幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

91話目 根掘り葉掘りって言葉

 結論から言えば俺はガンダスに正直に全部話してしまった。今ガンダスが手に持っている剣の製作者は俺であり、魔法を使って創りだしたので詳しい事は俺もよく知らないということ、そして俺は鍛冶などやった事は無いということ。


 別にそれらの情報は隠すようなことでもない事に加え、情報を出し惜しむとガンダスが『娘を貰ってもいいから教えてくれ』などと言い出しかねなかったので知っている情報は全て教えることにしたのだ。


 俺が作ったと言った時のガンダスの反応は目覚ましかった。先程よりも乱暴な手つきで俺の手をつかみ取ると血走った眼で眺めて『違う』と言って俺を睨んできた。訳が分からずにいるとアンが『父ちゃんは鍛冶仕事をやったことのある手じゃないって言ってるんだよ』と通訳してくれなければ話が一切進まなかっただろう。


 そして魔法で創った事を伝え、信じられない様子のガンダスの目の前で実演してみせた。ガンダスも、そしてアンも腰を抜かして驚いていたが、流石に目の前で行われれば信じざるを得ないだろう。


 それからしばらくの間アンの通訳を介してガンダスに剣についてあれこれと聞かれ、知識魔法を使ってそれに答える。尚質問が終わるまでどれだけ時間がかかるか予想も出来なかったのでシャルにはこの時点で自由行動しておくよう言っておいた。


 そのため当たり前だが俺一人でガンダスの質問に答えることとなり、時に詰め寄られながら、時に睨まれながらそれ程広くない店の中で色々と問われるのは、さながら取調室で警察に尋問される犯人のような気分であった。


 とはいえ俺が彼に提供できた情報もそれ程多くはない。製造過程も素材も一切知らない上に、知識魔法で問いかけても全く意味の無い情報しか手に入らなかったのだ。例えば素材の名前を知識魔法で調べてからガンダスに確認しても彼も知らない素材であったり、製造過程を聞いても『創造魔法で作成された』としか返事が無い。素材の産地を聞いてもどうにも怪しく、この惑星ではなくどこか遠い別の惑星の場所が示されているように思えた。


 それからも使用感やその他色々な情報を根掘り葉掘り尋ねられ、『もう勘弁してください』と泣きを入れそうになった頃、ガンダスは『譲ってくれ』と頭を下げて頼んできた。無論無料でではなく対価を示されたが、ぶっちゃけこっちとしては無料でも構わないんだよなあ。というか、この店の家財道具や権利書を貰っても、その、なんだ、ぶっちゃけ困る。


 ガンダスが言うにはそれでもこの剣の百分の一の価値にも満たないらしいが、労力を使わずに得た品物でそんなに貰っても良心の呵責がヤバい。それにそれを受け取るとガンダスのその発言を聞いて口をあんぐりと開けているアンが路頭に迷うやん。それはいかんよ。そういうわけで売る方が値段を下げようとして買う方を説得するという珍妙な事態に陥りつつも、なんとかガンダス一家を路頭に迷わせるような結果にはならずに済んだ。


 今回の武器、及びこれからガンダスの店の商品は持ちだし自由、メンテナンスも無料という条件に落とし込んだが、さっきから涙目でこっちを睨んでいるアンの視線が地味に心を傷つけるので、多分もうここには来ないんじゃないかなあ……。


 日がすっかりと落ちてからようやく解放され、宿で俺の帰りを待っているであろうシャルの下へと歩いて行く。まだこの時間でもドワーフ達は炉に火を入れているのか、空は暗くても周りが見えない訳ではない。


 完全に暗いわけでも、地球のように明るいわけでもない。そんな微妙な塩梅の雰囲気を楽しみつつ歩いていると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。


「おい!」


 昼間に比べて喧騒が収まっているため、その声はしっかりと俺の耳に届いた。その声の主に心当たりが……、というよりも多分来るだろうなと予想していたので俺は振り返り、そして予想通り、暗いためハッキリとはわからないが顔を赤くして興奮した様子のアンがそこにいた。


「あんたの剣よりも凄いのを作ってみせるからな! 絶対だからな!」


 アンはそれだけ言うと俺の返事も聞かずに走り出し……、何度かこちらを振り返って『絶対だからな! 忘れんな!』と叫びながら去ってしまった。


 どうしてこうなった。


 そんな言葉が脳裏に浮かんで、頭を抱えてその場に座り込みたくなる衝動を抑えながら、なんとかため息を一つ吐くだけで宿に帰りつくことに成功した俺を誰か褒めてください。


「あ! 師匠、おかえり!」


 部屋の扉を開けるとシャルがパァっと顔を輝かせてこちらに駆け寄り、俺はそんな彼女を抱き寄せて頭を撫でる。不思議そうな顔をしながらも体をこちらに預けてくれるシャルに癒しを感じながら好き放題頭を撫で続けた。


 あーもうなんかどーでもいーやー。

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