竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

88.エルフとのお別れ

 アルフヘイムへ戻り、すぐに統括理事の皆さんにガルラード帝国との話の内容を伝える。


 皇帝自ら調印に出向くと聞き今後のガルラード帝国との関係が上手く行きそうな予感を覚えた一行であった。出向くという事はエルフよりも帝国が格下って事だからね!


 プライドをかなぐり捨て、デスラード皇帝がそこまでするならもう侵略は行われないでしょう。


 それでも人はまた争うか……クロやオルナスとの会話を思い出すと憂鬱になるが、まぁ先々の事は今考えても仕方がない。今は目先の事を考えよう。


 俺達は調印、ダムの施工が終わるまでここに滞在する許可をもらっている。その間にスヴァルトアルフヘイムの観光もさせてもらったりした。ドワーフ達は本当に地下に住んでいたが、何故か地下なのに寝る時以外は明かりが点いていて、地下にいるのを感じさせない空間だった。ゲームや小説でお馴染みの鍛冶師も地下の工房には沢山いて、珍しい剣や、槍、弓などを見せてもらった。中でも興味を引いたのは――やはり魔剣、魔槍、魔斧、魔弓などの希少な魔石を使った魔道具だった。さすがに神剣であるカラドボルグ程の物はなかったが、皆でわいわいと楽しく見て回った。


 そうしているうちに外の景色は雪景色に変わる。


 あまり雪深くなる前に皇帝が来る手筈になっていたが、明日到着すると先触れから連絡が入ってきた。思っていたより少しだけ早い。


 俺と娘達は統括理事の皆さんと、デスラード皇帝、トカレス執政大臣がお互いに誓約書に署名しているのを焼けた木々の傍の高台から見ていた。


 この調印が終われば、いよいよダム建設は始まる。


 ダムの構想は概ね、統括理事の皆さんに伝えてあるので、俺のする事は実際は無い。


 やっていないからわからないけど、俺って使える魔法と使えない魔法の差が激しくて……。


 出来る人達がいるなら、手を出さないでいる。


 こういうのをあれでしょ?


 適材適所っていうんでしょ!


 ――調印から1ヶ月。
 辺り一面に雪が積もっており、俺が生まれてからは始めての積雪を体験していた。


 昔は宮城の家の周辺も1mくらい雪が積もったりした事もあったようだけど、俺が生まれてからは精々積もっても40cm程度だった。


 そこで完成してまだ水の入ってないダムの底で、皆で雪合戦やかまくらつくりをした。


 雪合戦にはヘメラも参加してこんなもの子供の遊びなんだぞ! とか言いながら一緒になって緩めに握った雪を投げ合った。流石に中に石を入れて、きつく握って殺傷力を高めるなんて真似は誰もしなかったが……。
 それでもパワーレベリングでレベルが上がっているみんなの威力は高い。俺に関しては完全物理防御の恩恵もあって当っても痛くないしで、かなり手加減をしてはいたが――。それなりに楽しんだ。
 鎌倉は直径2m位の大きめの鎌倉で中に入ると暖房をつけて無くても風を凌いでくれて暖かく感じた。実際は風の冷たさを感じないだけで寒いのには変わらないんだけどね!


 そんな平和な日常を過ごし、いよいよダムに水を入れる日がやってくる。


 山脈から流れ出てくる水源は年中凍ったりはしないが、春の種まきのシーズンにあわせて土地を作る必要から逸早く水を蓄えだした。
 ドワーフの土魔法で深さ30m、直径800mの大きさに掘ったダムに轟々と音を立てて水が入っていく。これが溜まったら、ゆっくりと水門を開け、ガルラード帝国の川に繋いだ水路を通し、水を流していく。
 後は、春になってからの植林だが、これは全てエルフの管轄で俺が立ち入る余地は無い為に植林を待たずしてアルステッド国に帰る事となる。


 いよいよ明日、アルステッド国に戻る事となり統括理事の面々やお世話になったエルフの人達、ドワーフの人達にお別れを言って回っていると、ニョルズが統括理事から預かったという箱を持ってやってきた。


「やぁ、いよいよ明日戻るんだね。本当に寂しくなるよ」


「俺はナンパ男なんて居なくても寂しくは無いんだが!」


「まぁまぁそう言わないでさ。そうそう、これを君たちにって預かってきたんだよ」




 そう言って渡されたものは、綺麗なブローチとネックレス型の魔道具が人数分で、その効果は魔法防御30%、異常状態無効30%、体力回復20%のエンチャントが付いたものだった。
 各アクセサリーにはそれぞれ同じ紋様が書き込まれており古代文字なのか? エルフの文字なのか? なにやらエルフの友情を記したものらしい。これがあれば世界中のエルフに信用されるとかなんとか言っているが、審議は定かではない。試して見ないと分らないしね!


「こんな貴重なアクセサリーを人数分も頂いて、本当にありがとう!」


「いいさ、どうせドワーフとエルフの細工師の手作りだからね」


 流石、一流の技術者を擁する職人の宝庫。これで皆が怪我を防げたり死に難くなったりしてくれたらいう事は無い。
 ニョルズには最後にまたアルステッド国に遊びにおいでよと社交辞令を残し別れた。


 そして翌日の早朝、皆に見送られながらクロに乗り込みアルフヘイムを旅立った。


 一面の雪景色に、クロの漆黒がよく栄えていた。



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