幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について

スプマリ

10話目 間引きしましょ

 ドラ助たちの姿が見えなくなった頃、俺も次の目的地へと向かう。当初の予定ではこのままどこかでブラブラとして時間を潰し、ドラ助とシャルが我が家に到着した時を見計らって転移する予定だったのだが、あることに気付いたため予定変更である。


 ここへ向かう途中にまたしても妙な気配があったのだ。しかし今回は人間のものではなく化け物のものであり、妙なのはその数だ。


 魔の森に生息する魔物の種類は数多い。それ故そいつらの生態も様々で、大きい物から小さいものまで、他の生物に寄生したり共生したり、群れを作ったり単独で生息したりと何でもありである。


 だが今回感じた気配は一つ一つが中々に強く、その数は一万にも迫る勢いだ。この大きさの気配ならば群れを作っても百程度なのでこれは明らかに異常である。


 こういった異常事態に対処するのがドラ助の役目だというのに、俺から隠れるのに必死で気付かなかったようである。俺にも一パーセントくらいは非がありそうな気がしないでもないので、仕方なく俺が対処してやろうではないかといった次第である。


 転移魔法を使って直接群れの中に跳んで行って皆殺しにしても構わないのだが、状況を把握することなく殺すのはいけないということを以前学んだので自重しておく。


 洞窟に行く時に使用した空間を歪める魔法を用いながら群れへと近づいていくと次第に怒号が聞こえてきた。


――ギィー! ギャッギャッギャ! ギギー!


 甲高い鳴き声が辺りに響いている。この気色悪い鳴き声を上げている化け物はキラーエイプというチンパンジーみたいなやつだ。他の化け物と比べると比較的高い知能を有しており、群れの数と身体能力を生かして相手をなぶり殺しにする悪意の塊のような奴らだ。


 あまりにも巨大な群れであったため中々気付かなかったがこいつらはただ固まっているのではなくある方向へと移動しているようである。そして群れの先頭の方に注意を向けてみるとキラーエイプとは違う気配がまばらに存在しているのがわかった。


「手助けするか……」


 これ程の数に押されてしまえば恐らく今戦っている相手はさほどの時間もなく全滅してしまうだろう。それを防ぐべく進路を変更して先頭近くのキラーエイプを殺しに行くことにする。


 弱肉強食がこの世の掟であるため他の化け物が全滅しようが、群れがひどく大きくなろうが本来は手を出すべきではないのかもしれない。だがこのキラーエイプの群れは流石に大きすぎるし、キラーエイプは相手を食べるために殺すのではなく殺すために殺すのだ。


 なまじ知能があるために相手がどうすれば痛がり、どうすれば必要以上にダメージを与えないかを観察し、学習することが出来る。そうして学習を繰り返すことで相手を苦しめて殺すことを楽しむクソみたいな化け物なのだ。そんな生き物であるならば、殺すために殺されても文句は言えまい。


 決して俺がまだ弱かったころに爪を剥がされたり髪を引っこ抜かれたり皮膚を剥がされたり指を折られたりしたことを恨んでいるわけではない。






  走ること数秒、キラーエイプと戦っている別の化け物の姿が見えてくる。あれは……なんだ? 見た目はゴリラっぽいが……知識魔法によると……キラーゴリラ、ってまんまじゃねえか!


 僅か数体のキラーゴリラで迫りくるキラーエイプを数十体同時に相手しているが、当然無傷とはいかずどんどんと傷を負っていく。このままでは全滅するというのにキラーゴリラは逃げる様子を見せない。


 不思議に思いキラーゴリラの後方を見ると子供と思わしきキラーゴリラを抱えて逃げるキラーゴリラがいた。


 さて、ここで改めて状況を整理しよう。殺戮大好きなキラーエイプの群れが異常に大きくなってある方向へと向かっている。そしてキラーゴリラは子供を逃がすために絶望的な戦いへと身を投じている。


 状況の整理完了。よし、キラーエイプを間引こう。元々殺すつもりだったので状況を整理した意味は無かったかもしれないな。


 ゴリラから攻撃を受けないために先頭から少し後ろに俺は突っ込む。普段であればどんな化け物でも俺の姿が見えただけで脱兎の如く逃げ出すというのに、群れが大きくなって気も大きくなったのか命知らずにもキラーエイプ共は俺に襲い掛かってきた。


 へえ……、ちょっと数が増えたくらいで調子に乗ってるじゃねえか……。


 前方から、後方から、左右から、上方から、下以外の全ての方向から攻撃が殺到する。牙が、爪が、拳が、俺を『殺す』ために襲い掛かる。視界はあっという間も無くキラーエイプどもで埋まってしまう。








 成程、確かにてめえらに襲われれば化け物の群れはおろか、人間や獣人の国ですら鼻歌交じりに滅ぼせるだろう。だがな……。


「全然足りねえんだよ」






――


 音も無く剣を振りぬく。ただそれだけで視界がひらける。倒した化け物から血が噴き出る頃には俺の姿はそこには無く、また別の場所で化け物どもが数を減らす。




「俺を殺したけりゃ」




 一振り、二振り、三振り……。


 そして五百は殺した頃にようやくキラーエイプ共が異常に気付く。だが遅い。




「世界全部をてめえらで埋め尽くしてみろ!」




 三千程殺してキラーエイプどもは恐怖を思い出したようだ。俺を殺そうとしてあげていた鳴き声は俺から逃げようとする悲鳴へと変わり、俺を殺そうと振り上げていた爪は逃げ延びるためにあらぬ方向へ向けられる。


 逃げていくキラーエイプどもを追い回してきっちり九千体殺して残りは逃がすことにした。一応あいつらも食物連鎖のピラミッドのどっかに入っているはずなので絶滅させるのは良くないと思い、ほどほどに残しておく。もう群れを必要以上に大きくしちゃいけませんからね!








 それと、さっき口走ったことは嘘ではない。流石に世界全てをあの猿どもで埋め尽くされたら俺でも死んでしまう。


「相手するのが暇すぎて、だけどね」

「幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く