チートで勇者な魔神様!〜世界殺しの魔神ライフ〜

solbird

告白

深夜。闇で覆われた予選前日の夜。
ツカサは腕の中に眠るアカツキの頭を撫でて起き上がる。
気まぐれに散歩でもしようかと部屋を出ると、1階のバーの明かりが薄らと漏れていた。

(…?誰かいんのか?)

ツカサは誰がいるのか気になり、階段を降りてバーの扉を開く。

「…ん?よお」
「よお」

フェンがいた。
どうやら酒を飲んでいるようだ。
部屋の中に客はフェン以外にはおらず、オッサンのバーテンダーが無言でひたすらグラスを磨いている。

ツカサはフェンの隣に腰掛ける。

「…蜂蜜酒で」
「はいよ」

すぐに蜂蜜酒が入ったコップが目の前に置かれ、バーテンダーはまたグラスを磨き出す。

静かな時が流れる。
互いに何も言わずにただただグラス傾け、喉にアルコールを流し込む。
…そして、その静寂を破ったのはフェンだった。

「…なあ」
「なんだ?」

ツカサはフェンの言葉を待つ。
バーテンダーはどこかに下がっていった。
空気を読んでくれたのだろう。

「私ってさ…世界を殺したんだろ?」
「…ああ、そうだ」
「……だったらさ………俺は、仲間を…殺してるんだよな?」
「……」

ツカサは言葉に詰まる。
世界を殺す。それはつまり、その世界に住まう生物全てを殺したという事でもある。

「私の研究所の馬鹿共はさ…馬鹿なことばっかりやって研究所爆破させたり、村の人達にも沢山迷惑かけて…でも、それと同じくらい村の人達を助けたりして…馬鹿だけど、いいヤツらだったんだ…」
「………」

ツカサは黙って話を聞く。
コップに入った酒に浮かぶ氷の音のみが響く。

「そんなある時…私達の研究所に魔王として名の知れていた竜の死体が送られてきたんだ。私達は僻地で研究させられていたが、皆優秀でな。研究材料を優遇してくれてたんだ…でも、魔王なんてのは迂闊に手を出していいもんじゃ無かったのさ」

コップの酒を一気に飲み干したフェンはコップを机に起き、肘をついて額に手をやった。

「いよいよ俺の肉体に逆鱗を移植してみようって時だ…絶対に安全だった。たとえどんなことが起こっても対処できるように対策を練って、保険だってかけた。…なのに、移植した瞬間に目の前が真っ白になった。それからはツカサの知るとおりだ。竜の魔神になった俺はお前に止められて、何の因果か魔神2人と旅してる」
「ほんと、数奇な運命だよな。魔神3人のパーティーとは…」
「全くだ…」

ツカサとフェンは2人で顔を向き合い、クックックッと笑い合う。
だがフェンは笑顔からまた少し暗い表情に戻り、ポツリと零す。

「つまり、私には帰る場所が無い。自分で壊してしまったからな…母さんも、親父も、アイツらも…もう会えない……」

フェンの声が震え、頬に一筋の涙が流れる。
(なんて声出してんだ。お前はそんな奴じゃないだろう)

「もう会えないけどよぉ…俺、皆にもう顔向けできねぇよ…会いてぇよ……」

ツカサは、肩を震わせるフェンの頭を何も言わずに撫でた。
サラサラな長い髪の毛、いつも返り血まみれになってるとは思えない。

「ツカサぁ…」
「………」

いつも強引で破天荒、唯我独尊を地で行くフェンがこんなにしおらしくなっている。

(世話の焼ける奴め…)

ツカサは少し躊躇し…フェンを抱きしめた。
フェンは変な声を上げて硬直する。

「お前らには俺らがいるだろう?世界殺しの大罪人仲間がな…お前のやった事はとんでもない事だろう、1人では背負いきれない事だろう…だから、俺達をもっと頼れ。仲間なんだから」
「…泣いて、いいのか?こんな事した俺が誰かを頼っていいのか?」
「おう。好きなだけ泣きな」

フェンがツカサの腕の中で泣く。
ツカサの服を掴んで、赤子のように。
ずっと辛かったのだろう。ずっと悩んでいたのだろう。
だが、今までフェンは俺達に一滴も涙を見せなかった。

「良く頑張ったなフェン」
「ありがとう…ありがとう…!」

ツカサは泣きじゃくるフェンが落ち着くまでフェンの頭を撫で続けた。
そして、呼吸が整ってきたところでふとフェンが顔を上げた。

「ありがとう…もう大丈夫だ……」
「そうか」

ツカサがフェンから体を離すと、フェンが少し名残惜しそうな表情を浮かべた気がしたが気の所為だろう。

「なあ、ツカサ」
「ん?」

フェンは少し悩んでから、言葉を紡いだ。

「ツカサは…前の世界でどんな人生を歩んで来たんだ?」
「………」

(その言葉は予想してなかったな…)
ツカサは真面目な顔になり、フェンに話すかどうか考える。
だが、悩んだのは少しの間だけだった。

「い、言いたくないならいいんだ。ただ気になってな!忘れてく…「俺は」

フェンの言葉を遮り、ツカサはポツポツと喋り出す。アカツキには簡単に伝えていたが、フェンに話すのを忘れていた。
過去を話してくれたフェンに対して自分は過去を話さないというのは「ズルい」というものだろう。

「俺の人生…いや、竜生は…無機質な水槽の中から始まった」

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