は、魔王?そんなのうちのブラコン妹の方が100倍危ないんだが

プチパン

12話 無窮の愛は激しく熱くそして強く

 舞い戻ってきた二人は頭まで深く覆った羽織ものを着ており、その姿はよく分からない。
 が恐らく声音の高さから二人とも女性だろう。
 ハクヤは命の恩人、とも言える二人に頭を下げた。


「助けてくださり、ありがとうございます」


 二人の救世主はどうしてか顔を見合わせ、そして頷きあう。


「ち、ちなみに一つ聞いていいですか? 2人で全部倒せちゃったりすんですか?」


「無理です」
「無理ね」


「「「⋯⋯⋯⋯」」」


「え⋯⋯マジですか?」
「「マジです」」


 曇天から覗く光が閉ざしたかの様なそんな感覚にハクヤの頬を汗が伝る。


「なら⋯⋯逃げるのは?」


「私達二人なら出来ると思いますが、負傷している君とそこの女の子を庇ってとなると⋯⋯無理だと思います」


 右側の少女(恐らく歳はそう離れてないと推測)が礼儀のありそうな落ち着いた声で答えてくれる。
「もしかして、もしかしなくても今やばい感じですか⋯⋯?」
「そういうことー」


 その問いに対しては左側の少女が答えてくれた。
 こちらは対照的に、明るい声だ。
 だが二人の声は少し震えてる様で、どうして助けてくれたのかそんな疑問が浮かんでくる。


「あの、どうして助けて⋯⋯」




 ピコンッ
 その音と共にスマホの画面が光り、通知が来たことを知らせてくれる。
 画面には《無窮の愛》使用可能10%と書かれてあった。
 どうやらようやく溜まってくれたようだ、能力は身体強化の類と書かれていたはず。


「溜まったっぽいな⋯⋯」
「溜まった⋯⋯とは?」


 二人はハクヤに目を向け首を傾げてくる。
 その間にも先程崩されたスライム達の陣営は再び元の囲む様な形に戻っていた。
 スライムのくせに本当に統率の取れた動きだ。


「ちょいと試したい事が有るのですが⋯⋯」
「もしかしたらこの場を打開出来る策がある、という事でしょうか?」
「まぁ、初めてだし分からないんですけど」


 だけどもし、このスキルが昨日のあの身体強化だとしたら不可能じゃないとさえ思える。


「はぁー? 何言ってるの? もうボロボロじゃない何が出来るのよ。大人しく後ろで──」


 強気な態度の最もな意見をもう一人が手で制し、後ろに下がらせる。
 制された少女はどこか不満げで「むぅぅ」と唸るような声を上げ、その声が可愛らしく、クレアの拗ねた姿が脳内に浮かび、剣を強く握りなおした。


「ありがとう、初めてスキル? を使うしどれくらいかも分からないから、もしやばそうだったらすぐに逃げてくれないか? 自分勝手だとは思うけど出来ればここで寝ている俺の妹もお願いしたい」


 クレアをその場で仰向けに寝させ、立ち上がる。


「え? スキル初めて!?」
「あ、あぁ」
「本当に大丈夫なの⋯⋯? まぁ、この子は守ってあげる⋯⋯何するかわかんないけど⋯⋯あんたのその目にかける事にしたよから⋯⋯死ないでよ」
「はいこの子は私達の命に代えてもお守りします。それより戦う前から死んだ後のことなんて考えるものじゃないですよ。この子が大切なら勝って見せてください」


 二人はそれぞれの反応を示し、そのどちらもハクヤとクレアを心配するものだった。
 だからこそ、これは失敗出来ないとハクヤは自分を奮い立たせるように答える。


「大丈夫大丈夫多分・・俺強いから」
「「多分?」」


「第一スキル無窮の愛エタニティーフォース実行」


 そう呟いた途端変化はすぐに起きた。
 体の芯から熱い何かが込み上げてくる、それは火の様に熱いようで決して不快では無くむしろ心地よい。
 そう、まるで誰かの事を凄く愛しいと思ってるそんな熱さ、なんでも出来る様な力がみなぎるのが分かる。


(あぁ、これならいけそうだ⋯⋯)


 ハクヤは自分の一番大切な存在、実の妹クレアを見、微笑んだ。


「な、なにこの魔力⋯⋯!? なぁ、レーナこんな魔力見たことある?」
「いや⋯⋯無いです⋯⋯規格外すぎます。少なくとも私が会ったことのある人の中では断トツでトップです」


 後ろで二人が驚いた様な声を上げるがハクヤには気にならない、ただ異常なまでの愛しさが身体中を巡る感覚に心踊らせつつも、意識を集中させる。
 今なら誰にも負ける気はしないし、実際に負けない何故かそう断言出来た。


「なんか今なら大丈夫そうだからあいつらやっつけてくるわ。クレアを少しよろしく頼む」
「「は、はぁ⋯⋯」」


 するとその瞬間、二人の少女は信じられない光景を見る事になる。


 その凄まじいほどのスピードと攻撃の力に
 その圧倒的なまでの速さと力の前に
 スレイム達は反応すら出来ずに結晶化していく。


 その光景はとても幻想的で今まで死と背中合わせをしていた事さえも忘れるほどだった。
 ハクヤはそれを自分が成してる事に驚きつつも、動揺はしなかった。
 何故かこれが当たり前な様なそんな感覚なのだ。


「やっぱ早いな⋯⋯ お前らスライム共、俺の可愛い可愛い妹を泣かせた罪は重いぞ!」


 ハクヤはそんな事を呟き、スレイムをひたすらに斬っていく。
 実際さっきまで素人同然の動きだったはずのハクヤの斬り方は、まるで舞を踊るかのように綺麗にそして的確な位置に刃を滑らせる熟練された動きはまるで歴戦の勇者を思わせるものだった。


 その舞と共に舞い散る結晶、それは一つの芸術である様に美しく、それを見たものは誰しも心を奪われる事だろう、現に二人の少女は驚きの声すら忘れその剣技に見入ってしまっていた。


そしてたった数十秒・・・後ハクヤは一撃も反撃をさせる事なく、圧倒的な力でスレイムを殲滅していた。

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