この美少女達俺の妻らしいけど記憶に無いんだが⋯⋯
七話 いや、困ります。隠すもの⋯⋯無いですから⋯⋯。
「エルは、もし俺が複数の女の子と結婚するとしたら、やっぱり嫌か?」
「はい?」
「いや、だから⋯⋯」
湊が言葉を選ぶ事が出来ず、顔を落とすと突然抱き寄せられるようにしてお湯とはまた違う温かさが身体を包んだ。
「ふふっ⋯⋯師匠は欲張りさんなんですね。一つこのままで聞いてくれませんか?」
頭上から優しげな声が響き、湊はエルの腕の中でこくりと頷く。
普段の湊であれば即座にエルの腕を離し、狼狽しまくっていただろう。
だが湊は特に抵抗するでもなく、耳を傾ける。
絶対に聞き逃してはいけない、今後の二人を左右するようなそんな気がするから。
「師匠、私は今こうして一緒に居られるだけで幸せなんです。私は師匠に尽くします。私の全てはすでに師匠の物なんですから。もちろん師匠が行こうと言えば私は何処へでもついて行きます、師匠が戦おうと言えば、どんな敵とでも戦います。師匠が死んでと言えば多分エルは何の躊躇もなく死ねるんです」
そんな言葉が頭上から響いてきて、湊は拳に力を入れてしまう。
「師匠は本当に優しいです、いつも復讐復讐と言ってますが実は復讐ではなく妹を助けたい一心だと言うことも知っています。その為に師匠には力が必要な事も、私は師匠の力になりたいんです。だからエルは湊が困ってしまうような事は何も望みません。妻は夫を支える者、そうなりたい私が枷になんてなるわけないんです。」
心中を語る様に胸に手を当て目を閉じ、そう紡いで言ったエルはそっと腕をほどき、目を合わせにっこりと微笑んで来た。
湊はそれに対してどんな表情を取ればいいのか分からなかった。
ただなんとも言えない感情が胸の中で強まるのを感じでいた。
湊は何かしらの批判する言葉を掛けられると思い、それでもとお願いしようと覚悟して聞いたのだが帰ってきたのは、悲哀の言葉でも憤怒の言葉でもなく、優しく全てを包み込む様な言葉だったのだ。
(俺なんかには勿体無さすぎるよな、本当⋯⋯それでもこんな俺をこんなにも好きで居てくれてるんだ。だから俺は迷わない⋯⋯)
「ありがとな、それで少し話があるんだ⋯⋯でも⋯⋯ここで二人で話すってのもなんだからもう上がらないか⋯⋯?」
「はい。先に良いですよ?」
「⋯⋯⋯⋯いや⋯⋯あの⋯⋯⋯⋯」
先程までの雰囲気は何処へやら、湊は思わず汗を垂らした。
その切り返しは非常に困るのだ、だって──。
「ん? どうかしました?」
「俺タオルとか巻いてないから⋯⋯」
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
エルはきょとんとして、湊を見つめ沈黙が訪れる。
だがそれも数秒と経たず崩れることになった。
「⋯⋯あのー、きりゅ⋯⋯くーん⋯⋯居ないの? 勝手に⋯⋯たけど」
突然誰かの声が微かに聞こえ、我に帰る二人。
「だ、誰か敵が侵入したようですね。エルと師匠の愛の巣を⋯⋯許せません、排除して来るので少し待ってて──」
「いやいや、多分敵じゃないから排除はいいんじゃない!?」
エルの愛の巣宣言が少し気になったがあえて無視し、突然の侵入者にエルの瞳がぎろりと光ったのに、慌てて制止をかけた。
(はぁ⋯⋯なんか凄く残念な気分⋯⋯)
「電気は付いてるのに、居ないですね⋯⋯でも靴は有るし、しかも二人分⋯⋯!?」
(あ、やばいなこれ⋯⋯何か嫌な予感がしてきたわ)
外から「まさか⋯⋯自分の部屋にまで⋯⋯」なんて言葉が聞こえ、湊は身の危険を感じ始める。
「なぁエル、一つミッションが出来た。ここがバレるのは時間の問題だ、お前は先に上がってくれ、もちろん外の奴にバレないように、出来るな?」
「師匠の愛の命令⋯⋯分かりました」エルがそう答えると同時エルの右手に光が灯る、が、エルはそれを止め振り返ってくる。
「どうかしたのか?」
「いや、もしバレなかったらご褒美が欲しいです」
「さっき何も望まないって言ったよな!?」
「それとこれとは別の話なんです! なんかああ言った方が本当に尽くしてるみたいでカッコいいじゃないですか!」
先程の優しげな雰囲気は微塵も感じられない勢いのエル。
第三者の出現で性格が戻ったのだろう。
体はそのままで性格だけが少し幼くなったイメージだ、先程までの大人な可愛さから少し雰囲気が丸くなりこれまた可愛い⋯⋯。
そんな事を不意に考え、湊ははっと首を振ると「わ分かったから、早く!」そう答えた。
「やったー!」とガッツポーズを取ったエルは即座に集中するかの様に笑みを消す、とすぐに右手に再び光が灯った。
空気がチリチリと電気を帯びているかの様に湊の肌に刺さる。
そしてエルが得意の瞬間転移をしようとした瞬間、「ここですね!」透き通る綺麗な声音と共に、風呂場が思いっきり開かれた。
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コメント
ノベルバユーザー271431
凄く良かったです。次も楽しみにしてます。