幼女と遊ぼうとしたら異世界に飛ばされた件について
1話目 異世界に迷い込みました
「ねえ、おじさん、異世界に行きたくない?」
コンビニへ行く途中、ぼけーっと歩いていたら幼女にそう話しかけられた。幼女の見かけは10歳前後だろうか。昨今の日本でいい年した男が道端で会話をしていい対象ではない。そして俺は断じておじさんではない。
俺は軽く周囲を見渡して保護者がいないか探す。いや、変な意味じゃなくて普通に保護者探しただけだからな? 危ないことしようとしたわけじゃないぞ?
ともかく、周囲にはこの幼女の保護者らしき人物は見当たらなかったため、早急にお家に届けるか場合によっては警察などに預ける必要があるな。
「うーん、行ってみたいかな?」
住所や親がどこにいるのか聞くきっかけにでもなればと思い俺はそう答えてしまった。
「わかった! じゃあついてきて!」
俺の返事を聞くと幼女はぱあっと顔を輝かせてそう言うや否やてててててーっと走って行ってしまう。子供が一人で走り回るとか危ないからやめなさい! 放置するとやべえな、仕方ない追いかけるか。
全力で走る幼女とそれを割と全力で走って追いかける男(22)。やばい、誰かに見られたら確実に通報されるぞ。
どうしてこうなったと思いつつ冷や汗をかきながら追いかけるものの、幼女の足が妙に早く一向に追いつくことができずにいる。それどころか幼女が右へ左へと道を曲がるせいで姿を見失ってしまう始末である。
『こっちだよー』という幼女の声を頼りに追いかけるが、ついには声さえ聞こえなくなり完全に見失ってしまう。
『幼女に足の速さで完全敗北するとか貧弱すぎるだろ……』と軽くへこんでしまった。ああ、早く探し出して親もとへ連れて行かなければどうなることやら。
はあ、とため息をついて改めて周りを見ると木しか見えない。それも超ぶっとい木ばかり。何これ怖い。
え、マジで、ちょっと待って、これどういうことよ。俺さっきまで街にいたよね? 間違ってもこんな自然あふれる場所は徒歩圏内じゃないよね?
うわー、やべー、完全に道に迷っちまったよこれ。俺こんな場所に来たこと無いもん。22歳とか迷子になっていい年じゃねえよ……。
キョロキョロと再度見渡してみるが、やはりどう考えても全く見覚えがない場所である。幼女を追いかけるのに必死で回りが完全に見えなくなってたか。字にするとヤバいな。
だがこんな時のための文明の利器、スマホの出番である。スマホで地図を表示しようとするが何故か現在地が表示されない。しかも電話は圏外というおまけ付き。マジかよ。
あー、くそ、恥ずかしいけど道を聞くしかないか……。てかあの幼女はどこ行ったんだよ……。
とりあえず来た道を戻ろうとトボトボと歩く。『コンビニ行くために出たのに何でこんな目に』と思っていると視界の端で何かが動く。
反射的にそっちを見るが、草むらと木があるだけで特に何も見当たらない。おっかしいなー、何か動いたように見えたんだが。
そう頭を捻っていると後ろからガサリと音が聞こえた。これまた反射的にそちらを向く。
「は?」
目に映ったのは大きく開いた口。ところどころ黄ばんだ牙。ぬらぬらとした唾液。
「ちょ!」
理解不能な事態を目にして変な声を出しながら、俺はとっさに頭をかばいながらしゃがみ突進してきたそれをなんとか避けることに成功する。
『一体何なんだよ!』と叫ぼうとするが、突然体に今まで感じたことのない激痛が走りそれどころではなくなる。
今まで感じてきた痛みなど鼻で笑えるほどの痛みが腕の方から上ってきていた。痛みに思考の全てが奪われ、今すぐ泣き叫びたい衝動がこみ上げる。
何だこれはどういうことだ何が起こった。その痛みの原因を知るべく俺は自らの腕へと視線を向ける。
「ひぃ!」
腕が、無い。ありえない。何が、どうして。
あるべきものがそこにはない。肘から先には腕が無く、血がダラダラと噴き出していた。
「がああああああ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。何も考えられない。待て、さっき俺は何を見た。
みっともなく泣きわめきながら視線を後ろへと移すとそこには巨大な獣がいた。
狼のように四足で、それなのに見上げる程に巨大で、でかい牙を見せつけて、明らかに俺を『食べる』気でこちらを見ている。
「ああああああああ!!」
痛みと恐ろしさで思考がぐちゃぐちゃになっていく。何だこいつは。何でこんな化け物がいるんだ。何が、どうなって。
痛みと恐怖で叫んでいると化け物がこちらへと再度突進してきた。
「ぎぃっ!」
我ながらよくわからない声を出しながら左へと飛ぶ。腕が無いため受け身など取りようもないが、そんなことはどうでもいい。今避けなければ死ぬ。食われて死ぬ。
必死の思いで化け物の突進を避けようとするが、それは叶わなかった。
「ひぎゃあああああ!!」
今度は右足。更に悪いことに完全に食いちぎられたのではなく、牙が足へと刺さっただけ。
化け物はそれが気に入らなかったのか顔をぶんぶんと振り回して俺の足を無理やり千切ろうとする。それを止める手など俺には存在するわけがなく、なすすべなく足は千切られて俺は振り回される勢いのまま遠くへと飛ばされた。
「―――――――――!!」
そして俺は『バチン』と大きな音を立てながら何かにぶつかった後に地面に落ちた。木にぶつかったのだろうか、背中が痛い。足が痛い、腕も痛い、どこもかしこも痛くて、声すら出ない。痛みで何も考えられない。死の恐怖で、食われる恐怖でゲロを吐く。
そうだ、化け物は。
奴はむしゃり、むしゃりと何かを咀嚼している。いや、何かなんて言い方はよそう、俺の足だ。もしかしたら腕かもしれない。
もう駄目だ。俺はここで死ぬんだ。化け物に食われて、肉塊になって、溶かされるんだ。
目から涙が溢れ、失禁する。でも恥ずかしいなどという感情は無い。そんな感情など遥かに凌駕する恐怖で心は埋め尽くされている。
もう嫌だ、殺すならさっさと殺してくれ。早く終わりにしてくれ。
恐怖から目をそらすためにぎゅっと目をつぶり、早く殺してくれと願う。もしかしたら食われる前に失血死できるかもしれない。
痛い痛い怖い恐い痛い痛い痛い痛い。奴は何をしている。早く俺を殺せ。終わりにしてくれ。
しかしいくら待てども化け物は殺しに来ない。
「……?」
涙で前がよく見えないが、目を凝らす。奴は何をしている。
グガァ! ギィッ!
奴はじたばたとしながら妙な声をあげており、俺のことなど眼中に無い様子であった。
何だ? 苦しんでいるのか? もしかして人肉は奴にとって毒だったのか? ハハッ、ざまあみろ。俺は死ぬだろうが、てめえも道連れだ。
苦悶の声をあげながら化け物はバタバタともがいている。やがて苦しみが頂点に達したのか一際大きな声をあげる。それと同時に化け物の腹が裂けて何かが俺がいる方に向けて飛び出した。
今度こそ死んだ。そう思い俺は再度目をつぶる。しかし一向に意識は途切れない。それどころか体の痛みが引いていく。血を失いすぎて感覚が薄れたのだろうか。
ちらり、と目を開ける。
「え?」
ちょっと待って、何で腕が生えてるの。え、何で足も生えてるの。何がどうなったの。やべえ、しかもなんか手も足も血まみれでぬるぬるしてる。何これ怖い。
そこでふと奴の方を見ると、奴は腹が裂かれたためか動きが非常に小さく、明らかに衰弱しているとわかる。
ぬるぬるした手足、裂かれた腹、何かが突き破り俺に向かって飛んできた、奴が食ったのは、俺の手足。
もしかして、俺の手足が元に戻ろうとして奴の腹は引き裂かれたのか? いや、そんなのありえない。でも、そうと考えなければこの状況は説明できない。あんな化け物も見たことも聞いたこともない。
状況が飲み込めず混乱する俺の頭にある言葉が思い出される。
『ねえ、おじさん、異世界に行きたくない?』
「異世界……」
どうやってかはわからない。あの幼女が何者なのかはわからない。それでも一つだけわかったことがある。ここは異世界で、俺の体は何か大変なことになってしまったようだ。
あとあのガキは絶対一回殴る。
コンビニへ行く途中、ぼけーっと歩いていたら幼女にそう話しかけられた。幼女の見かけは10歳前後だろうか。昨今の日本でいい年した男が道端で会話をしていい対象ではない。そして俺は断じておじさんではない。
俺は軽く周囲を見渡して保護者がいないか探す。いや、変な意味じゃなくて普通に保護者探しただけだからな? 危ないことしようとしたわけじゃないぞ?
ともかく、周囲にはこの幼女の保護者らしき人物は見当たらなかったため、早急にお家に届けるか場合によっては警察などに預ける必要があるな。
「うーん、行ってみたいかな?」
住所や親がどこにいるのか聞くきっかけにでもなればと思い俺はそう答えてしまった。
「わかった! じゃあついてきて!」
俺の返事を聞くと幼女はぱあっと顔を輝かせてそう言うや否やてててててーっと走って行ってしまう。子供が一人で走り回るとか危ないからやめなさい! 放置するとやべえな、仕方ない追いかけるか。
全力で走る幼女とそれを割と全力で走って追いかける男(22)。やばい、誰かに見られたら確実に通報されるぞ。
どうしてこうなったと思いつつ冷や汗をかきながら追いかけるものの、幼女の足が妙に早く一向に追いつくことができずにいる。それどころか幼女が右へ左へと道を曲がるせいで姿を見失ってしまう始末である。
『こっちだよー』という幼女の声を頼りに追いかけるが、ついには声さえ聞こえなくなり完全に見失ってしまう。
『幼女に足の速さで完全敗北するとか貧弱すぎるだろ……』と軽くへこんでしまった。ああ、早く探し出して親もとへ連れて行かなければどうなることやら。
はあ、とため息をついて改めて周りを見ると木しか見えない。それも超ぶっとい木ばかり。何これ怖い。
え、マジで、ちょっと待って、これどういうことよ。俺さっきまで街にいたよね? 間違ってもこんな自然あふれる場所は徒歩圏内じゃないよね?
うわー、やべー、完全に道に迷っちまったよこれ。俺こんな場所に来たこと無いもん。22歳とか迷子になっていい年じゃねえよ……。
キョロキョロと再度見渡してみるが、やはりどう考えても全く見覚えがない場所である。幼女を追いかけるのに必死で回りが完全に見えなくなってたか。字にするとヤバいな。
だがこんな時のための文明の利器、スマホの出番である。スマホで地図を表示しようとするが何故か現在地が表示されない。しかも電話は圏外というおまけ付き。マジかよ。
あー、くそ、恥ずかしいけど道を聞くしかないか……。てかあの幼女はどこ行ったんだよ……。
とりあえず来た道を戻ろうとトボトボと歩く。『コンビニ行くために出たのに何でこんな目に』と思っていると視界の端で何かが動く。
反射的にそっちを見るが、草むらと木があるだけで特に何も見当たらない。おっかしいなー、何か動いたように見えたんだが。
そう頭を捻っていると後ろからガサリと音が聞こえた。これまた反射的にそちらを向く。
「は?」
目に映ったのは大きく開いた口。ところどころ黄ばんだ牙。ぬらぬらとした唾液。
「ちょ!」
理解不能な事態を目にして変な声を出しながら、俺はとっさに頭をかばいながらしゃがみ突進してきたそれをなんとか避けることに成功する。
『一体何なんだよ!』と叫ぼうとするが、突然体に今まで感じたことのない激痛が走りそれどころではなくなる。
今まで感じてきた痛みなど鼻で笑えるほどの痛みが腕の方から上ってきていた。痛みに思考の全てが奪われ、今すぐ泣き叫びたい衝動がこみ上げる。
何だこれはどういうことだ何が起こった。その痛みの原因を知るべく俺は自らの腕へと視線を向ける。
「ひぃ!」
腕が、無い。ありえない。何が、どうして。
あるべきものがそこにはない。肘から先には腕が無く、血がダラダラと噴き出していた。
「がああああああ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。何も考えられない。待て、さっき俺は何を見た。
みっともなく泣きわめきながら視線を後ろへと移すとそこには巨大な獣がいた。
狼のように四足で、それなのに見上げる程に巨大で、でかい牙を見せつけて、明らかに俺を『食べる』気でこちらを見ている。
「ああああああああ!!」
痛みと恐ろしさで思考がぐちゃぐちゃになっていく。何だこいつは。何でこんな化け物がいるんだ。何が、どうなって。
痛みと恐怖で叫んでいると化け物がこちらへと再度突進してきた。
「ぎぃっ!」
我ながらよくわからない声を出しながら左へと飛ぶ。腕が無いため受け身など取りようもないが、そんなことはどうでもいい。今避けなければ死ぬ。食われて死ぬ。
必死の思いで化け物の突進を避けようとするが、それは叶わなかった。
「ひぎゃあああああ!!」
今度は右足。更に悪いことに完全に食いちぎられたのではなく、牙が足へと刺さっただけ。
化け物はそれが気に入らなかったのか顔をぶんぶんと振り回して俺の足を無理やり千切ろうとする。それを止める手など俺には存在するわけがなく、なすすべなく足は千切られて俺は振り回される勢いのまま遠くへと飛ばされた。
「―――――――――!!」
そして俺は『バチン』と大きな音を立てながら何かにぶつかった後に地面に落ちた。木にぶつかったのだろうか、背中が痛い。足が痛い、腕も痛い、どこもかしこも痛くて、声すら出ない。痛みで何も考えられない。死の恐怖で、食われる恐怖でゲロを吐く。
そうだ、化け物は。
奴はむしゃり、むしゃりと何かを咀嚼している。いや、何かなんて言い方はよそう、俺の足だ。もしかしたら腕かもしれない。
もう駄目だ。俺はここで死ぬんだ。化け物に食われて、肉塊になって、溶かされるんだ。
目から涙が溢れ、失禁する。でも恥ずかしいなどという感情は無い。そんな感情など遥かに凌駕する恐怖で心は埋め尽くされている。
もう嫌だ、殺すならさっさと殺してくれ。早く終わりにしてくれ。
恐怖から目をそらすためにぎゅっと目をつぶり、早く殺してくれと願う。もしかしたら食われる前に失血死できるかもしれない。
痛い痛い怖い恐い痛い痛い痛い痛い。奴は何をしている。早く俺を殺せ。終わりにしてくれ。
しかしいくら待てども化け物は殺しに来ない。
「……?」
涙で前がよく見えないが、目を凝らす。奴は何をしている。
グガァ! ギィッ!
奴はじたばたとしながら妙な声をあげており、俺のことなど眼中に無い様子であった。
何だ? 苦しんでいるのか? もしかして人肉は奴にとって毒だったのか? ハハッ、ざまあみろ。俺は死ぬだろうが、てめえも道連れだ。
苦悶の声をあげながら化け物はバタバタともがいている。やがて苦しみが頂点に達したのか一際大きな声をあげる。それと同時に化け物の腹が裂けて何かが俺がいる方に向けて飛び出した。
今度こそ死んだ。そう思い俺は再度目をつぶる。しかし一向に意識は途切れない。それどころか体の痛みが引いていく。血を失いすぎて感覚が薄れたのだろうか。
ちらり、と目を開ける。
「え?」
ちょっと待って、何で腕が生えてるの。え、何で足も生えてるの。何がどうなったの。やべえ、しかもなんか手も足も血まみれでぬるぬるしてる。何これ怖い。
そこでふと奴の方を見ると、奴は腹が裂かれたためか動きが非常に小さく、明らかに衰弱しているとわかる。
ぬるぬるした手足、裂かれた腹、何かが突き破り俺に向かって飛んできた、奴が食ったのは、俺の手足。
もしかして、俺の手足が元に戻ろうとして奴の腹は引き裂かれたのか? いや、そんなのありえない。でも、そうと考えなければこの状況は説明できない。あんな化け物も見たことも聞いたこともない。
状況が飲み込めず混乱する俺の頭にある言葉が思い出される。
『ねえ、おじさん、異世界に行きたくない?』
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