幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

94話目 花

 それから三人で朝食を済ませると俺は一人部屋に取り残され、シャルとリーディアはリーディアの部屋へと行ってしまった。まあ男性と違って女性ならではの用意なども色々とあるのだろう。とはいえリーディアはともかくシャルは着替えも含めて俺の部屋でやってもいいのではないかと思ってしまったのだが、それが表情に出ていたのかリーディアに『キッ』と涙目で睨まれたので口には出さなかった。


 昨日はお邪魔虫だとか色々言っていたというのに、今日はこんな反応をするとは解せぬ。こんなことになるなら最初から俺とシャルの部屋を別けるべきだったと若干後悔するも、それをしたらシャルが泣きそうな表情をしながら『わかりました』と言って割り当てられた部屋に入るのが幻視出来たので結局はこの選択肢しか無かったと自分の中で結論付ける。


「師匠、準備出来たよー」


 たっぷり一時間以上は待たされただろうか、ついうとうとと二度寝しそうになりながら彼女らを待っていた俺は一度大きく背伸びをしてから控えめにノックされた扉を開ける。そこにはジーパン……、のような仕立ての長ズボンを履き、お揃いの薄手の上着を着たシャルとリーディアが居た。


 シャルはいつもはどちらかといえばスカートとかワンピースを好んで着ているのでそのギャップも然ることながら、リーディアと並ぶことでの対比でより一層魅力的に見える。銀髪と金髪、身長差、巨と貧、少なくとも俺にはほとんど同じに見える服装だというのに全く違った印象を受けた。


 モデル体型という言葉を体現するようなリーディアと、憧れのお姉さんを具現化したようなシャル、優劣などつけられるはずもなく俺の視線は二人の間を行ったり来たりすることとなる。こんな二人と共に生活をし、あまつさえその片方は恋人なのだという日本に居た時は当然ながら、この世界に来た当初ですら考えもしなかった現状を改めて認識し、それにより二人に声を掛けることも出来ずにごくりと息を飲んだ。


「それでは案内するので私についてきてくれ!」


 長い銀髪を後ろで結ってポニーテールにしているリーディアが得意げに顎をくいと上げながらそう言う。それと同時にその豊満なブツが強調され、ついでにたゆんと揺れたため俺の目は自然とそこに向かってしまった。ノ、ノーブラだとぉ?!


 確かに元の世界でもブラジャーが発明されたのは比較的近年なので、文明の遅れているこっちではノーブラなのが当然と言えば当然なのだが、頭で分かっているのと実際に目で見るのは話が別である。


 普段は訓練やら何やらでリーディアは厚ぼったい服をいつも着ていたため今の今まで気付かなかったが、そうか、ノーブラなのか……。というか薄手の服を着ているシャルと生活していてそこに思い至らなかったのはやはりその大きさが……、とそこまで考えた時に背筋が寒くなったので俺は思考を中断して、誤魔化すようにリーディアの背を押して宿の外へと向かった。


 しかし男の悲しいさがか、一旦気付いてしまうとどうしてもそちらの方へと意識が向いてしまう。諸兄らも想像して頂きたいのだが、すらりと背が高く運動により引き締まったボディをした美しい顔立ちの女性がすぐ横を、よく見れば分かる程度に揺らしながら歩いているんだぞ? 注意を向けるなというのが無理な注文である。


 当然、その反対側で俺の腕に掴まって歩いているシャルがその視線に気づかないはずもなく、いつものような『私、怒ってるんです』というような物ではなく、本気と書いてマジと読む感じで静かに怒気を放って俺のことをもの言いたげな目で見ていた。ついでに俺の腕に掴まる力が強まってぎゅっと俺の腕に押し付けているのだが、悲しいかな、元が元なだけに効果はほとんど変わらない。あ、更に力が強まった。


 ともかくその視線に気づいた俺がなんとかして例のブツから視線を切り、シャルの機嫌を取ろうと話しかけるのだが結果は芳しくない。ついでに言えばその様子をチラチラとリーディアは盗み見して頬を染めている。これは多分俺の視線がどこを向いているか気付いたから……、ではなく単純に俺とシャルが腕を組んでいるのが気になってだろう。


 そんな傍目から見れば、いや、実際にそうなんだろうけど、両手に花な状態で俺達一行は目的地に向かっていく。せめてもの救いは昨日と違い俺が魔法を発動しているので好奇の視線に晒されたり無駄に誰かが絡んできたりすることが無かった事だろうか。

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