幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

34話目 おや? 主人公の様子が……?

 それから二年の月日が経った。高々二年程度の修行では肉体を操る技術は追いつかなかったが、魔法の修行は思った以上に成果が出ていた。この世界における普通の人ならば細心の注意を払って魔力の調整を行うのに対し、使いたいように使いたい魔法を使えたので魔力量、使える手札共に大きく増やすことに成功したのだ。


 体を動かしやすい年齢まで肉体を魔法で若返らせ、足りない技術を身体強化の魔法で穴埋めすることにより、この森でもかなり危険な部類であるキラーウルフにもそうそう後れを取らなくなった頃、俺の耳に悲鳴が届いた。


 その日まで俺はある事を忘れていたことに気付く。この魔物の森の魔物の素材を狙って多くの冒険者が森に入り、そして命を落としているということを。


 悲鳴を聞きつけた俺はそちらへと向かったが時すでに遅く、悲鳴の主は既にキラーウルフの腹の中に納まっていた。俺は即座にそいつを倒し、俺を引き留めようとしたおっちゃんの顔を思い出す。


 俺には体がバラバラになっても戻れるという能力があるからこそ今日まで生き延びることが出来たけど、それが無ければ間違いなく俺はこの森で命を落としていた。おっちゃんに会うより前に、そして、再度森に入ってすぐに、この哀れな冒険者と同じように。


 そうならないためにあのおっちゃんは俺のことを引き留めてくれたのだろうし、あの酒場で無謀な冒険者を見送るたびに悲しげな表情を見せていたのだろう。


 そう考えた俺はその日からこの森に入った冒険者達を助けることを決めたのだ。出待ちしているようで悪いが、万が一にも彼らが魔物を倒せることを期待してギリギリになるまで手は出さず、それでも出来る限り彼らを助けた。


 別に見返りが欲しかったわけじゃない。ただ、これであの見かけによらず世話焼きで心配性なおっちゃんが悲し気な顔をする頻度を下げられるはずだ、という自己満足を満たせればそれでよかった。俺が助けた冒険者がまたあの酒場へ行き、もう一度楽しそうに馬鹿騒ぎしてればそれでいいと思っていた。


 そんな風に自己満足のために冒険者を助けながら生活していたある日、俺の索敵魔法に尋常ではない数の人間の気配が引っかかる。それはこの森すぐ目の前に存在し、その数はどんどんと増えていっている。彼らは一体何のために集まっているのか、事態を把握するためにも俺はその気配に向けて急いで駆け出した。


 森の入り口に近づくにつれて段々と様子が見えてくる。そこにいたのは多くの冒険者と、統一された装備をした明らかに冒険者とは違う男たち。恐らくはこの国の軍が冒険者と共同でこの森に入るのだろうが、この三年間でこのようなことが起こった事は俺の記憶では一度もなかった。


 この森は恐ろしく広大であり、そこに生息する魔物の数も果てしなく多い。精強な軍を大量に投入すれば森の一部を一時的に支配することは出来るだろうが、森の大半の魔物が残っている限り、必ず駆逐した以上の数の魔物が攻め入ってくることになるだろう。


 軍を投入して魔物を一定数狩るにしても、それで得られる物と失う人材を比べれば流石にそれは割に合わないと考えるはずなのに、一体なぜ彼らは集まっているのだろうか。俺が事態が飲み込めないでいると、集団から一人の偉そうな男が前に出て大声をあげた。


「この森に住まう男に告げる! これより四半刻後に貴様を捕獲すべく森に軍と冒険者を放つ! それまでに名乗り出れば悪いようにせぬと確約しよう! しかしそうでない時は反逆の意志ありとして身の安全は保障できぬ! それでは返答を待つ!」


 その言葉を聞いた俺は、『何故だ』と反射的に叫びそうになる。何故俺が捕まえられなきゃならないんだ。俺はただ冒険者達を助けていただけなのに、自己満足のためとはいえ悪いことはしていないはずなのに。


 そして俺ははっとして冒険者たちの顔を見やる。大半は知らない奴らばかりだが、中には見覚えのあるやつもいた。酒場で見たことのある奴、単に村で見かけた奴、そして俺が助けた奴。


 そうか、お前らが俺のことを売ったのか。


 そういう目で改めて見てみれば、先程の偉そうな男の近くには先日助けたばかりの三人の男の姿があるのがわかった。そういえば、あいつらは罠も使わない上に妙に逃げ腰だったな、ああ、なるほど、あいつらは俺という存在が本当に居るか確かめに来ていたのか。


 そして話し声を聞いてみれば、聞こえてくるのは俺のことを馬鹿にする声、俺のことなど気にもとめず報酬の事ばかり気にしている声、どうやって俺のことを捕まえるか真剣に作戦を話し合う声、俺を捕まえた後の王国の栄えある未来とやらを語る声、俺をどうやって躾けるか得意げに話す声。


 誰一人として俺に対して悪いと思っているような顔をしておらず、俺を心配するような声は聞こえない。




 そうか、お前らは、そういう奴らだったんだな。


 ぶちり、と俺の中の何かが千切れた。

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