幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

72話目 ロボットを相手の街にシュート! 超! エキサイティング!

「た、助かった……!」


 上の人間が極度に魔物に怯えていることと、外から来た人間に対して見栄を張る意味から無駄に頑丈で大きすぎるものだとしか思っていなかった。大抵の魔物はこの壁の半分ほどの高さで十分防げる上に、建設や修繕には自分たちから巻き上げた税金を使っているのだ。


 当然男やその部下達はこの壁に対してあまり良い感情は持っておらず、仲間と共に常々不満を漏らしていた。しかし今この時ばかりは無駄に頑丈で巨大にしていてくれたことに大いに感謝していた。そしてあの巨大な魔物の攻撃を防ぐのに十分な守りがあることが男に少しばかりの余裕を齎した。


「よし、お前ら! 今からあのデカブツの動きを抑えるぞ! 二本のバリスタの先端に縄を結べ!」


 こちらに攻撃が通用しないことはわかったが、相手に攻撃が通用しないことに変わりない。それ故男は目の前の魔物を拘束することを選んだが、普通にしては拘束することなど不可能である。


 通常、魔物を拘束する際に用いる手段は相手を転ばせたり攻撃で怯ませたりした隙に縄で地面に縫い付けるというものだが、そのどちらも今の相手には通用しない。こちらの攻撃では全く怯まないのはもちろん、相手が巨大すぎて足に縄を引っ掛けて転ばせるのも人力では難しいだろう。


 更に今見せたように相手は俊敏な動きも行うことが出来るため、仮に転ばせることが出来たとしても迅速に動きを封じる必要がある。そこで男は二本のバリスタに縄を結び、相手の胴に引っ掛けて倒すと同時に地面に縫い付けることにしたのだ。


 無論そのような使い方は想定されていない上に、そのような使い方をしたこともない。仮に撃ちだすことに成功したとしても、転ばせられるかどうか、矢が地面に上手く刺さって動きが止められるかは運次第だろう。だが稚拙だろうが突飛だろうが、とにかく行動を起こさなければならなかった。


 幸い今の所相手の攻撃は防げているが、それがいつまでも続くと考える程男は楽観的ではない。魔物は今も壁を殴りつけているため男が今立っている場所も揺れ続けている。いつ壊れるとも知れない防壁に不安を覚えつつも男が部下を急かしていると、不意に聞きなれないガチャガチャとうるさい音が聞こえてきた。


 魔物の様子を見張っていた一人の兵士が男に駆け寄り異変を伝える。


「隊長! 魔物の様子が!」
「どうした!」
「奴の右腕が形を変えて杭のような物に――」


 そこまで喋ったかと思うと、男の目にある物が飛び込んだ。壁よりも高く振り上げられたそれ・・は、やや離れた位置にいる男の目にもよく見えた。それは人の肘から先に杭のように尖った物を取り付けたような形をしており、恐らく先程の音は魔物が腕の形を変えるための音だったのだろう。


――ギュイイイイイイイン!!


 そしてそれ・・は鼓膜をつんざく甲高い音を立てて勢いよく回り始めた。得体のしれなさに男が我を失っていると、魔物は満を持してそれ・・を壁に向けて突き立てるべく腕を動かす。男にはそれ・・が何なのかは一向にわからなかったが、魔物が何をするためにそうしたのかは容易に想像がつき、付近にいる兵に退却を命じようとしたが一歩遅れる結果となった。


 それ・・が突き立てられた場所はすぐさま木っ端微塵になり、その付近もガラガラと音を立てて崩れていく。兵士達が悲鳴を上げ、様々な攻撃を魔物に向けるが意に介す様子は無く、魔物はただ只管に淡々と壁を壊し続けている。


 そして魔物が通り抜けられるほどの大きさの穴が今正に開こうとしたその時、準備が出来たことを知らせる合図が届いた。


「撃てええええええ!!」


 男は叫びながら発射の合図を返す。あのような魔物が、怪物が街に入ればどれ程の被害が出るかなど想像も出来ない。男の合図が届いたからか、それとも男の叫びが聞こえたからか、ともかくそれと同時に大量の矢が魔物に向けて発射される。


 そのほとんどが撃ちだすことに失敗して用をなさなかったが、そのごく一部が運良く撃ちだすことに成功し、そしてその内の一つが魔物が振り上げた右腕に引っかかり、姿勢を大きく崩すことに成功した。


「第二射ああああああああ!! てえええええええ!!」


 正真正銘、千載一遇の好機。これを逃せばこの街は間違いなく滅んでしまう。そのことは男だけではなくこの場にいる全員が理解しており、先程よりも更に大量の矢が発射される。空中で縄同士が絡み合い、もつれ合い、それでもついに魔物を地面に押さえつけることに成功した。


――ワアアアアアア!!


 魔物が姿勢を完全に崩して背後に倒れ込み、更に地面に縫い付ける。その瞬間、兵士達は大きく歓声を上げた。男も釣られて歓声を上げそうになるがそうもいかない。未だに魔物の動きを完全に封じたとは言えず、いつ復活するともわからない。非常に危険だが直接縄で縛りつける必要があるだろう。


「オラてめえら! 騒いでねえでとっとと縛り付けに行くぞ! 早くしやがれ!」


 男は部下を怒鳴りつけて急かしつつも、内心では大きな達成感を覚えていた。今も注意深く魔物を観察しているが、動こうとしている様子は全く見えず、恐らくはほぼ完全に動きを封じたのだろう。


――ピー! ピー! ピー! ピー!


 そしてまたしても異音が男の耳に入る。先程とはまた種類の違う、耳を刺すような音が辺り一帯に響き渡る。無論その音源は例の魔物であり、良く見ると魔物の目と思われる部位が赤く点滅しているのを辛うじて見ることができた。


 既にいくらかの兵士は魔物を拘束すべく壁から降りて近づいており、彼らの当惑はより大きく、互いに顔を見合わせてどうすべきか迷っている様子である。異音が放たれる間隔は段々と短くなっていき、男はそのことに猛烈に嫌な予感を覚える。


「総員、全力で退避しろおおおおおおおお!!」


 それを聞きつけた兵士たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、それを待っていたかのように事態は一変した。男がまず感じたのは大きな揺れ、そして風、最後に痛み。それらが収まった頃に瞑っていた目を開けると男は驚愕した。


 魔物がいたはずの場所からはもうもうと煙が立ち込め、地面には大きな穴が開いてる。そして壁の一部は完全に崩れてしまい、そこに使われていたと思われる瓦礫が街に点在していた。原理も何も全く不明ではあるが、恐らくあの魔物は爆発したのだと男には察しがついた。


 見たことも無い規模の爆発ではあるが、今の状況を説明するにはそう考えるしかない。男はキンキンと煩く鳴り響く耳を抑えながら被害を確認する。幸い今度は退避の命令が間に合ったため、爆発により直接命を落とした兵はいなかったが、多数の兵士が大きく怪我をしてしまっている。


 やがて耳鳴りが収まり周りを確認する余裕が出来た時、男はあることに気付いてしまった。


 魔物がやってきたと思われる場所の更に向こうにポツポツと影が見えた。それ・・は非常に見覚えのある物であり、一体なんであるのか男が気付くのにそれ程の時間は必要では無かった。更にそれらの足元には帝国の旗を掲げた集団が存在し、それが今自分たちが戦っている帝国軍であることをも男は理解し、そして戦慄した。即ち、彼らはアレ・・を完全に従えていて、そしてここに向かってきているのだと。


「お前ら、武器を下して降伏する準備をしろ」


 自分たちを皆殺しにするつもりかもしれないが、アレ・・と戦うよりも命乞いをする方が生き残る確率は高いだろう。


 男はそう考え、部下たちと共に帝国軍に下ったのであった。

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