幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
82話目 開き直り
「あの、リョウ殿、その辺で良いのでは……」
ドラ助の顔が涙と鼻水でぐちょぐちょになった頃、見るに見かねてといった具合でリーディアが俺を制止しようとした。それに合わせてドラ助が顔を縦にブンブンと振っており、色々な液体がびちゃびちゃと飛び散る。汚い。
汚いと思ったのはリーディアも同じようで半歩程後ろに下がっている。まあこんな姿を見せられれば今後こいつに対して無用な敬意を持ったりすることもあるまい。
「ほれ、飯にするからさっさと顔を洗ってこい」
「ギュアアア」
許されたドラ助はこれ幸いと近場の湖に向けて飛び立つ。だが俺は見逃さないぞ。お前、飛ぶ直前に『勝った』とばかりにほくそ笑んでただろ。大方、結局俺が得点を得ることがなかったから勝負に勝ったつもりにでもなっているのだろう。その顔にちょっとばかりイラついたので、見えなくなるくらいまで遠くに飛び去ったあいつのケツに魔法弾を一発ブチ込んだ俺は悪くないはずだ。
そんなこんなで日は傾きかけ、夕食を取るにはやや早い時間ではあるが、激しく運動を行っているので多少夕飯を食べるのが早くとも問題は無いだろう。そして今日は歓迎会ということで趣を変えている。
「これは……、今までのものも変わっていたが、今日は一段と変わっているな」
リーディアがそう洩らすのも無理はない。今日までここで彼女に出された料理はこの森の食材を用いてシャルが作ったものであるが、今ここに出されているのは俺が創った日本の食べ物だ。当然この辺りはおろか、この世界では見ることも出来ないであろう食材も用いられているため、歓迎会に出すものとして悪くは無いだろう。
顔を濡らしたままのドラ助が遅れて到着し、顔を振り回して水をばら撒かれる前にシャルが丁寧に顔を拭いて、当人はアホ面晒して気持ちよさそうにしている。リーディアもヤツの事を少なからず理解したようで、その光景を見ても全く動じていないので本日の目的は完璧に成されたと言っていいだろう。
庭に用意した食卓に各人が着き、ドラ助もまた皿の前で大人しく伏せている。どうやらリーディアに対して見栄を張るのを止めたようだ。
「じゃあ、いただきます」
俺が手を合わせてそう言うとそれに続いて二人も『頂きます』と口にする。初めて『頂きます』を耳にしたリーディアがその意味が分からずシャルに尋ねて、シャルが嬉々として教えてリーディアもまた甚く感心するといったこともあったのだがここでは省略する。
肝心のリーディアは更に未知なる味に驚いていたが、俺はと言うと逆に違和感を覚えている。ここ数年はシャルが作った料理ばかり食べていたせいか、慣れ親しんだはずの料理の味がそれ程美味しく思えないのだ。
シャルが居なくなってから創っていた料理は味はおろか、何を創っていたのかさえ憶えていないのでノーカンにするが、それにしてもおかしい。初めて日本の料理を創り出せた時は感動に打ち震えたというのに、『今日出すのはやっぱりシャルの料理の方が良かったかな』とすら考えている。
「シャル殿?」
「あ、ううん、何でもないよ」
ふと気になってリーディアと喋っているシャルの方を見ると、俺の視線に気づいたシャルが意味深に微笑みを返してきた。まるで俺の考えが見透かされたように思え、人知れずぞくりと寒気を覚える。これが胃袋を掴まれるというやつなのだろうか。
「キュアアアアアア」
思考の海に溺れそうになっているとどこからともなく無粋な声が聞こえる。音源の方を向くとそこには配膳された分を全部平らげたトカゲがいた。今の鳴き声はお代わりを要求する声だろう。さて、いつもならばここでシャルがお代わりを用意するところなのだが……。
「今日は駄目だよドラ助。あんまり動いてないのにそんなに食べると太っちゃうよ? 師匠の故郷の料理は『カロリー』? っていうのが高いからね」
「キュイイイイ!」
当てが外れたためか、ドラ助がこの世の終わりのような顔をして一際甲高い鳴き声をあげる。更には今にも泣きそうな顔に……、あ、ほんとに泣きやがった。そんでもって『キュイイ! キュイイ!』と鳴きながら手足をジタバタさせて全力で駄々をこねていやがる。なんだこいつ! リーディアに見栄張るのやめたからって恥も外聞も捨てやがったぞ!
シャルは困った顔をして俺に助けを求め、リーディアはドン引きしている。一瞬にして空気を変えやがったドラ助に対して俺は青筋を立てて沙汰を言い渡す。
「ええい、やかましい! そんなに食べたけりゃ好きなだけ食え! その代りお前明日はちゃんと働けよ! ここんところ真面目に森の見回りしてねえだろ! 食うんだったらその分動け!」
「グアアア!」
『その言葉が聞きたかった』とばかりにドラ助はピタリと泣き止み、顔をこちらに向けるとブンブンと顔を縦に振る。この野郎……。
色々あったが歓迎会も無事に成功してお互いの理解も深まったその夜の俺の部屋にて。
「ししょー! 負けちゃったよー!」
子供姿のシャルが俺の部屋に入るなりそう言って泣き出してしまう。魔法により防音は完璧なため思いっきり泣いている。
「わかったわかった。頭撫でたげるからこっちに来なさい」
「ししょー!」
「よしよし、シャルが頑張ってたのはちゃんと見てたからなー」
俺の胸に抱き着いて来たシャルの頭をそう言いながら誠心誠意撫でてあげると、数分したらすっかり機嫌を直して『師匠……』とその声が甘い物に変わる。でも多分最初からそんなに機嫌が悪かったわけじゃないと思う。ともかくその夜も激しかった。
ドラ助の顔が涙と鼻水でぐちょぐちょになった頃、見るに見かねてといった具合でリーディアが俺を制止しようとした。それに合わせてドラ助が顔を縦にブンブンと振っており、色々な液体がびちゃびちゃと飛び散る。汚い。
汚いと思ったのはリーディアも同じようで半歩程後ろに下がっている。まあこんな姿を見せられれば今後こいつに対して無用な敬意を持ったりすることもあるまい。
「ほれ、飯にするからさっさと顔を洗ってこい」
「ギュアアア」
許されたドラ助はこれ幸いと近場の湖に向けて飛び立つ。だが俺は見逃さないぞ。お前、飛ぶ直前に『勝った』とばかりにほくそ笑んでただろ。大方、結局俺が得点を得ることがなかったから勝負に勝ったつもりにでもなっているのだろう。その顔にちょっとばかりイラついたので、見えなくなるくらいまで遠くに飛び去ったあいつのケツに魔法弾を一発ブチ込んだ俺は悪くないはずだ。
そんなこんなで日は傾きかけ、夕食を取るにはやや早い時間ではあるが、激しく運動を行っているので多少夕飯を食べるのが早くとも問題は無いだろう。そして今日は歓迎会ということで趣を変えている。
「これは……、今までのものも変わっていたが、今日は一段と変わっているな」
リーディアがそう洩らすのも無理はない。今日までここで彼女に出された料理はこの森の食材を用いてシャルが作ったものであるが、今ここに出されているのは俺が創った日本の食べ物だ。当然この辺りはおろか、この世界では見ることも出来ないであろう食材も用いられているため、歓迎会に出すものとして悪くは無いだろう。
顔を濡らしたままのドラ助が遅れて到着し、顔を振り回して水をばら撒かれる前にシャルが丁寧に顔を拭いて、当人はアホ面晒して気持ちよさそうにしている。リーディアもヤツの事を少なからず理解したようで、その光景を見ても全く動じていないので本日の目的は完璧に成されたと言っていいだろう。
庭に用意した食卓に各人が着き、ドラ助もまた皿の前で大人しく伏せている。どうやらリーディアに対して見栄を張るのを止めたようだ。
「じゃあ、いただきます」
俺が手を合わせてそう言うとそれに続いて二人も『頂きます』と口にする。初めて『頂きます』を耳にしたリーディアがその意味が分からずシャルに尋ねて、シャルが嬉々として教えてリーディアもまた甚く感心するといったこともあったのだがここでは省略する。
肝心のリーディアは更に未知なる味に驚いていたが、俺はと言うと逆に違和感を覚えている。ここ数年はシャルが作った料理ばかり食べていたせいか、慣れ親しんだはずの料理の味がそれ程美味しく思えないのだ。
シャルが居なくなってから創っていた料理は味はおろか、何を創っていたのかさえ憶えていないのでノーカンにするが、それにしてもおかしい。初めて日本の料理を創り出せた時は感動に打ち震えたというのに、『今日出すのはやっぱりシャルの料理の方が良かったかな』とすら考えている。
「シャル殿?」
「あ、ううん、何でもないよ」
ふと気になってリーディアと喋っているシャルの方を見ると、俺の視線に気づいたシャルが意味深に微笑みを返してきた。まるで俺の考えが見透かされたように思え、人知れずぞくりと寒気を覚える。これが胃袋を掴まれるというやつなのだろうか。
「キュアアアアアア」
思考の海に溺れそうになっているとどこからともなく無粋な声が聞こえる。音源の方を向くとそこには配膳された分を全部平らげたトカゲがいた。今の鳴き声はお代わりを要求する声だろう。さて、いつもならばここでシャルがお代わりを用意するところなのだが……。
「今日は駄目だよドラ助。あんまり動いてないのにそんなに食べると太っちゃうよ? 師匠の故郷の料理は『カロリー』? っていうのが高いからね」
「キュイイイイ!」
当てが外れたためか、ドラ助がこの世の終わりのような顔をして一際甲高い鳴き声をあげる。更には今にも泣きそうな顔に……、あ、ほんとに泣きやがった。そんでもって『キュイイ! キュイイ!』と鳴きながら手足をジタバタさせて全力で駄々をこねていやがる。なんだこいつ! リーディアに見栄張るのやめたからって恥も外聞も捨てやがったぞ!
シャルは困った顔をして俺に助けを求め、リーディアはドン引きしている。一瞬にして空気を変えやがったドラ助に対して俺は青筋を立てて沙汰を言い渡す。
「ええい、やかましい! そんなに食べたけりゃ好きなだけ食え! その代りお前明日はちゃんと働けよ! ここんところ真面目に森の見回りしてねえだろ! 食うんだったらその分動け!」
「グアアア!」
『その言葉が聞きたかった』とばかりにドラ助はピタリと泣き止み、顔をこちらに向けるとブンブンと顔を縦に振る。この野郎……。
色々あったが歓迎会も無事に成功してお互いの理解も深まったその夜の俺の部屋にて。
「ししょー! 負けちゃったよー!」
子供姿のシャルが俺の部屋に入るなりそう言って泣き出してしまう。魔法により防音は完璧なため思いっきり泣いている。
「わかったわかった。頭撫でたげるからこっちに来なさい」
「ししょー!」
「よしよし、シャルが頑張ってたのはちゃんと見てたからなー」
俺の胸に抱き着いて来たシャルの頭をそう言いながら誠心誠意撫でてあげると、数分したらすっかり機嫌を直して『師匠……』とその声が甘い物に変わる。でも多分最初からそんなに機嫌が悪かったわけじゃないと思う。ともかくその夜も激しかった。
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