幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

65話目 ファーストコンタクト

 特に派手な演出など生じることなく、彼らのいる場所から我が家まで直通の、大体百メートル程の長さの道が突如現れる。もちろん、彼らが元々そのくらいの距離の場所にいたということはなく、本来はもっと遠い場所にいるはずの彼らのいた場所と我が家を空間を捻じ曲げて繋げており、この道はその二つの場所を行き来できる亜空間的な何かだ。


 ともかく前触れ無くそんなものが目の前に現れれば、しかも警戒をしていたはずなのに気付けばそこに道があったという状況になれば大抵の場合は混乱に陥るだろう。今回の客も例外ではなく、ある者は驚きの声をあげ、ある者は剣を抜いているような状態だ。


 しかしそんな集団の中から一人の男がずかずかとこちらへと歩み寄ってきて、置いて行かれた人たちはそれを慌てて追いかけていた。成程、恐らくはこの男が客の代表だろう。見た目は三十前後のオッサンといったところだ。背は百九十センチ程で腰には立派な剣が差してあり、気を抜けば飲み込まれてしまいそうな、自信に溢れた雰囲気を醸し出している。


「お前が魔の森の魔法使いか?」
「そうだと言ったら?」


 俺の目の前に来るなりそう言い放った男に対してそう答える。前置きもクソも無いが、得てしてこの世界の貴族とはこんなもんである。貴族以外は人にあらず、まして自国民ですらない得体のしれない人物をや。こちらに対して礼儀を尽くそうなど一切しないその姿勢はいっそ清々しさすら覚えさせる程である。


 俺の言葉を聞いた男は無遠慮に俺を上から下までジロジロと観察する。そして俺はそんな男を見て内心落胆する。第一印象こそただならぬ物を感じさせられたが、結局今までの貴族連中と同族であり、今回こいつらが来た要件も似たようなものなのだろうと思えたからだ。


 少し遅れて、こいつを追いかけてきていた騎士らしき人物が男のやや後ろに控えるように立つ。急いで来たようだが特に息が上がっている様子も無い。まあ鍛えているはずの騎士が百メートルくらいを走っただけで息が上がるのは問題だろう。


「ボロス様、お一人でお行きにならぬようあれ程申し上げたはずですが」
「ふん、細かいことを気にするな。それより聞いたか。魔の森の魔法使いは本当にいたぞ」


 騎士が追いつくなりそう苦言を言うがボロスと呼ばれた男は全く取り合わず、騎士に向けてニヤリと不敵に笑う。騎士の方はそれに対して答えを返さないが、ため息の一つでも吐くのを我慢しているのだろう。


 そしてボロスはこちらに向き直るとうるさいくらいの大声で名乗りを上げた。


「さて、些か遅れてしまったが自己紹介と行こうか。俺の名はボロス。肩書はオーディナー帝国の現皇帝だ」


 『よろしく頼むぞ』と言いながら手を差し出してきて、それが握手を求めるものだと気付くのに少し時間がかかってしまった。阿呆の如くその手を握るが、未だに衝撃からは立ち直れずにいる。いや、だってさあ、国で一番偉い皇帝がこんな場所に乗り込んでくるとか、馬鹿じゃねえの!


 後ろにいる騎士はといえばこっそりと小さくため息を吐いており、この男はいつもこんな感じに周りを振り回していることが伺える。ああ、あんたも苦労しているのね。挨拶をしているのはボロスのはずなのに、俺はむしろ騎士の方に親近感を覚える。


 普通はここで『立ち話も何なので』と家に招くところだろうが、そんな敬意を払うつもりは無い。とは言え本当に立ったまま話すのは面倒なので、その場に椅子と机を作り出して着席を促す。火や水を操る以外の魔法を多分見たことも無いボロスらはやや驚いた様子を見せるが、ボロスは驚いているというよりもむしろ喜んでいるようにも見える。と、ともかくこれで少しはこちらのペースに持ち込めればいいのだが。


 そう思いながら、ボロスの雰囲気に飲まれつつある俺は話を聞くことにしたのだ。

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