくことにしたはずのそれを思わず口にしてしまう。そしてその答えは意外な事にあたしの後ろに居たシャルから返ってきた。
「師匠は『魔の森の魔法使い』って言えばわかるかな? 私とリーディアはその弟子だよ」
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