幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
61話目 おかえり
長い、とても長い夢から醒めたような感覚と共に目が覚めました。ゆっくりと上体を起こして周りを見渡すと、そこは見慣れた光景であり、戻りたいと願った場所。魔の森に辿り着いたところまでしか覚えていないから、どうして自分がベッドで寝ているのかわかりません。
もしかしたらあれは夢だったのかな……。
そう思える程にあまりにも『戻りたかった場所』に戻れていて、それでも身に着けている首飾りが、増えてしまった自分の魔力がそれを否定しています。師匠を傷つけてまで飛び出して、失敗ばかりして、たくさんの人を殺して、お父さんもお母さんも死んじゃって、それは全部現実のことで。
そうしてぼーっとしながら現状を理解してようやく師匠がそこにいることに気付きました。
「あ……」
あんなに師匠と話したかったのに、いざ目の前にすると言葉が出てこない。あんなに師匠の顔が見たかったのに、師匠の顔を見ることが出来ない。
「シャル……」
頭が真っ白になって、何も喋れずにいる私に師匠が呼びかけます。
「おかえり」
そう一言だけ、師匠は言いました。
「ぐすっ、えぐっ、ひぐっ、うああ、あああああん」
その言葉を聞いて、悲しくないのに、寂しくないのに涙が溢れ、喋ることが出来なくなって。突然泣き出した私を昔みたいに抱き寄せて背中を優しく叩いてくれて。益々涙が止まらなくなって、ずっとこうしていたくて。
「おかえり、シャル、おかえり……!」
私が泣き止むまで師匠は何度も何度も『おかえり』って言ってくれて、その度に嬉しくなって。
「ごべんなざい……、ごべんなざい……!」
誰に謝っているのかわからないのに、謝らなきゃいけない気がして。
それでも師匠は何も聞かずにただ優しく背中を叩いてくれた。
ずっと止まらないように思えた涙もいつしか止まり、そうしてようやく師匠の顔をちゃんと見ることが出来ました。よく見ると師匠の目には隈が出来ていて、そのことが師匠にずっと心配をかけていたことを示していて、また泣き出してしまいそうになります。
「ああそうだ、お腹空いてるだろ。晩ご飯にしよう?」
でも泣き出す前に師匠にそう言われて、自分が何日も何も食べていないことを思い出します。しかしそれを抜きにしても師匠のご飯が無性に食べたなった私は師匠の問いに小さく頷き、いつもの食卓に連れられて、久しぶりに師匠のご飯を食べて、それから師匠はどうして私がここにいるのかの説明をしてくれました。
「それで……、その……、ここに戻ってきた、ってことでいいのか……?」
説明が済むと師匠は恐る恐るそう尋ねます。師匠からすれば私がこの森の中で倒れていたのを助けただけで、私がここに戻るつもりだったのかわからないのでしょう。でも私からしたらあんなに師匠を傷つけた私が戻ってもいいのかを聞きたいくらいです。
「師匠が……、許してくれるなら……」
許してもらえるのかわからなくて、俯きながらそう答えます。
「許すも何も、シャルが無事ならそれだけで十分だ。俺の方からお願いしたいくらいだよ」
師匠はそう優しく答えてくれて、今度こそ私は泣き出してしまいました。
「あ、ああ~、とにかく、今日はもう遅いしゆっくり休んで明日ちゃんと話そう! な!」
「わかりました……」
そうして私はかつての自分の部屋に戻ってベッドに潜りますが、一度目が覚めてしまったせいか眠ることが出来ません。そしてここに戻ってきた安心感からか却って目が覚めてしまい、これからのことについて考えてしまいます。
とはいっても、私の中でもう答えは決まっていて、あとはするかしないかを悩むだけ……。一時間か二時間か、まだ夜も深いのでそれ程時間は経っていませんが、私は決心して起き上がり、ある魔法を使ってから師匠の部屋へと向かいました。
『コンコンッ』と部屋のノックを二回する。『開いてるよー』と、いつもみたいに師匠が答えて、私はゆっくりと扉を開いた。
「どうしたんだシャル……、って本当にどうした?」
部屋に入った私の姿を見て師匠は驚きの声を上げます。ですがそれも当然でしょう。今の私ははここに来た時の幼い姿まで小さくなっているから。かつての姿に私は戻り、そして私はあの時と同じ言葉を口にします。
「リョウ様、どうか私の体を使ってください」
そしてリョウ様は今度こそ絶句します。あの時と同じ姿、あの時と同じ言葉、決定的に違うのは私がその言葉の意味を理解していること。
「シャル……、どうして……」
絞り出すようにしてリョウ様がそう問いかけます。
「私を、リョウ様の奴隷にしてほしいの」
私はとても馬鹿だったから、リョウ様がいればそれだけで良かったのに、それに気づかずリョウ様の元を離れてしまった。恩知らずで、失敗ばかりして、たくさんの人を殺した私なのにリョウ様は優しく『おかえり』と言ってくれた。私はもうここを離れたくない。ずっとリョウ様の傍にいたい。リョウ様のためだけに生きていきたい。でも私は馬鹿だから、またリョウ様から離れようとするかもしれない。だから私はリョウ様の奴隷になりたい。他の誰かの奴隷になるのは嫌だけど、リョウ様の奴隷にならなりたい。
私はずっとリョウ様に守られて生きていた。体だけ大きくなっても、心はずっとこの姿のままだった。だから本当の私を、リョウ様に捧げたい。本当の私をリョウ様に縛り付けてほしい。ずっと傍に居させてほしいから……。
「お願いですリョウ様、どうか……」
もし断られたら、傍にいられないのなら私はもう……。
「……わかった、おいで」
私を使うことに抵抗があるのでしょう。しばらくリョウ様は悩みましたが私の懇願を聞き届けてくれました。私は心の底から安堵してリョウ様の元へ向かいます。愛されなくても良い。これでリョウ様の傍にいられるなら。そう思いながらリョウ様の隣に横たわり……。
「精いっぱい、幸せにするからな」
「あ……」
そう言って、リョウ様は口づけをしてくれました。
もしかしたらあれは夢だったのかな……。
そう思える程にあまりにも『戻りたかった場所』に戻れていて、それでも身に着けている首飾りが、増えてしまった自分の魔力がそれを否定しています。師匠を傷つけてまで飛び出して、失敗ばかりして、たくさんの人を殺して、お父さんもお母さんも死んじゃって、それは全部現実のことで。
そうしてぼーっとしながら現状を理解してようやく師匠がそこにいることに気付きました。
「あ……」
あんなに師匠と話したかったのに、いざ目の前にすると言葉が出てこない。あんなに師匠の顔が見たかったのに、師匠の顔を見ることが出来ない。
「シャル……」
頭が真っ白になって、何も喋れずにいる私に師匠が呼びかけます。
「おかえり」
そう一言だけ、師匠は言いました。
「ぐすっ、えぐっ、ひぐっ、うああ、あああああん」
その言葉を聞いて、悲しくないのに、寂しくないのに涙が溢れ、喋ることが出来なくなって。突然泣き出した私を昔みたいに抱き寄せて背中を優しく叩いてくれて。益々涙が止まらなくなって、ずっとこうしていたくて。
「おかえり、シャル、おかえり……!」
私が泣き止むまで師匠は何度も何度も『おかえり』って言ってくれて、その度に嬉しくなって。
「ごべんなざい……、ごべんなざい……!」
誰に謝っているのかわからないのに、謝らなきゃいけない気がして。
それでも師匠は何も聞かずにただ優しく背中を叩いてくれた。
ずっと止まらないように思えた涙もいつしか止まり、そうしてようやく師匠の顔をちゃんと見ることが出来ました。よく見ると師匠の目には隈が出来ていて、そのことが師匠にずっと心配をかけていたことを示していて、また泣き出してしまいそうになります。
「ああそうだ、お腹空いてるだろ。晩ご飯にしよう?」
でも泣き出す前に師匠にそう言われて、自分が何日も何も食べていないことを思い出します。しかしそれを抜きにしても師匠のご飯が無性に食べたなった私は師匠の問いに小さく頷き、いつもの食卓に連れられて、久しぶりに師匠のご飯を食べて、それから師匠はどうして私がここにいるのかの説明をしてくれました。
「それで……、その……、ここに戻ってきた、ってことでいいのか……?」
説明が済むと師匠は恐る恐るそう尋ねます。師匠からすれば私がこの森の中で倒れていたのを助けただけで、私がここに戻るつもりだったのかわからないのでしょう。でも私からしたらあんなに師匠を傷つけた私が戻ってもいいのかを聞きたいくらいです。
「師匠が……、許してくれるなら……」
許してもらえるのかわからなくて、俯きながらそう答えます。
「許すも何も、シャルが無事ならそれだけで十分だ。俺の方からお願いしたいくらいだよ」
師匠はそう優しく答えてくれて、今度こそ私は泣き出してしまいました。
「あ、ああ~、とにかく、今日はもう遅いしゆっくり休んで明日ちゃんと話そう! な!」
「わかりました……」
そうして私はかつての自分の部屋に戻ってベッドに潜りますが、一度目が覚めてしまったせいか眠ることが出来ません。そしてここに戻ってきた安心感からか却って目が覚めてしまい、これからのことについて考えてしまいます。
とはいっても、私の中でもう答えは決まっていて、あとはするかしないかを悩むだけ……。一時間か二時間か、まだ夜も深いのでそれ程時間は経っていませんが、私は決心して起き上がり、ある魔法を使ってから師匠の部屋へと向かいました。
『コンコンッ』と部屋のノックを二回する。『開いてるよー』と、いつもみたいに師匠が答えて、私はゆっくりと扉を開いた。
「どうしたんだシャル……、って本当にどうした?」
部屋に入った私の姿を見て師匠は驚きの声を上げます。ですがそれも当然でしょう。今の私ははここに来た時の幼い姿まで小さくなっているから。かつての姿に私は戻り、そして私はあの時と同じ言葉を口にします。
「リョウ様、どうか私の体を使ってください」
そしてリョウ様は今度こそ絶句します。あの時と同じ姿、あの時と同じ言葉、決定的に違うのは私がその言葉の意味を理解していること。
「シャル……、どうして……」
絞り出すようにしてリョウ様がそう問いかけます。
「私を、リョウ様の奴隷にしてほしいの」
私はとても馬鹿だったから、リョウ様がいればそれだけで良かったのに、それに気づかずリョウ様の元を離れてしまった。恩知らずで、失敗ばかりして、たくさんの人を殺した私なのにリョウ様は優しく『おかえり』と言ってくれた。私はもうここを離れたくない。ずっとリョウ様の傍にいたい。リョウ様のためだけに生きていきたい。でも私は馬鹿だから、またリョウ様から離れようとするかもしれない。だから私はリョウ様の奴隷になりたい。他の誰かの奴隷になるのは嫌だけど、リョウ様の奴隷にならなりたい。
私はずっとリョウ様に守られて生きていた。体だけ大きくなっても、心はずっとこの姿のままだった。だから本当の私を、リョウ様に捧げたい。本当の私をリョウ様に縛り付けてほしい。ずっと傍に居させてほしいから……。
「お願いですリョウ様、どうか……」
もし断られたら、傍にいられないのなら私はもう……。
「……わかった、おいで」
私を使うことに抵抗があるのでしょう。しばらくリョウ様は悩みましたが私の懇願を聞き届けてくれました。私は心の底から安堵してリョウ様の元へ向かいます。愛されなくても良い。これでリョウ様の傍にいられるなら。そう思いながらリョウ様の隣に横たわり……。
「精いっぱい、幸せにするからな」
「あ……」
そう言って、リョウ様は口づけをしてくれました。
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コメント
ノベルバユーザー257755
ここら辺何回読んでも感動するなー