幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

35話目 時既に時間切れ

 偉そうにしていた豚が言っていた時間になったので、俺は森が作る闇から姿を現した。ざわりと一瞬だけ群衆に動揺が走るが、豚は近くにいた冒険者に何かしら確認すると言葉を発する。


「捕獲せよ!」


 その言葉と同時に後ろ以外の三方向から網が投げられる。網の目は細かく、恐らくは俺を捕まえるための特製の網なのだろう。見れば豚は既に勝ち誇った顔をしており、俺を捕まえた功績を称えられる光景を幻視しているのだろう。


 ああそういえば、と俺は自分の手元にいつもの長剣が無いことを思い出す。網は非常に太く、常人ではその網を千切るような真似は出来ないだろうし、脱出しようともがけばそこを捕まえるのは容易いだろう。武器を一つも持たない俺は非常に簡単に捕獲できると考えたわけか。


 俺はこの三年間で使い込んだ創造魔法で長剣を作り出す。両手にそれぞれ一本ずつ作り出し、とにかく手数を優先する。魔物を殺すときのような鋭い一撃など必要ない。ただただ、力に任せて当ててやればいい。手加減等必要ない。ただただ、殺し尽してやればいい。


「皆殺しにしてやる!!」


 俺は怒りのままにそう宣言し、投げられた網を一瞬にして細切れにしてただのゴミに変えてやる。それを見た豚は慌てふためき大声でわめく。どうやら何がしかの命令を出したようであり、数十名ほどの男たちが俺に向かって押し寄せてきた。


 お前たちは俺に三十分という時間を与えたと思っているのかもしれないけどな、逆だ。俺が三十分という猶予を与えたんだ。もしかしたら彼らは望んでこんなことをしているのではないかもしれない、彼らの中には俺のことを心配している奴もいるかもしれない、そんな希望に縋って俺はお前らのことを観察してたんだ。


 だがな、誰一人そんな奴は居なかった。


 魔法を使えばここにいる一万や二万の人間程度、一気に殺すことが出来る。でもな、それじゃあ俺の腹の虫が収まらない。只管に恐怖に塗れながら死ね。


 目的が俺の捕獲だからか、俺に迫って来た軍人たちの持つ武器はいずれも刃引きされているのがわかる。彼らが突撃する前に矢が飛んでこないのも、俺を殺さないで捕まえるためだろう。まあこの人たちは仕事で俺のことを捕まえようとしてるんだろうし、一応俺のことを殺さないように気を付けてはいるようだけど、だからどうしたという話だ。


 お前ら、人助けして裏切られた俺の事笑ってただろ? どう追い詰めるか楽しそうに話してたよな?


 彼らが俺のもとに来る前に、逆にこちらから攻めることにした。全力で身体強化を施した脚力はたったの一歩で俺の体を彼らのもとへと運んでくれる。奴らの目には俺がいきなり目の前に現れたかのように映ったのだろう。非常に驚いた様子であり、反応が遅れている。


 俺は剣を振り抜き奴らの先頭の数名の命を刈り取る。奴らの後ろにいた中で立ち直りの早いものは怒りをあらわにして、雄たけびをあげて俺に剣を振り下ろしてきた。だがキラーバットの一撃に比べれば鋭さも速さも足りない。その攻撃を避けるのは容易いが、俺は派手に武器を壊して恐怖を煽ることを選択する。


――――ガキンッ!


 耳障りなでかい音を立ててそいつらの武器は一瞬でガラクタに姿を変えた。狙い通り一部の者が恐慌状態に陥り、悲鳴をあげながらその場を逃げようとする。そんな奴らを逃すつもりは毛頭ないため、後頭部目がけて武器の破片を投げつけてやる。そうして命中しては周囲に血の雨が降ることとなり、恐怖は更に伝染する。


 どうした、豚。顔が引き攣ってるぞ? 俺のことを犬のように躾けてやるんじゃなかったのか?


 俺が豚に気を取られているのを好機と見たのか、遠くから大量の魔法が飛んでくる。この期に及んでまだ俺を捕まえる気でいるのか、火の魔法は使われておらず、水の魔法しか飛んできていない。


「かあああああああ!!」


 その魔法は俺の叫び声一つでかき消された。常識では魔法を魔法で打ち消すことは出来ても、ただの声でかき消すことは出来ないはずだ。ほら、魔法を打った奴らの顔が驚きのあまりに青ざめていやがる。


 その顔を確認した俺はそいつらに向かって走り出し、悲鳴を上げて俺から逃げようとするそいつらの胴を一纏めに叩き切ってやる。そして恐怖に駆られて冒険者たちが次々と逃げ出していくのが俺の目に映る。数が只管多く、このままではいくらか取り逃してしまうだろう。でもな、俺が一番許せないのはお前たちなんだよ。


 俺は手のひらに収まる程の小さな火を作り出し、逃げ出す冒険者たちの中心へ向けてそれを放り投げた。その火は弱弱しい光しか発しておらず、その存在に気づいた者は恐らくいないだろう。その火が地面へと着地した時、それは炎へと姿を変えた。一瞬にして燃え広がり、冒険者達を次々と燃やし尽くしていく。燃え始めてから燃え尽きるまでは一瞬であり、悲鳴すらあげさせてやらない。その様子を見た他の冒険者も必死の形相で逃げようとしているが、俺はそいつらが逃げようとする方向に向けて更に火を投げ込み、残らず燃やしてやった。


 必死で逃げようとも、必死で立ち向かおうとも絶対に殺してやる。言っただろ? 皆殺しにしてやるって。

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