竜神の加護を持つ少年
81.大樹にて
エルフの案内で巨大樹の根元まで来ると、その大きさが良くわかる。直径50mはあると思われる程に太く高さは天を突く程でどこまで続いているのかまったくわからない。
その根元には学校の昇降口の様な入り口があった。中に入り、真っ直ぐに進むと10畳ほどの部屋に案内され中に入るとその部屋が浮遊しだした。
エレベータ!
まさかこんな近未来的なものがあるとは……。
皆は突然部屋が動き出した為に何事か! と身構えているが、日本ではおなじみの仕組みな為に皆に説明する。
「これは上の階に魔法の力で運んでくれる部屋みたいだね。問題は無い筈だから落ち着いて!」
「そうなのですか? そう言われれば、この浮いた瞬間はクロ様に乗った時に似ていますわね」
「多分もっと上の階に、統括理事の皆さんがいるんだと思うよ」
「はい。この最上階に統括理事の皆さんがおりまして、アルフヘイムはその手前に御座います。そもそもアルフヘイムは別名を天空の要塞と言われておりまして、住居は天空に御座います。またスヴァルトアルフヘイムはこの木の地下に御座いまして今回はお見せ出来ません」
案内してくれている細身で、胸が控えめな緑の髪のエルフさんがそう教えてくれた。
最上階に着くとそこは展望台になっており、上空には雲ひとつ無い青空が見えていた。少し下を覗けば、雲が絨毯の様に広がっているのが一望出来るだろう。
しかし驚かされるな。最上階に着いた時に振動すら無いなんて……これなら日本のエレベータよりも乗り心地はいい。むしろ日本のそれの方がスッと止まる、あの後を引く嫌な感覚があるだけ遅れているように思う。
こちらへと案内され、一つの部屋に入るとそこは円形の講義室の様になっており、講義する側が逆に高く聴く方の席が低い。見下ろされながら6人の統括理事が座っているのが見える。
俺達が席につくと、一番中央の席の統括理事が語り始めた。
「この度は私たちの同胞を、ガルラード帝国の兵より救って頂き、またここまで連れ帰ってくれて感謝の念に堪えません。また古竜様におかれましてもお手間を取らせてしまい申し訳ありません。それで、私たち統括理事の面々にお話がおありだとか――伺いましょう」
俺はその場で立ち、今回のダムの件が可能かどうか確認してみる。
「私はアルステッド国で伯爵位を賜っておりますコータ・ミヤギと申します。この度のガルラード帝国との一件で――ご提案がございまして参りました。今回の誘拐は、切羽詰ったガルラード帝国の暴挙では御座いますが、このままこの問題を放置すれば、近い将来周辺国にとって好ましくない未来しか見えてきません。そこでご提案なのですが、アルフヘイムの水源の下流に大きな水溜りを作り、その水をガルラード帝国へ流して頂く訳にはいかないでしょうか?」
「それは私達エルフにガルラード帝国の命綱を預けるという事になりますが、それを承知で仰っているのでしょうか? ガルラード帝国がそれを飲むとは思えませんが」
「水が無ければガルラード帝国に先はありません。この提案を受けざるを得ないでしょう」
「ガルラード帝国の今までの確執と今回の暴挙で、エルフの感情は著しく悪化しております。当方にそれを行うメリットがあるかと問われれば全く無いと思われますが?」
あーダムを作る事のメリットか……それを言われるとガルラード帝国側に配慮した内容だから無いんだよね。
「将来のガルラード帝国や周辺国との、和平の為では駄目でしょうか?」
「仰っている意味はわかります。ガルラード帝国をこのまま放置すれば必ずや何らかの軍事行動に走らざるを得ませんからね。ですが、それとエルフが協力するかは別問題です。ガルラード帝国が軍事行動に出たとしても、このアルフヘイムの結界の前に成す術もないでしょう。後は、周辺国のあなた方が対処する問題です」
あーばっさり切られちゃったよ。
「お話は以上でしたら、本日は歓待の用意をさせておりますので、案内役に従って頂き会場へ足をお運びください」
俺達は、さっきエレベータで案内してくれた緑の髪のエルフさんの指示で再度エレベータに乗り下の階へと降りていった。
広い広間に席が設けてあり、すでにニョルズ達とはいってもアルフヘイム側のエルフだけだが。席について待っていた。
「統括理事の皆さんの話は如何でしたか?」
俺はあまり芳しく無い旨を伝えたが、想像していた通りだった様で……。
「やはりそうですか。私達は過去にガルラード帝国に攻め込まれても結界で完全に防いでいたので仮にガルラード帝国が今以上の暴挙に出ても十分対処出来ると思っていますからね」
あらら……。
俺本当にこの物語の主人公なのかな? 実は【竜神クロの最強伝説】とか【竜神の子育て奮戦記】とかそんなタイトルじゃないよね!
14歳の頭でダムまでは考えたけど、エルフのメリットってなんだよ!そんなのどっかの営業マンにでも話もっていけよ。
席に着くと助けたエルフの親族の皆さん達から感謝の言葉を贈られ、豪勢な食事でもてなされた。頭の中ぐしゃぐしゃで料理の味なんて分らなかった俺だけ不幸じゃん!
歓待の席も終わり、その日は階の中層にある宿泊施設の様な場所に寝室が用意されていた。もちろん女性陣とは別の部屋ね。
深夜眠れなくて、同フロアにある展望室から暗い空しか見えない外を見つめていると後ろから声をかけられた。
「コータさんも眠れないんですか?」
「そういう、アルテッザも?」
「はい、この様な高い場所に宿泊した事は一度も無いですから。なんか落ち着かなくて……」
「それはそうだよね。この世界で多分一番高い場所がこの大樹だもん」
「昔の御伽噺の本では見知っていましたけど、本物は初めてでしたし、本当にあるとは――」
思ってもいなかったそうだ。そりゃそうだよね。普段は結界で隠されたそう昔のアニメのバベルの塔の様なものが実在したらどきどきわくわく感が半端ねぇ! 筈なんだけどね。
俺の心は意気消沈。
「そうだよね。俺達がいるこの場所は御伽噺の世界の中と同じだもんね」
実際に人間でここに来たのは、もう何百年以上も昔の事らしい。
「でもコータさんは、あまり驚いては居なかった様に見えましたけど?」
「うーん、どこまで話していいか? 信じられないかも知れないけど……。俺の居た場所はこの世界よりもっと科学というものが発展していて、馬車の代わりは馬が引っ張らない鉄で覆われた箱をその科学の力で走らせ、人はそれを操る。その馬車が15台位繋がって大勢の人を運ぶ箱が走り。海には鉄の船が行き交い。空には大きな鉄の船――もっとも向こうでは飛行機って言うんだけど、それが大勢の人を乗せ飛び。建物はここの大樹ほど高くは無いけど、雲にかかる位の高さのものがあり。電話という遠い場所に居る人といつでも話が出来る魔道具の様な物を人は1人、1台は持っている様な所だったんだ。だからかな? この大樹の高さには驚いたけど、階段を使わなくても自動で上に上がってくれる魔道具の様なものは向こうにもあったから。みんな程、驚きはしなかったんだよね」
「なんか不思議な世界からきたんですね! コータさんは。でも遠く離れていても好きな人と話せる魔道具はいいですね! 寂しくなってもいつでも話せるなんて」
アルテッザが胸の前で両手を握りしめながら羨ましいです。と語った。
「慣れちゃうと感動も何も無いけどね」
「それでも夢の様な世界じゃないですか!」
こっちの世界に来たからにはもう戻れない。俺にとっても。夢だったとしか思えないな。
「それでコータさんは、何を悩んでいたんですか――私にはお見通しですよ」
最後にウインクしながらそう言うアルテッザがとても可愛い。
「どうしても、統括理事が提示したエルフにとってのメリットが出てこないんだよね」
「大丈夫です! コータさんなら出来ますよ! これまでだって私達を盗賊から救い。タマちゃんも救い。海洋国家エジンバラに乗り込んで、ギャフンと言わせて……。ブリッシュ王国を潰し差別の無い国を築いた立役者なんですから! 私。信じていますよ」
琥珀色の大きな瞳で真っ直ぐこちらを見つめながら自信満々でそう語った彼女が愛おしく、
本当に綺麗だとそう思った。
その根元には学校の昇降口の様な入り口があった。中に入り、真っ直ぐに進むと10畳ほどの部屋に案内され中に入るとその部屋が浮遊しだした。
エレベータ!
まさかこんな近未来的なものがあるとは……。
皆は突然部屋が動き出した為に何事か! と身構えているが、日本ではおなじみの仕組みな為に皆に説明する。
「これは上の階に魔法の力で運んでくれる部屋みたいだね。問題は無い筈だから落ち着いて!」
「そうなのですか? そう言われれば、この浮いた瞬間はクロ様に乗った時に似ていますわね」
「多分もっと上の階に、統括理事の皆さんがいるんだと思うよ」
「はい。この最上階に統括理事の皆さんがおりまして、アルフヘイムはその手前に御座います。そもそもアルフヘイムは別名を天空の要塞と言われておりまして、住居は天空に御座います。またスヴァルトアルフヘイムはこの木の地下に御座いまして今回はお見せ出来ません」
案内してくれている細身で、胸が控えめな緑の髪のエルフさんがそう教えてくれた。
最上階に着くとそこは展望台になっており、上空には雲ひとつ無い青空が見えていた。少し下を覗けば、雲が絨毯の様に広がっているのが一望出来るだろう。
しかし驚かされるな。最上階に着いた時に振動すら無いなんて……これなら日本のエレベータよりも乗り心地はいい。むしろ日本のそれの方がスッと止まる、あの後を引く嫌な感覚があるだけ遅れているように思う。
こちらへと案内され、一つの部屋に入るとそこは円形の講義室の様になっており、講義する側が逆に高く聴く方の席が低い。見下ろされながら6人の統括理事が座っているのが見える。
俺達が席につくと、一番中央の席の統括理事が語り始めた。
「この度は私たちの同胞を、ガルラード帝国の兵より救って頂き、またここまで連れ帰ってくれて感謝の念に堪えません。また古竜様におかれましてもお手間を取らせてしまい申し訳ありません。それで、私たち統括理事の面々にお話がおありだとか――伺いましょう」
俺はその場で立ち、今回のダムの件が可能かどうか確認してみる。
「私はアルステッド国で伯爵位を賜っておりますコータ・ミヤギと申します。この度のガルラード帝国との一件で――ご提案がございまして参りました。今回の誘拐は、切羽詰ったガルラード帝国の暴挙では御座いますが、このままこの問題を放置すれば、近い将来周辺国にとって好ましくない未来しか見えてきません。そこでご提案なのですが、アルフヘイムの水源の下流に大きな水溜りを作り、その水をガルラード帝国へ流して頂く訳にはいかないでしょうか?」
「それは私達エルフにガルラード帝国の命綱を預けるという事になりますが、それを承知で仰っているのでしょうか? ガルラード帝国がそれを飲むとは思えませんが」
「水が無ければガルラード帝国に先はありません。この提案を受けざるを得ないでしょう」
「ガルラード帝国の今までの確執と今回の暴挙で、エルフの感情は著しく悪化しております。当方にそれを行うメリットがあるかと問われれば全く無いと思われますが?」
あーダムを作る事のメリットか……それを言われるとガルラード帝国側に配慮した内容だから無いんだよね。
「将来のガルラード帝国や周辺国との、和平の為では駄目でしょうか?」
「仰っている意味はわかります。ガルラード帝国をこのまま放置すれば必ずや何らかの軍事行動に走らざるを得ませんからね。ですが、それとエルフが協力するかは別問題です。ガルラード帝国が軍事行動に出たとしても、このアルフヘイムの結界の前に成す術もないでしょう。後は、周辺国のあなた方が対処する問題です」
あーばっさり切られちゃったよ。
「お話は以上でしたら、本日は歓待の用意をさせておりますので、案内役に従って頂き会場へ足をお運びください」
俺達は、さっきエレベータで案内してくれた緑の髪のエルフさんの指示で再度エレベータに乗り下の階へと降りていった。
広い広間に席が設けてあり、すでにニョルズ達とはいってもアルフヘイム側のエルフだけだが。席について待っていた。
「統括理事の皆さんの話は如何でしたか?」
俺はあまり芳しく無い旨を伝えたが、想像していた通りだった様で……。
「やはりそうですか。私達は過去にガルラード帝国に攻め込まれても結界で完全に防いでいたので仮にガルラード帝国が今以上の暴挙に出ても十分対処出来ると思っていますからね」
あらら……。
俺本当にこの物語の主人公なのかな? 実は【竜神クロの最強伝説】とか【竜神の子育て奮戦記】とかそんなタイトルじゃないよね!
14歳の頭でダムまでは考えたけど、エルフのメリットってなんだよ!そんなのどっかの営業マンにでも話もっていけよ。
席に着くと助けたエルフの親族の皆さん達から感謝の言葉を贈られ、豪勢な食事でもてなされた。頭の中ぐしゃぐしゃで料理の味なんて分らなかった俺だけ不幸じゃん!
歓待の席も終わり、その日は階の中層にある宿泊施設の様な場所に寝室が用意されていた。もちろん女性陣とは別の部屋ね。
深夜眠れなくて、同フロアにある展望室から暗い空しか見えない外を見つめていると後ろから声をかけられた。
「コータさんも眠れないんですか?」
「そういう、アルテッザも?」
「はい、この様な高い場所に宿泊した事は一度も無いですから。なんか落ち着かなくて……」
「それはそうだよね。この世界で多分一番高い場所がこの大樹だもん」
「昔の御伽噺の本では見知っていましたけど、本物は初めてでしたし、本当にあるとは――」
思ってもいなかったそうだ。そりゃそうだよね。普段は結界で隠されたそう昔のアニメのバベルの塔の様なものが実在したらどきどきわくわく感が半端ねぇ! 筈なんだけどね。
俺の心は意気消沈。
「そうだよね。俺達がいるこの場所は御伽噺の世界の中と同じだもんね」
実際に人間でここに来たのは、もう何百年以上も昔の事らしい。
「でもコータさんは、あまり驚いては居なかった様に見えましたけど?」
「うーん、どこまで話していいか? 信じられないかも知れないけど……。俺の居た場所はこの世界よりもっと科学というものが発展していて、馬車の代わりは馬が引っ張らない鉄で覆われた箱をその科学の力で走らせ、人はそれを操る。その馬車が15台位繋がって大勢の人を運ぶ箱が走り。海には鉄の船が行き交い。空には大きな鉄の船――もっとも向こうでは飛行機って言うんだけど、それが大勢の人を乗せ飛び。建物はここの大樹ほど高くは無いけど、雲にかかる位の高さのものがあり。電話という遠い場所に居る人といつでも話が出来る魔道具の様な物を人は1人、1台は持っている様な所だったんだ。だからかな? この大樹の高さには驚いたけど、階段を使わなくても自動で上に上がってくれる魔道具の様なものは向こうにもあったから。みんな程、驚きはしなかったんだよね」
「なんか不思議な世界からきたんですね! コータさんは。でも遠く離れていても好きな人と話せる魔道具はいいですね! 寂しくなってもいつでも話せるなんて」
アルテッザが胸の前で両手を握りしめながら羨ましいです。と語った。
「慣れちゃうと感動も何も無いけどね」
「それでも夢の様な世界じゃないですか!」
こっちの世界に来たからにはもう戻れない。俺にとっても。夢だったとしか思えないな。
「それでコータさんは、何を悩んでいたんですか――私にはお見通しですよ」
最後にウインクしながらそう言うアルテッザがとても可愛い。
「どうしても、統括理事が提示したエルフにとってのメリットが出てこないんだよね」
「大丈夫です! コータさんなら出来ますよ! これまでだって私達を盗賊から救い。タマちゃんも救い。海洋国家エジンバラに乗り込んで、ギャフンと言わせて……。ブリッシュ王国を潰し差別の無い国を築いた立役者なんですから! 私。信じていますよ」
琥珀色の大きな瞳で真っ直ぐこちらを見つめながら自信満々でそう語った彼女が愛おしく、
本当に綺麗だとそう思った。
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