幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

73話目 ケジメ案件

 やっべ、ちょっと悪ノリしすぎたか。こう、適当に突っついて平原に釣り出す予定だったのにロボットを操作するのが楽しすぎてそのまま壊滅させちまったよ。ま、まあこれであっち王国軍側にもこっち帝国軍側にも脅威をわかり易く見せることが出来たので良しとする。


 正直あのまま本気を出したら普通に街に殴り込めていたので、どうやっていい具合に倒されるか悩んでただけに王国側の対処は非常にありがたかった。だがこのロボットを見て軍が逃げ出す可能性も考えていただけに、攻撃が効かないと見るやすぐに目的を捕縛に切り替えた判断力、その方法を思いつき実行する行動力と手際の良さ、仮に自分がその立場なら逆立ちしても同じことは出来ないと言えるので、シャルと特に因縁も無さそうだから指揮官はぶっちゃけスカウトしたいくらいだ。スカウトしたところで特に何もさせることが無いので意味は無いのだが。


「えーっと、それなりに打撃を与えたので行きましょうか」
「それなり……、ああ、いや、わかりました。全軍進め!」


 壁に穴を開けた上に敵兵は疲弊しているのだから、苦も無く街を制圧することが出来るだろう。むしろ問題なのはシャルで、先程からずっと無言で俺にしがみついている。帝国軍の後をついて行っているのだが彼女の足取りはやや重く、彼女が掴まっている俺の左腕が少々引っ張られる形になっている。


「あ、そうだ」


 仮にここで相手から攻撃が飛んで来たらシャルが完全に怯えてしまうかもしれないと考えた俺はあることを思いつく。たった一体であれ程の被害を出したロボットが大勢姿を現したら彼らの戦意を根こそぎ奪えるのではなかろうか。


 そして俺はロボットを十体程作り出してテクテクと歩かせる。そのことに最初に気付いたのは帝国軍の最後尾に居た人たちで、あまりの恐怖に悲鳴を上げる人が続出した。その異常に気付いた将軍が何事かとこちらを振り返り目を丸くしている。流石にその場から逃げ出す人たちは居なかったが足並みが大分乱れてしまい、何だか悪い事をしてしまったように思えた。今度から気をつけよう。






 やはりロボットの戦闘能力が高かったからか進行は非常にスムーズであった。街につくなり兵士達が武器を捨てて投降してきたため、王城に入る際に少々戦闘が発生した程度である。そして王族なんかは当然の如く王城から非常用通路を使って逃げ出していた訳だ。


 だがそういった単純な問題ならば知識魔法先生は大いに役立ってくれる。さっきロボットを暴れさせている間に複数ある通路を全て調べ上げ、それらの最後の出口を悉く大岩で蓋をしてやっていたのだ。その結果が目の前で立ち往生していたこの国の豚というわけだ。親族は恐らく別のルートで脱出しようとしているのだろうが、そちらも後でゆっくりと追いかければいいだけの話だ。


「この慮外者共が! 余を誰だと思うておる! 衛兵! 今すぐこ奴らを切り殺せ!」


 さて、いくらかの帝国兵達とシャルを連れてここまで追いかけてきたわけだが、出口から出るに出られずまごまごとしている内に俺達に追いつかれたショックは小さくないだろう。そんなショックからいち早く立ち直ったのは意外なことに豚であった。流石に肝が据わっているのか、それとも事態を理解していないが故にそもそもショックを受けていなかったのか、とにかく豚が色々と喚いたため豚の護衛をしていた兵士達がにわかに殺気立つ。


 人一人しか通れない、という程の狭さでは無いが何人も同時に襲い掛かれる程の広さでもない。その狭さを活かすためか相手は槍を突き出してこちらの間合いの外から攻めようとしている。俺たちのあとについて来た兵士が盾を持って先頭に立とうとするが、俺はそれを押し留めて後ろに下がらせた。


「リョウ殿?!」


 まさか、という気持ちからか兵士が驚きの声をあげている。それを好機と見たか相手は俺の胴目がけて槍を突き出してきた。動き回って避けることも出来ず、防ぐための盾も無い。しかしそれでも何の問題も無い。俺は突き出された槍の穂先を軽く蹴り上げてその向きを無理矢理変えてやった。


「なんだと?!」


 俺にとっては軽くだが、その力は槍が兵士の手からすっぽ抜け、垂直に飛んで行った槍が天井に突き刺さるのには十分な強さであった。呆気に取られている兵士の首に生成した剣を突き刺してから突き飛ばし、後続の兵の動きを止めた俺は後ろにピッタリとくっついているシャルに話しかけた。


「シャル、あいつを殺して来るんだ」


 彼女が復讐を考えていないとか、俺があいつを憎く思く思っているかなどはこの際置いておく。彼女が『外』を恐れるようになった直接の原因であるこの国の王、あの豚だけは彼女に止めを刺させないと駄目だ。


 この国を滅ぼすというのならば、そのことに彼女を関わらせなければ駄目だ。彼女が関わらないままにこの国が滅んでしまっていては永遠に彼女がケジメをつけることが出来なくなってしまう。


 本当はもっと別のやり方があったのかもしれない。でも俺にはどうしてもこうすることでしかケジメをつけられる気がしなかった。彼女は目に涙を浮かべてイヤイヤと顔を横に振り俺の言葉を拒否する。分かってはいたが、こうもハッキリと嫌がられるとどうにも判断が鈍りそうになる。


 攻撃を適当にいなしつつシャルの説得を続けるが、それでも尚シャルは首を横に振り続けた。

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