幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

21話目 ドラ助召喚!

「ししょー! 終わったよー!」


 森から戻って来たシャルがそう報告すると光弾の発射がピタリと止む。もうもうと立ちこめる土煙のせいでシャルの姿が全然見えないため風を起こして煙を払うと、長い耳をペタリと畳んで塞いだシャルがいた。


 耳をたたみ、その上から両の手を当てているシャルの姿はなんとも愛らしく、俺はにやけそうになる頬を堪えながら彼女にねぎらいの言葉をかける。


「おつかれさん。次は体術の訓練と言いたいところだが、今日はちょっと別のことをしてもらいたい」
「別のこと?」


 シャルは俺と違い無尽蔵の魔力を持つわけではないので、いつ魔法が使えない状態になるかわからない。そのためいつかは近接格闘の訓練も行う予定だったのだが、シャルが予想以上に早く実験材料集めや魔法訓練に慣れたため時間の余裕がこの一か月でできたのだ。


 その時間を利用して体術の訓練を新たに設けたのだが、それにより材料集めや魔法訓練の効率が更に上昇してしまって更に時間が空いたのはご愛敬である。


 ともかくいつもならば魔法訓練の後に体術の訓練を行うのだが、今日は久々にヤツ・・と共に行動してもらう。




 俺は無駄に魔力を高ぶらせて己の存在を誇示し始める。シャルはまだ魔力を感じる能力が高くないので俺の近くにいてもそれ程圧力を感じないだろうが、その能力が高ければたとえこの森の端にいたとしても失神するほどの魔力量だ。


 ふははは、この魔力を感じ取った貴様が無様に慌てているところをひっとらえて……、っておかしいな、奴が慌てている様子が感じられない。


 不審に思った俺は無駄な魔力を引っ込めてから魔法を発動し、ヤツがいる空間と我が家の庭の空間を繋いで疑似的な召喚を行った。


「ドラ助! カモン!」


 俺がそう叫んだ瞬間目の前に巨体が現れる。その巨体には特に傷などは見当たらず、冬眠をする動物のように丸まっており、顔の方へと回り込んでみると瞳を閉じてぐっすりと眠っているのがわかる。よく聞けば『グゴォォォ』といびきまでかいてるじゃねえか。


 正直に言えばドラ助が何か怪我をしてしまって俺のおふざけに付き合う余裕が無いのではないかと心配していたのだが、ほう、ふーん、眠っている程度で俺の魔力が感じ取れないのか。それは随分と平和ボケしておられますなあ。


 俺は右手を高く掲げ、先程よりも更に多量の魔力をそこに集める。ただ魔力が集まっただけだというのに最早輝きすら生じているが、これで魔法を使ったらどうなるのか私、興味があります。


 ドラゴンだし食らっても死なないでしょ。だいじょーぶだいじょーぶへーきへーき。


 刻一刻と魔力を高めているとシャルがドラ助のもとへと歩み寄る。へいシャルよ、そんなところにいると危ないぜ。


「ドラ助、起きて。早く起きないと大変だよ」


 シャルは寝ているドラ助を起こすために優しく耳元で語り掛けている。だがそれでも奴は起きる気配を一切見せない。うむ、やはり魔法で叩き起こすべきだな。


 最早一刻の猶予も与えん! とばかりに気張っている俺の方をちらりと見たシャルは再度ドラ助に語り掛ける。


「ドラ助、起きて。早く起きないと師匠が怒るよ」


 彼女がそう言った瞬間ドラ助の目が『カッ!』と開かれる。そして当然その目には魔力を高めた状態の俺が映る。


「ギュオアァァ! キュアアアアア!」


 泣き叫ぶが早いか否か、ドラ助はその羽を大きく羽ばたかせて全力で空へと飛び俺から距離を取る。


 いや、そこまでビビられるとちょっと傷つくんですけど。


 本来ならばここで右手を上げたり下げたりしてドラ助の反応を楽しむところだが、きりが無いので大人しく魔力を引っ込めることにした。


 さてこれでドラ助も大人しく地上に降りてくるだろうと思いやつに向かって手招きをしてみるが、やつは警戒を解くつもりが無いのか険しい表情のまま滞空している。


 いや、だからそこまでビビらんでも……。


 ドラゴンは空の王者とも呼ばれるというのに、今のドラ助はただのでかいトカゲにしか見えない。そしてシャルはそんなドラ助を哀れに思ったのかやや非難めいた視線をこちらへと向けるのであった。

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