幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

49話目 シャル、品定めをする

 店内に置いてある商品を手に取って、どれを買うべきかを真剣に選びます。私はこういったものに詳しくないので、どれがよい品なのかはよくわかりませんが、ギルドの人が紹介した店なので、まさか粗悪品を売りつけるような店ではないでしょう。


 安い物では銀貨十数枚、高い物では金貨ニ、三枚程度までとその値段は大きく幅があり、恐らくは値段が高い方が質の良い素材などを使っているのでしょう。


 安い物は単に素材を加工しただけのようで、高い物はきらきらと輝く宝石をこれでもかと使っています。でも、師匠のくれた耳飾りも素材を加工しただけに見えるのにここにあるどんな宝石よりも綺麗に思えます。しかしそれは仕方のないことだと私は諦めました。


 こうして人間の街に改めて来ることで師匠の生活がどれ程凄いものなのかを再認識できます。


 衣食住どれをとってもこことは比べ物にならない程の水準を、しかも『あの』魔の森の中で師匠は一人で保っているのです。師匠がなんでもないことのように作り出したものですら、ここに置いてある品物よりも品質が良いでしょう。


 そうして作られたものですらそうであるのに、師匠が誓いの証として作ったこの耳飾りにおいては言うまでもありません。私は左手で耳飾りを触りながらそんなことを思います。そんなに凄い物を師匠は私のために作ってくれたということ、そしてそれを今私は身に着けていることを考えると胸が少し苦しくなるように感じます。


 お店の中に居るというのに頬が緩んでしまい、ちょっとだけ恥ずかしく思い表情を元に戻して商品を選ぶのに戻ります。ただ正直に言えばなんだかどれも同じに思えてしまい、値段の高さだけで選ぶのが良いようにも思えてきました。


 でもそれは味気ないよね。


 私はどうしたものかとうんうん唸りながら商品を睨みます。そんな私を見かねたのか、愛想のよい笑みを浮かべた店員さんが私に話しかけてきました。


「お客様、本日はどういった商品をお探しでしょうか」


 どういうものがいいのかは店員さんに相談するのが一番だよね。


 そう考えた私は店員さんに相談することに決めました。


「実は、この耳飾りのお返しになるようなのを探してるんですけど……」


 そう言って私は今着けている耳飾りを指さして店員さんに示します。


 今日、この街へ来たのは師匠へ贈り物をするため。本当は私も魔法で作りたかったけど、それをするにはまだ魔力が足りないからこうして買い物に来たのです。


 師匠をびっくりさせたくて内緒にしていたけど、喜んでくれるかな?


 師匠からこの耳飾りを貰った時、私は本当に嬉しかった。私は師匠に期待されているのだと、私は師匠の役に立てるのだと、色々なことが頭に浮かんでぐちゃぐちゃになって、ただただ嬉しさだけが心に残ってた。


 その気持ちの、ほんの少しでもいいから師匠にお返しがしたかった。




「ふむ、少し拝見させていただいても?」
「あ、はい、どうぞ」


 耳飾りを外して店員さんに渡します。まさかお客さんから盗むようなことはしないだろうけど、大事な物なのでじっと注意してみておきます。


 店員さんは『ふむ』とか『ほう』とか言いながら師匠の耳飾りをまじまじと観察し、しばらくしてから私に返してくれました。すり替えられてはいないようです。


「お客様、本日の予算は如何ほどでしょうか」
「金貨九枚までですね」


 お金が足りないかもしれないと思って果実を売ったけど、ここにある品物なら売ったお金だけで足りるので、そのままその金額を伝えます。お返しだから、出来れば師匠のくれたお金は使いたくないですからね。


 私の言葉を聞いた店員さんは少し考え込むと提案をしてきました。


「お客様、少々値は張りますが、この品のお返しに相応しい商品が御座います。ご覧になりますか?」


 わざわざ店員さんがそう言ってくるってことは、ここにあるのよりもそっちの方が良いってことかな? 使えるお金も伝えたし、それ以上の値段のものは出さないだろうけど……。


 『うーん』と私は悩み、ひとまず見るだけだったら大丈夫と結論を出して、『お願いします』と店員さんに伝えました。




 私の返事を聞いた店員さんは『少々お待ちくださいませ』と言ってお店の奥に行ってしまいました。することがないのでしばらくの間お店の品物を眺めていると、さっきの店員さんがぞろぞろと人を連れて出てきました。


 もしかしてエルフだってばれた?!


 そう思った私はすぐに逃げ出せるよう密かに構えますが、その人たちが襲ってくる様子はありません。店員さんはさっきまでと同じように笑みを浮かべながらこう言ってきました。


「お客様、こちらが先程申し上げました商品・・になります」


 そして、私は、彼らの顔を見て、足元が、崩れたような感覚を、覚えました。


「こちらは十二歳の男のエルフですが、入荷自体は一年ほど前にしておりますので教育は……」


 店員さんは、私に、何かを、言っていますが、何を、言っているのか、わから、ないです。


「こちらは三十歳の女のエルフでして、家事一般が出来ますのでメイドとして贈るのが……」


 彼らの目は、私が、かつて見た、あの人のように、死んでいて。


「……………………」


 あの時には聞こえなかった言葉が、その目から聞こえてきた。


 『あなたと私の、何が違うの』『何故あなただけ助かったの』『何故あなただけ幸せそうなの』『助けて』『許せない』『許さない』『許さない』


 この人たちは、私だ。助からなかった私だ。運が良くなかった私だ。


 幸せすぎて忘れていた。夢のような生活で、彼らのことを忘れていた。私がかつてそうであったように、今でもそうして苦しんでいる人たちがいるという簡単なことを、私は忘れていた。


 店員さんは何も言葉を発せずにいる私に説明を続け、最後の二人・・の説明をしました。


「そしてこちらがエルフの夫婦でして、両方お買い上げなされば一人ずつ買うよりも……」


 そのエルフを、その二人を、その夫婦を見て、私は頭を殴られたような衝撃を覚え、思わず、声を震わせながら呟きました。






「お父さん……、お母さん……」

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