幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

112話目 付き人ぉ(大嘘)

 それから村に到着したあたしらは村長から話を聞いて被害の確認をしたんだが、その内容自体は特に気にかけることのない、なんてことのない話だった。どっか別の場所からこの村の近くの森に紛れ込んだはぐれゴブリンがちょっかいをかけているってだけで、元から心配はしていなかったがあたしの出る幕は無いはずだ。


 護衛の仕事の代わりと言っちゃあなんだが罠の作り方とゴブリンの習性あたりでも教えてやればいいか、なんて思ってたのにリョウのヤツが急に大口を叩いたせいで急遽森に行く羽目になっちまった。今から森に入ってゴブリンを探し出すなんてとてもじゃないが夜までに終わるようなことじゃあない。


 一体何を考えてそんな無茶なことを言い出したんだと思ったあたしがリョウに尋ねると、『近くにいる生き物の気配が分かる』なんて頭の痛くなるような事を言い出しやがった。更に悪い事にリョウは本気でその台詞を吐いていやがる。ここ数日の短い付き合いだが、こいつはすっげえ分かりやすいやつだ。嘘や誤魔化しを言う時には目を泳がせているし、自信なさげに声が震えやがる。だけど今回は目を合わせはしないが泳いじゃあいないし声も震えていないから、言いにくい事を隠してたことに後ろめたさを感じているだけだ。


 つまりこいつは『言いにくい事なんだけど、実は自分にはそんな特別な能力があるんだ』と本気で思い込んでいやがるってことで…………。


「リョウ、悪い事は言わないから今からでも村長に謝りに行け。人はな、そんな特別な力を持っちゃいないんだ」
「そんなんじゃねーよバーカ!」


 せっかく心から心配して助言してやったのに全く聞く耳を持たなかった。仕方ないからしばらくは好きにさせてやるが、いざとなれば引っ張ってでも連れ戻してやらないとな。まったく、こういう時はしっかりと止めてやるのが女の仕事だっていうのにどうしてシャルは止めようとしないんだ。


 森に入るとリョウはずんずんと先に進み始めた。きょろきょろと周りを見たりゴブリンの痕跡を探そうとすることも無く、まるで本当に何かが見えているみたいに迷うことなく直進するせいでどんどんと森の深いところへと進む羽目になった。流石にこのくらいの森であたしが迷うことはないけど、シャルはともかくリョウはそのあたりの事を考えて無さそうだ。今は調子よく進んでいるが直にあたしやシャルに泣きつくことになるだろうし、そうなったら一回くらいは拳骨を落としてやろう。


 だがあたしは直ぐに考えを改める事になった。只管前へと進むリョウの後をついていくと四匹のゴブリンと遭遇した。しかも、あたしがそのことに気付く前にリョウはゴブリン目がけて駆け出してあっという間にそいつらの首を切り落としやがった。


 この村に到着するまでの間に一度も魔物や盗賊の襲撃を受けなかったせいであたしはシャルとリョウの腕前を知っていなかったんだが、そのとんでもない技量に少なくない衝撃を覚えちまった。


 魔法使いを名乗ってるだけあって一応は魔法を使えるのは知っていただけに、リョウがまともに剣も使えるなんて思ってもみなかった。腰から剣を下げているのはあくまでも近寄られた時の護身のためか、さもなくば魔物以外を相手にする時にブラフに使ったりするために持ってるもんだと思ってた。


 そんな風にあたしが驚いているのを気にも留めずリョウはまた歩み始め、そしてゴブリンを切る。そんなことが何度も続けば流石にそれが偶然ではないと馬鹿でも分かる。こいつは本当に生き物の気配が読めている。隠し事の多そうなこいつらだが、確かにこんな能力があるんだったら色々と隠したくなるのも分かるってもんだ。


 多分リョウは自分の好きな事、興味のある事にしか努力しないんだろう。だからこんだけの実力があるのに、それに比べて旅の知識や常識やらがすっぽ抜けていやがるってわけだ。そんでそんなちぐはぐで不器用なやつが、隠し事の一端とはいえそれをあたしに見せてくれたことに柄にもなく照れを覚えちまったりしたが、先を行くリョウの背中からは焦りがハッキリと見えてくるようになった。


「はあ」


 あのな、お前みたいな抜けてるやつが焦ったら絶対碌な事にならないんだぞ?


 あたしは誰にも聞こえないように小さくため息を吐き、そんなことを考える。まあ隠し事を教えてくれるくらいには信用してくれてるみたいだから、失敗の尻拭いくらいはしてやるよ。

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