幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

79話目 新生活

 リーディアが俺の新たな弟子になってから数日が経過した。そういった教育も受けていなかったシャルと違い、元々から剣の扱いにおいてある程度の実力を持っているため最初からきつめの内容にする必要がある。


 更に悪い事に彼女は魔法の素養が酷く低いことが判明した。魔法への適性があるエルフ、その中でも才能があるシャルでさえ初めは小さな火程度しか扱えなかったのだ。魔法を使う度に魔力が増えるとはいえ、その増え方は元々の魔力の量に比例する。そのため人間で適性の低いリーディアでは身体強化でさえいつになればまともに使えるようになるかわかったものではない。


「元々無いと思っていたのだから特に問題は無いかと」


 しかしその事について彼女は特に悲観してはいなかった。言われてみれば適性が全くのゼロよりは確かにマシかもしれないが、俺なら道のりの長さがちらついて挫折してしまいそうである。適性については俺も人のことは言えないが、俺の場合は反則技を使って修行したから彼女とは違うのだ。


 そういった事情もあり、現在彼女の修行は魔法よりも剣に重きを置いている。彼女の剣術は現時点でもかなりの完成度を誇っているため、今更少し指導した程度ではその伸びもたかが知れているのだが、それでも魔法の修行よりはマシな成果を出している。伸びしろで言えば魔法の方に軍配が上がるのだが、こればっかりは時間をかけるしかあるまい。


 そうして彼女の強化のために一日中稽古をつけた結果が今目の前に広がっている光景である。彼女は自身の銀髪が土に塗れるのも厭わずに庭に大の字になって寝転がっている。正確に言えば起き上がる体力も残っていないだけなのだが、些細な違いだろう。魔法の修行は特に疲れないので、魔法に重きを置いているシャルとの違いはこんな所にも表れた。


 身体能力の劇的な向上が望めない以上身のこなしや足運びの矯正といった内容になってしまい、最早無意識に行われるそれらの修正は容易ではない。繰り返し繰り返し、少しでも間違った箇所があれば俺はそこを突いて地面に叩きつける。虐待にも見えるが、俺の場合は間違ったら人形に細切れにされていたのでそれよりは有情なはずである。


 彼女の場合は後になってから身体強化が加わるので、その時に修行のやり直しになる可能性があるが……、本人の希望もあり無駄になるのも覚悟で修行をつけている。まあ全くの無駄にはならないだろうが、なんともひた向きなことだ。


 さて、俺とシャルとドラ助の生活にリーディアが加わったわけだが、ライフスタイルにそう大きな変化は起こっていない。元々修行は俺もやっていたわけだし、シャルだって未だに修行を行っている。そしてシャルが毎食用意して、みんなで一緒に食事をとり、まあ、夜には、シャルがこっそりとリーディアにバレないように俺の部屋にやってきたりしている。何故か子供の時の姿で。


 彼女曰く、俺に心から甘えたいからそうしているらしいが、それはいいとしても何故アレ・・まで元に戻しているのだろうか。毎回痛そうにしているのでやめればいいと思うのだが、とても幸せそうな顔をしているのでやはり言えずにいる。


 閑話休題。


 そんな風にしてリーディアもまたこの家に馴染みつつあるが、例外として変化してしまったのがなんとドラ助だ。あのトカゲは新しい住人に対して見栄を張りたいのか何なのか、いつものようにシャルに飯を集りに来なくなった。そしてその代わりに我が家の近くの上空を頻繁に、これみよがしに見回りを行っている。


 あまりにも露骨なため姿だけでなくその頭の中まで透けて見えてしまい、シャルでさえ苦笑しているが、ドラ助の本性をきちんと把握していないリーディアはそれにビビッてしまっている。このままヤツの思い通りに事が運ぶのも癪なので……、もといこれから共に生活をする上で互いを理解することは重要なので俺はあることを決意した。


「ちょっと遅れたけど歓迎会をするぞ!」


 三人で朝食を食べ終えてすぐ、俺はそう二人に告げた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品