無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。
三章 42 『アーバンカル総力戦 11』
「覚悟はできとるな?では行くぞ!」
「ああ!やってくれ!」
タクミの返事を聞き、エドワードが刻印に魔力を込めていく。それと同時にタクミの体内に激痛が走った。
「あ、ああ・・・うあぁぁああああ!!」
あまりの痛みに叫び声を上げるタクミ。あまりの痛みにエドワードの手を払おうとした。
「タクミ!苦しいだろうけど今は我慢だよ!」
「耐えるんじゃ!」
その手をニーベルとワールドが必死に抑えた。
「うあぁああああ!!」
タクミが顔を苦痛に歪めている。その叫び声は辺り一面に響いていた。
その声にエレボスも気づいた。
「あれは一体何をしている・・?」
「あんたが気にすることじゃないわよ!よそ見してる場合じゃないわよ!」
エレボスの気を逸らそうとローゼが果敢に攻撃を仕掛ける。それにラザリーも協力してエレボスの足止めをしていた。
「ふっ。さすがは血のつながった姉妹だ。抜群の連携ではないか。だがそれでも私を止めることはかなわぬ!」
エレボスが立ちはだかるローゼとラザリーを同時に弾き飛ばした。
「きゃあ!」
「何をしているかは知らぬが、お前らの思い通りにはさせないさ!」
エレボスがタクミ達の元へと向かおうとした。
「タクミの邪魔はさせない!」
今度はアイズがエレボスを止めるように立ちはだかった。
「また貴様か!邪魔だ!」
「悪いが、私も忘れてもらっては困るぞ!」
アイズに襲いかかろうとしたエレボスをクリウスが横から斬りつけた。
「ちっ!貴様もまだいたか!小賢しい者共だ!全て滅ぼしてくれるわ!」
「詳しい事情は知らぬがタクミは今大事な時なんだ。お前に邪魔などさせない!私の全てを持ってしてタクミの元へは行かせない!」
「私も同じだ。大切な部下の邪魔はさせぬよ。魔法騎士団団長の名の元に貴様はこの先には一歩もいかせない!」
アイズとクリウスが同時にエレボスに剣を向ける。
「それは私達も同じよ!タクミの邪魔はあんたにはさせないわ!ねえ?ラザリー姉さん?」
「そうね。彼は私達にとっての希望なの。私たちの命に代えてもあなたをタクミの元にはいかせないわ!」
ローゼとラザリーも再び立ち上がりエレボスを包囲した。
「どいつもこいつも私の邪魔ばかりしおって!なぜだ!?あいつも異世界人だろうが!貴様らとは何も関係ないはずだ!それでなぜそこまでする!?」
皆の抵抗を受けて苛立っている様子のエレボス。
「タクミがどこの世界の人間かなんて私達には関係ないことなのよ!タクミはタクミ。タクミとあんたじゃ今までしてきたことが違うのよ!ただ復讐だけに生きてきたあんたと一緒にしないで!」
ローゼがエレボスに凛として言い放った。その言葉に同調するようにアイズ達もうなずいた。
「貴様らぁ!この私を侮辱しおって!もういい!貴様らの戯言など興味はない!貴様らもあの男も、この世界の全てを私の手で葬ってやる!この世界など滅ぼしてやるわ!」
怒りが頂点に達したエレボスはその力をすべて解放した。凄まじい魔力が充満していた。
「はぁ・・・・!ここで全員死ね!」
力を解放したエレボスは初めにローゼに襲いかかった。目に見えぬ速さでローゼの目の前に移動して、ローゼの首を右手で掴み、宙に持ち上げた。
「かはっ・・!」
ローゼの足が地面から浮いた。
「ローゼ!!」
ラザリーが声を上げる。あまりの速さに全員の反応が遅れてしまった。
「まずは私の事を侮辱した貴様からだ。その命をもって償え!」
エレボスがローゼを右手で持ったまま左手にドス黒い魔力弾を生成した。
「私は本当の事を言ったまでよ!あんたに償うことなんてありはしないわ!」
「そうか。だがお前がここで死ぬのは変えられぬ事実だ。これで終わ・・」
「・・・その手を放せよ。」
突然の声と同時にエレボスは何かに殴られ数メートル吹き飛んだ。
「ぐぉ・・!今のは一体なんだ?」
突然の出来事にエレボス自身も理解できていない様子だった。
「・・・え?今のは?」
ローゼも突然エレボスが手を離したことによってバランスを崩して地面に倒れそうになったところを受け止められた。
受け止められた先を見るとそこにはタクミの姿があった。
「タクミ・・?」
「あ?そうだよ。どうしたんだ?そんなポカンとして。何かアイツにされたのか!?」
「え?いや、私は大丈夫よ。それより今のは・・・?」
「俺の為に頑張ってくれてありがとうな。でも、もう大丈夫だ。あいつは俺が倒すからローゼは下がっていてくれ。」
「う、うん。わかったわ。」
ローゼはタクミの姿に少し動揺した様子だった。それはタクミの様子があまりにも普通だったからだ。その様子に少し拍子抜けのような印象を受けた。でも言葉に出来ない違和感をタクミから感じていた。
「今のは貴様の仕業か?何があったかは知らぬが驚いたぞ。この私に一撃入れるとはな!」
エレボスが立ち上がった。
「そうか?そんなに珍しかったか?なら遠慮せずに受け取れよ。」
そう言うとタクミは再び一瞬でエレボスの前に現れ、その腹部に強烈なパンチを繰り出した。
「ぐぉお!・・・・なんだと!?」
タクミのパンチに顔を歪めるエレボス。まともに殴られるなどしばらく経験してなかったことだった。
「・・貴様ぁ!いい気になるなよぉ!」
「エアーバースト」
「ぬあぁ!」
今度は見えない衝撃波がエレボスを襲った。再びエレボスの体は後ろに飛ばされた。タクミがエレボスを圧倒している。
「・・・凄い。あのエレボスを圧倒しているわ。あれがタクミの本当の力なの?」
目の前の状況にローゼが驚きを隠せずにいた。
「その通りじゃ、お嬢ちゃん。あれこそがタクミに秘められた力じゃったのじゃ。タクミは見事に苦しみに打ち勝ちよったわ。」
ローゼの後ろにエドワードの姿があった。
「エドワード大魔導士様!?タクミは一体どうなってしまったのですか?」
「タクミは劣等感の塊のようなやつじゃったわ。自分の事を無能だと思い、卑屈になっておってな。そんな状況で魔法の力を得てしまったもんじゃからな。もしかしたらタクミも道を踏み外してしまうんでないかと心配していたのじゃ。じゃからワシはあの刻印をタクミに施したのじゃ。しかし・・・」
「しかし?」
「タクミは少し見ない間に心に変化が見られた。良い方向にな。じゃからワシはタクミを信じてあの刻印を消すことにしたのじゃ。今のタクミの力はワシから借りていた魔力ではなく純粋に自分の魔力を使っておる。それがあの強さなのじゃ。全く驚かせよるわい。」
「そんなことが・・・。あれが本当のタクミの強さなのね。」
「そうじゃ。あとはタクミに任せるしかないの。あのエレボスという男を止められるのはタクミだけじゃ。」
そういってエドワードはローゼの肩に手を当てた。
「そうですね。タクミを信じましょう。」
ローゼはエドワードの言葉を聞き、優しくタクミを見つめていた。
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