竜神の加護を持つ少年

石の森は近所です

74.エルフとガルラード帝国の事情



「助けて頂いて有難う御座いました」


 緑が混ざったような金色の髪で顔は面長、色白の肌で、耳は少しだけ上にツンっと伸びている。
 このエルフのフレイさんがそう俺にお礼を言って来た。


「助けてもらって感謝する」


 そう言ったのは、濃い茶色の髪で丸顔、色黒の肌色で、口髭と顎髭が20cmはありそうな背の高いドワーフのユミルさんだ。
 俺のイメージ崩れたよ! ユミルさんが身長190cm位、フレイさんが180cm位でどちらも長身だが、ドワーフが背が高いなんてね!


「別に助けた訳では。ここはもうアルステッド国内ですから」
「そういって貰えるとこちらも助かる」


 フレイさんがそう言って頭を下げるが別にそんな礼はいらない。


「それでどうして追われていたんです? ガルラード帝国に対しアルフヘイムは何かしたんでしょうか?」


「いえ。元々私達、森の民は外の国とは一線を引いていますので、こちらから何かをすると言う事はありません」


 どう? クロ、何か嘘とか違和感とかはない?


「ヴァンの眷属よ、何を隠しておる!」


 げっ。クロ喋りやがった!


「この声は……どこかr」


 言い終わる前に、俺の肩に乗るクロに気づいたようだ。


「まさか、こんな所で古竜様と御会いする事が出来るとは」
「まだ我の話は終わってはおらん」
「ヴァンの眷属が何を隠しておる?」


 ヴァンってなんだよ! そんなの初めて聞いたわ!


「古竜様はヴァン様をご存知で?」
「当然であろう? 永きに渡り、このオーランドットに在るのだから」
「今の我等には、ヴァン様と言葉を交わせるものはおりません」


 残念そうにそう語るフレイだったが、それを無視してクロの尋問が続く。


「お主等がヴァンの怒りを買うとはな。此度の争い、何が原因だ!」


 俺には全然話が見えないんだが……。


「我等が怒りを買った? 何の事でしょうか!」


「神と同じ名を持つ割に、そんな事もわからぬとは」


 何それ?


「あなた様は、一体何を知ってらっしゃると言うのです!」


 フレイが何やら興奮して言うが、クロは全く意に介さない。


「まだ孤児院の娘の方が聡かったがの」


 あーそういえば、孤児院の院長もフレイだったな。何か関係あるのか?


「孤児院のフレイ? それは同属の女性のフレイの事でしょうか?」


 あーやっぱり知り合いなのか。


 クロはそれっきり黙ってしまった。


「女性のフレイさんなら俺も知っていますよ。現在はこの国の王都で孤児院の院長をされてらっしゃいます」
「おぉ、是非そこに案内しては貰えないだろうか?」


 何それ? どんな展開?


 他の娘達と相談して今回トーマズの街に必ずしも行く必要は無いという結論に達し、
 このエルフたちを王都へ案内する事になった。


 俺の馬車の後ろをエルフ達の乗った馬車が着いて来ている。あの馬車の中には後4人のエルフと二人のドワーフが乗っているそうだ。


「それで今回、ガルラード帝国に追われていたのは誘拐された同属を救出した為って事ですけど、そもそも何故、ガルラード帝国はエルフを攫ったんです?」


 そう、俺の御車席の隣にはさっきのフレイが乗っているのである。
 一応、話を聞かないと何とも言えないんで、道すがら聞こうとこっちに乗ってもらったのだ。
 久しぶりに一人じゃないよ! 男だけどね!


「ガルラード帝国がここ近年、飢饉や災害が酷いのはご存知ですか?」


 あーそんな話を前に聞いたな。俺が頷くとフレイが語り始めた。


「そもそも。我等エルフも、ドワーフも一部の者以外は外の世界には無関心だったのです。ですが30年前からガルラード帝国は、災害で土は枯れ飢饉が激しくなり、挙句の果てに魔獣によるスタンピードで困窮した。困ったガルラード帝国が我等エルフと接触を図り、その対策を打とうとしましたが――我等がそれを断った事でより問題が大きくなりました。」


「何故、エルフが断ったのか伺っても?」


「先程も言いましたが、我等エルフは神の眷属とされ下界、この人間の住む世界ですね。それとは一線を画していました。まして、ガルラード帝国は昔にエルフの森に侵略を試みた事のある国です。その様な国がどうなろうとエルフの民は関心を示しませんでした。それで幾度も使者を送られても拒絶していたのですが……」


 なるほど。とうとうガルラード帝国が業を煮やして過去と同じように攻め込んだと……。


「ふん! 所詮、自分かわいさで他者を切り捨てようとしたお主達にも問題があった訳だ。過去に侵略された? そんな人間でさえ覚えておらん事をいつまでもぐちぐちと……」


 永い生を持つのも問題じゃのぉ。とクロの辛辣な発言がきたわー。


「では古竜様は、ガルラード帝国に救助の手を差し伸べればいいとおっしゃるのか?」
「逆に聞くが何故それが出来ぬ? そもそも侵略の話はいったい何百年前の話じゃ?」


 そ、それは……とフレイが呟いて黙ってしまった。


 えっ? それって何百年も前の話なの?
 それをエルフが根にもって? マジ!
 なんかエルフへのイメージ崩れるわー。


「そんな事をしておるから、ヴァンにも見放されるのじゃ」


「そ、そんな……」


 あーあ。めっちゃ凹んでる、凹んでるよ! このエルフさん。


 それも当然だよね!自分たちは何百年も生きているから昔、侵略された事を生々しい記憶として覚えているけど、この世界の人間の寿命はせいぜい65歳――。そんな過去の話はきっと覚えていても伝承の類でしか知らないんだからさ。昔、エルフの森にお前らの先祖が侵略したから、困っていても救いの手など貸さない!とか言われたらね。普通の人間からしたら俺達がやった侵略じゃないのにいったいいつまでグチグチ根に持っているんだ! って話も分る。
 そんなんじゃ神様だって呆れて見放してもおかしく無いでしょうよ。神様にも感情があるか……前にクロが言っていたな。


 あれ?でもポントスって根に持つタイプなんじゃなかったっけ?


 それは特別なのか?


 そう思っていたら翼でドツかれた。まだ尻尾じゃないだけ良かったわ!



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