幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
74話目 天誅でござる!
「き、貴様は! そうか! 貴様が裏切ったのか!」
奥の方でビクビクと怯えていた豚が唐突にそう叫んだ。豚はシャルを睨みながら顔を赤くしてそう言うが、人質を取って無理矢理連れてきたのに裏切るも何も無いだろう。その視線を受けたシャルはそれから逃れるようにして俺の後ろに隠れる。
そのことが気に障ったのか、それとも特に関係無いのか、豚は増々顔を赤くしながら罵声を飛ばす。売女だのなんだのと汚い言葉が次々に飛び出し、よくもまあそれだけの語彙があるものだと思いもしたが、自分の恋人をそう言われて気分が良くなるはずも無く、段々と俺の方がイライラとしてくる。
シャルは完全に委縮して俯いてしまい、あの豚を始末しようという気概は一切見えない。これ以上は無駄なのだろうか、シャルのトラウマの治療は何か別の方法を考えてこの場は俺が殺すべきなのだろうか、そう思っていると豚のとある鳴き声にシャルが反応を示した。
「余がせっかく目をかけてやっていたというのに恩を仇で返すつもりかこのクズが!」
「恩……? あれが恩だったって言うの……?」
いい加減俺に攻撃するのを無駄に思っていた兵士達の動きは積極的ではなかったため、豚の鳴き声はその場によく響いた。それまでは怯えるばかりだったシャルがポツリと漏らした言葉もその場にいた全員の耳に入り、それに合わせて豚もヒートアップする。
「当たり前だ! 余の役に立つことが出来たのだぞ! それを恩と言わずに何というか!」
何こいつ馬鹿なの。何故死ぬのが確定しているのにわざわざ相手を怒らせるようなセリフを平然と吐くのだろうか。どうせ死ぬならその前に出来るだけの悪態をついてやろうという雰囲気でもない。ああわかった、自分が死ぬとはこれっぽっちも考えてないのか。さっき立ち直りが早かったのも状況がわかってなかったからだろう。
「ふざ、けないで……」
何か言い返すべきか、もう俺が無言で始末すべきか考えているとシャルがそう呟く。小さな、小さな声ではあったがそこには怒気が含まれているのがハッキリとわかるものであった。
「ふざけないで……! 無理矢理人を殺させておいて……! 無理矢理従わせて! その上あなたみたいなのと結婚するのが褒美ですって?! それの何を恩だと思えって言うの! あなたが、この国が私のお父さんやお母さんに、村の皆に何をしたのかわかって言っているの?!」
それまでの様子とは打って変わり、シャルが鬱憤を吐き出していく。徐々に身を乗り出して豚を睨みつけ、息を荒くして今まで表に出さなかった怒りを露わにする。シャルの反論が意外だったのか、豚はキョトンとした顔をすると呆れた顔をして見下した様子でそれに答えた。
「何を言うかと思えば、貴様ら下賤なエルフが礎となれたのだ。感謝して当然であろうが。そのような道理すらわからんのか、これだからエルフは――」
聞いているだけで頭が痛くなるような主張に俺は軽く頭痛を覚える。最早これ以上喋らせても不快なだけであるし、シャルの中でくすぶっていた物を引っ張り出せただけでも良しとしてこいつは処分すべきだ。そう思い俺が豚を殺そうと考えたが、豚の言葉を遮る形でシャルが動き出したためその場に踏みとどまった。
「ああああああああああああああ!!!!!」
「ぎゃあああああああ!!」
シャルは猛然と走り出し、兵士の横をすり抜けて豚の腹に深々と刃を突き立てる。シャルが発する声に負けない程に豚が断末魔をあげるが、何度も刃を突き立てられることでそれは段々と小さくなっていった。
「お前なんかが! お前なんかがあああ! 死ね! 死ね! 死ねえええええ!!」
「ぎっ! ごあっ! ぐぎぃ! ぎぁ!」
地面に引き倒して何度も何度も、執拗に刃を突き立てるその様は正に鬼気迫るものであり、豚を守るはずであった兵士たちすら一瞬呆けてしまう程であった。そして俺は彼女の邪魔をしないために兵士達を声をあげさせること無く切り捨てる。
豚は既に事切れて叫び声一つあげることも、指一本動かすこともしていない。それでも彼女は『死ね』と言いながら延々と豚をザクザクと切り付け、刺し続ける。
「シャル、シャル、もう死んでるから」
しばらくはそのままにさせていたが何かこれ以上はヤバい感じがしてきたので後ろから羽交い締めにしてシャルを止める。それでようやく正気を取り戻したのか『はぁはぁ』と息を荒げ、『はい』と一言返事をして手に持っていた刃を魔法で仕舞う。
彼女の中にあった怒りを表に出させ、シャル自身にケリをつけさせることは出来た。そのことで彼女の『外』に対する感情を『恐れ』から『怒り』に変えることも出来た。でもそれ以上に何か取り返しのつかないことをしてしまった気がして、俺は内心で頭を抱えながら今回の作戦を終えることとなった。
シャルが若干スッキリとした様子になり、魔の森の外に居るにも関わらず怯えた様子をしなくなったのは良いが、やっぱ、うん、もうちょっとやりようがあった気がしないでもない。
奥の方でビクビクと怯えていた豚が唐突にそう叫んだ。豚はシャルを睨みながら顔を赤くしてそう言うが、人質を取って無理矢理連れてきたのに裏切るも何も無いだろう。その視線を受けたシャルはそれから逃れるようにして俺の後ろに隠れる。
そのことが気に障ったのか、それとも特に関係無いのか、豚は増々顔を赤くしながら罵声を飛ばす。売女だのなんだのと汚い言葉が次々に飛び出し、よくもまあそれだけの語彙があるものだと思いもしたが、自分の恋人をそう言われて気分が良くなるはずも無く、段々と俺の方がイライラとしてくる。
シャルは完全に委縮して俯いてしまい、あの豚を始末しようという気概は一切見えない。これ以上は無駄なのだろうか、シャルのトラウマの治療は何か別の方法を考えてこの場は俺が殺すべきなのだろうか、そう思っていると豚のとある鳴き声にシャルが反応を示した。
「余がせっかく目をかけてやっていたというのに恩を仇で返すつもりかこのクズが!」
「恩……? あれが恩だったって言うの……?」
いい加減俺に攻撃するのを無駄に思っていた兵士達の動きは積極的ではなかったため、豚の鳴き声はその場によく響いた。それまでは怯えるばかりだったシャルがポツリと漏らした言葉もその場にいた全員の耳に入り、それに合わせて豚もヒートアップする。
「当たり前だ! 余の役に立つことが出来たのだぞ! それを恩と言わずに何というか!」
何こいつ馬鹿なの。何故死ぬのが確定しているのにわざわざ相手を怒らせるようなセリフを平然と吐くのだろうか。どうせ死ぬならその前に出来るだけの悪態をついてやろうという雰囲気でもない。ああわかった、自分が死ぬとはこれっぽっちも考えてないのか。さっき立ち直りが早かったのも状況がわかってなかったからだろう。
「ふざ、けないで……」
何か言い返すべきか、もう俺が無言で始末すべきか考えているとシャルがそう呟く。小さな、小さな声ではあったがそこには怒気が含まれているのがハッキリとわかるものであった。
「ふざけないで……! 無理矢理人を殺させておいて……! 無理矢理従わせて! その上あなたみたいなのと結婚するのが褒美ですって?! それの何を恩だと思えって言うの! あなたが、この国が私のお父さんやお母さんに、村の皆に何をしたのかわかって言っているの?!」
それまでの様子とは打って変わり、シャルが鬱憤を吐き出していく。徐々に身を乗り出して豚を睨みつけ、息を荒くして今まで表に出さなかった怒りを露わにする。シャルの反論が意外だったのか、豚はキョトンとした顔をすると呆れた顔をして見下した様子でそれに答えた。
「何を言うかと思えば、貴様ら下賤なエルフが礎となれたのだ。感謝して当然であろうが。そのような道理すらわからんのか、これだからエルフは――」
聞いているだけで頭が痛くなるような主張に俺は軽く頭痛を覚える。最早これ以上喋らせても不快なだけであるし、シャルの中でくすぶっていた物を引っ張り出せただけでも良しとしてこいつは処分すべきだ。そう思い俺が豚を殺そうと考えたが、豚の言葉を遮る形でシャルが動き出したためその場に踏みとどまった。
「ああああああああああああああ!!!!!」
「ぎゃあああああああ!!」
シャルは猛然と走り出し、兵士の横をすり抜けて豚の腹に深々と刃を突き立てる。シャルが発する声に負けない程に豚が断末魔をあげるが、何度も刃を突き立てられることでそれは段々と小さくなっていった。
「お前なんかが! お前なんかがあああ! 死ね! 死ね! 死ねえええええ!!」
「ぎっ! ごあっ! ぐぎぃ! ぎぁ!」
地面に引き倒して何度も何度も、執拗に刃を突き立てるその様は正に鬼気迫るものであり、豚を守るはずであった兵士たちすら一瞬呆けてしまう程であった。そして俺は彼女の邪魔をしないために兵士達を声をあげさせること無く切り捨てる。
豚は既に事切れて叫び声一つあげることも、指一本動かすこともしていない。それでも彼女は『死ね』と言いながら延々と豚をザクザクと切り付け、刺し続ける。
「シャル、シャル、もう死んでるから」
しばらくはそのままにさせていたが何かこれ以上はヤバい感じがしてきたので後ろから羽交い締めにしてシャルを止める。それでようやく正気を取り戻したのか『はぁはぁ』と息を荒げ、『はい』と一言返事をして手に持っていた刃を魔法で仕舞う。
彼女の中にあった怒りを表に出させ、シャル自身にケリをつけさせることは出来た。そのことで彼女の『外』に対する感情を『恐れ』から『怒り』に変えることも出来た。でもそれ以上に何か取り返しのつかないことをしてしまった気がして、俺は内心で頭を抱えながら今回の作戦を終えることとなった。
シャルが若干スッキリとした様子になり、魔の森の外に居るにも関わらず怯えた様子をしなくなったのは良いが、やっぱ、うん、もうちょっとやりようがあった気がしないでもない。
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