幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

87話目 勘の良い職人は

「しかし首回りがこの大きさねぇ……」


 女性はそう言いながら俺が取り出した首輪をしげしげと眺めているが、しばらくするとその顔に当惑の色が混じり出す。やけに顔を近づけて首輪を観察しているが、俺が施した細工にでも興味があるのだろうか。女性がいやに真剣になり始めたため声をかけることも憚られたのでとりあえず彼女が観察を終えるのを待つが、やがて彼女は渋い顔をしてこちらに質問を投げかけた。


「なああんた、これは一体どこの誰が作ったんだい?」
「何かおかしな事でも?」


 質問に質問で返すなと怒られそうだが、聞かれる理由を知らなければ俺が作ったと名乗り出るのも躊躇してしまう。とはいえ素直に答えたところで彼女は信じなさそうだが。


「おかしなことだらけさ。まず首輪の素材が皆目見当がつかないし、こんな輪の形に加工したならどっかにあるはずの繋ぎ目も見当たらねぇ。彫り出したにしちゃあ表面が滑らかすぎるし完璧すぎる円形だ。加えてこんな精巧な作りの割にはどこにも加工する時に工夫した痕跡が無いのも変だ。誰かがこれを作ったってよりもどっかから自然に生えてきたって言われた方がまだしっくり来るね」


 つらつらと語る彼女の感想に俺は内心で冷や汗を流す。そりゃあ俺自身もよくわからない物で作られたから正体不明の素材だろうし、製造過程もよく分からない創造魔法を用いて作ったんだから作る際の工夫も何も無いだろう。しかしその不自然さを一目見ただけで見抜けるとは、流石はドワーフといったところか。


「だからなんて言うかなぁ、一言で言えばこいつは気持ちがわりぃ」


 そして最後に酷く嫌そうな顔をしてそう吐き捨てられた。あのさ、君ほんとは俺が作ったって分かってるでしょ? そうじゃなきゃここまで俺の心を的確に傷つけられるはずがない。さて、まさか製作者を問われるとは思っていなかったのでどう答えるべきか全く考えてないぞ。適当な嘘をついたとしたらそれこそドツボにはまりそうだし、かといって本当の事を言ったとしても目の前で実演するまでしつこく言い寄られそうだ。


 どう答えるべきか迷い黙っていると彼女はため息を一つ吐いて手でこちらを制止してきた。


「まあ、あんた方にも言えない事情があるみたいだし、そもそも店に来た客に聞くことじゃなかったな」


 そして『さっきまでの事は忘れてくれ』と謝罪とも取れる言葉を漏らしてから話題は元に戻る。彼女はやはりドラゴンがペットであるという事は信じていないようだが、一応はそういう前提で話を進めてくれた。


 それから色々と話し合った結果、今着けている首輪に取り付けられるアクセサリーなどにするのが良さそうだという話になった。実物を見ない事にはそれ以上の事は難しいという事らしいが、ドラ助をここに連れてくる事は出来ないだろう。


 さて、話が纏まったはいいが一つ問題が発生してしまった。普通は店先で客の要望を聞いて奥に置いてある作り置きの品を調整するだけなのだが、どうやっても特注品という事になってしまうらしく仕上がりまでに数日はかかる上に、それにかかりっきりになるため費用も高くなるという。


 とはいえこちらも伊達に千年も貯蓄をしていない。金貨十枚はかかると彼女は申し訳なさそうにこちらに告げたが、半分だけ前払いだとかいうみみっちいこともせずに十枚きっちりをその場で支払う事で逆に彼女を驚かせてやった。


 そしてこちらの金払いの良さを見て上客だと彼女は思ったのだろう、俺達が店を出る際に彼女は耳寄りな事を教えてくれた。


「ああそうだ、武器に興味があるなら『ガンダスの武器屋』って店に行ってみな。ウチの旦那がやってるから腕は保障するし、『アイラがおまけするよう言ってた』って言えば少しは安くしてくれるはずだよ」


 これ以上特にやる事が無いため俺とシャルは素直にその言葉に従うことにした。それ以外にやる事が無いのも確かだが、これ程に腕が良い職人が保証する武器屋に置いてある物が気になったのだ。無論今俺が使っている武器程の品は置いていないだろうが、装飾品と同じように何か見落としがあるかもしれない。


「何かごめんな。俺の予定に付き合ってもらって」
「ううん! そんなことないよ!」


 半ば以上俺に付き合わせる形となったシャルに謝罪するが、それに対して彼女は満面の笑みで答えてくれる。行きと同じように腕組みして歩いているため彼女の香りやら笑顔やらにドキドキしながら歩いている訳だが、これこのまま武器屋に行って怒られたりやしないだろうか。

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